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第10話 決着

「ふえぇ……」


 シャルロッテは情けない声を出しながら地面に水音を響かす。

 死の恐怖から急に開放され安堵してしまった彼女はブレーキが効かなくなってしまったのだ。


(……どうしよう!!)


 自分のせいだ。

 ルイシャは自分のせいでシャルロッテがこんな事になってしまったと激しく後悔する。

 今はまだ近くにいる自分が陰になって見えてないだろうがこのままじゃ他の人にバレてしまうだろう。

 そうなったら……彼女は学園で永遠に陰口を言われるだろう。

 お漏らし勇者。失禁勇者。それくらいは言われかねない。


 シャルロッテが正気を保っていればまだ何とかする方法はあったかもしれないが、彼女は大衆の面前で粗相をしてしまったショックで放心状態だ。


(こうなったら、僕が何とかしなきゃ……!)


 そう思い至ったルイシャは高速で魔法を組み立て始める。

 使用するは魔王テスタロッサ直伝の暗黒魔法の一つ。


「暗黒魔法、『闇帳やみとばり』!」


 ルイシャがそう唱えると、巨体な真っ黒い正方形の空間が現れ、ルイシャとシャルロッテを包み込む。


「な、何だあれは!?」


 観客は戸惑うが得体のしれないその魔法に誰も近づかない。

 なので誰ひとりとして中で何が起こってるかわからなくなったのだ。


 そしてその空間の中でシャルロッテは正気を取り戻す。


「……へ? な、なに!? なんで周りが真っ暗になってるの!?」


 闇帳の中は黒い壁に囲われてるのにも関わらず明るかった。

 それだけじゃなくさっきまでうるさく聞こえていた歓声や風の音など一切の音がなくなっていた。


「大丈夫、僕の魔法で周りと空間を切り離しただけだから」


 突然の事態に怯えるシャルロッテをルイシャが優しく話しかけなだめる。


「空間を切り離した、ですって? そんな魔法聞いたことない……って言いたいけどあんたなら使えてもおかしくないか」


 納得したように言うシャルロッテ。

 すでに驚くのにも飽きてしまったようだ。


「ちょっと待っててね。今乾かすから」


 そう言ってルイシャは風魔法と炎魔法を組み合わせて温風を作り出すと、シャルロッテの濡れた服にあて乾かし始める。


「ちょ、ちょちょちょ……!」


 やめなさいよ! と叫びたくなるシャルロッテだが親切心でやってるルイシャを無下にする訳にも行かず言葉を飲み込む。

 その代わり耳まで真っ赤に赤面して涙目になるのだが、乾かす作業に集中しているルイシャは気づかない。


「よし、あとは魔法で消臭すれば……うん。これで綺麗になったね!」


「あ、ありがとう。助かったわ……」


 恥ずかしさで泣き出しそうになりながらも頑張ってそれを隠しながらシャルロッテはお礼を言う。

 その様子を見てもう大丈夫と判断したルイシャは闇帳を解除しようとするが、シャルロッテがそれを止める。


「待って! なんで私にここまでしてくれるの? あんなに酷いことをしたのに」


 シャルロッテの質問に、さも当然とばかりにルイシャはこう答えた。



「だって人が困ってたら助けるのは当然でしょ?」



 その言葉を聞いたシャルロッテは、まるで雷に打たれたような衝撃を受ける。

 確かに困ってる人を助けることはシャルロッテにとっても当然の行為だが、自分はルイシャの成績に嫉妬して助けるどころか足を引っ張ろうとしていた。

 ルイシャは悪人でもなんでもない、むしろ勇者として助けるべき民のはずなのに。


「ふふ、完敗、ね」


 実力だけでなく心まで負けたと悟ったシャルロッテだが、不思議と清々しい気持ちだった。

 むしろルイシャという超えるべき目標が出来たことで戦う前よりも強くなれる気がしたのだ。


「最初の非礼を謝らせてもらうわ、ごめんなさい」


 そう言って頭を下げるシャルロッテ。


「あんた、いえルイシャ、あなたの方が私よりも強いと認めるわ。心も体も、ね」


「そんな、僕なんてまだまだだよ。それよりシャルロッテさんもすごい強かったよ!」


 褒め合う二人はお互い気恥ずかしそうに顔を赤くする。

 さっきまで決闘をしていたとは思えない和やかな空気が流れる。


「じゃあ、この魔法を解くね」


「ええ」


 ルイシャが魔法を解除すると闇帳がボロボロと崩れ去っていく。

 それを見ながらシャルロッテはポツリと言う。


「わ、私のことを親しい人は『シャロ』って呼ぶわ」


「? そうなんだ?」


 話の意味がわからず首をかしげるルイシャ。

 そんな彼にシャルロッテは顔を赤くしながら続ける。


「だから、る……『ルイ』も私をそう呼んでもいいわよ!」


 そこまで聞いて言葉の意味を理解したルイシャは少し気恥ずかしそうにしながら言った。


「うん、これからよろしくね、シャロ!」


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