第1話 魔空艇
生徒会との勝負から二週間後、ルイシャとそのクラスメイトたちは王城のすぐそばにある開けた土地を訪れていた。
「そろそろ来る頃かなあ、楽しみだよ」
ルイシャはそう言って空を仰ぎ見る。どうやら何かを待っているようだ。
クラスメイトたちもそわそわしながら空を見上げている。そんな彼らの様子を見て王子ユーリは
思わず笑ってしまう。
「みんなわかりやすくワクワクしてるね。用意した甲斐があったってものだよ」
「そんなこと言って〜、王子もワクワクしてたじゃないっすか! 知ってんすよぉ、昨日中々寝つけなかったこと!」
「な!? イブキお前なんでそのことを!?」
「うぷー、引っかかったすね!」
「お前カマかけたな!!」
二人がそんな風に騒いでいると、何かを見つけたヴォルフが声を上げる。
「おい! あれじゃねえか!?」
ヴォルフの指した指の先、そこには空にポツリと浮かぶ黒い点があった。
その黒い点はどんどんこっちに近づいてきて、その姿を徐々に明らかにする。
「すごい! あれが魔空艇!」
彼らの目の前にゆっくり降り立ってきたのは空飛ぶ船だった。長さは五十メートル以上はあろうか、大きな細長い風船が鎖で繋がれた船を持ち上げているような構造をしている。
この船は魔空挺の名に恥じず、魔力を用いて空に浮き航空する『空飛ぶ船』だ。つい最近実用化されたものでまだこの大陸に三機しか存在しない貴重な物だ。
ユーリはこの船を様々なコネを使って借りることに成功、天下一学園祭が行われる『永世中立国セントリア』までの道をこれでひとっ飛びする計画を立てたのだ。
「この人数を馬車で運んだらかなり大変だからね、説得できてよかったよ」
「そっすね王子。……それに魔空艇がどんなものか知ることも出来るっすからね」
「……ああ」
今回借りた魔空挺は商国ブルムから借りた物であり、エクサドル王国はこれを所持していない。
所持していないということは即ち魔空挺の情報がほぼ無いということを意味する。詳しい機構、運動性能、乗り心地などなど分かっていないことが多すぎる。
「今後戦争が起きれば魔空挺は絶対に運用されるだろう、少しでも勉強しとかないとな」
「そっすね、俺っちたちの代でこの国を滅ぼすワケにはいかねっすからね」
「当然だ」
二人はそう決意を固め、魔空挺に乗り込むのだった。
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