第4話 昼食
「いやあ、今日の相手は中々骨がありましたね大将。さすが最上級生と言ったとこでしょうか」
「そうだね、あんなに強い人がいたなんてびっくりだよ。もぐもぐ」
恋人の弁当に舌鼓を打ちながら、ルイシャはヴォルフにそう返事をする。
時刻はお昼。午前の授業を終えた彼らは校舎の外に設置してある六人がけのテーブルに座り、昼食を摂っていた。
メンバーはルイシャ、ヴォルフの二人の他にシャロとアイリスを入れて四人。いつもの面子だ。
ルイシャ以外の三人はそれぞれ自分で作った弁当を食べている。意外なことに粗雑に見えるヴォルフも料理は得意で、凝った料理を作ってくることもある。
そしてルイシャの目の前には……シャロとアイリス二人が作ったお弁当が置かれていた。クオリティ、ボリュームどちらをとっても自分自身が食べているものよりも高い。毎日二人は競うようにクオリティの高い料理を作っているのだ。
ヴォルフも自分の作ったものを食べてもらいたい気持ちがあるのだが、毎日鬼気迫る様子で弁当を出してくる二人のことが怖くて参戦することはできずにいた。
触らぬ神に祟りなし。彼の判断は正しかったと言えよう。
「うん、今日も美味しいなあ」
一方ルイシャは幸か不幸かそんなことには一切気づかず、幸せそうに二人のお弁当をムシャムシャ食べていた。
二人の女の子がバチバチ火花を散らしながら睨み合ってるとは気づかずに。
「はは、大将は相変わらず大物だぜ……」
その愛憎渦巻く戦いを一人第三者の目線で見ているヴォルフは疲れた様子でそう呟く。
そんないつも通りの食事時間を四人が過ごしていると、ある人物が訪ねてくる。
「やあルイシャ、楽しく食事をしている途中に悪いね」
「もぐ、あなたは……」
ごくん、と口に含んだものを飲み込みながらルイシャはその来訪者に目をやる。
その訪ねてきた人物をルイシャは知っていた。
「リチャードさん、さっきぶりですね」
「ああ、こんな顔で訪ねて悪いな」
その人物は朝ルイシャが決闘した三年生の男子生徒、リチャードだった。
戦いで負った傷は回復魔法で癒したようだが、殴られた右頬はパンパンに腫れ上がっている。切り傷に比べて打撲跡や腫れた箇所は魔法で治しにくいのだ。
もっとも常識外れの実力を持った回復術師であればその限りではないのだが、学園勤務の保険医ではその域には達していない。
「なあに復讐に来たわけじゃないから安心してくれ。あんなに気持ちよくぶっ飛ばされたらそんな気も起きんさ」
険しい目を自分に向けてくるルイシャ以外の三人にリチャードはそう弁明する。
ひとまずの彼のいう事を信じた三人は睨みつけるのをやめるが、警戒心は解かずいつでも戦闘態勢に入れるようにしていた。
リチャードはそれに気づいたが、本当に戦うつもりはなかったので堂々とルイシャの向かいの椅子に腰を下ろした。
「さて、まずはいきなり決闘を申し込んだことについて謝らせてほしい。済まなかった」
そう言って彼は深々と頭を下げる。
「そんな、いいですよ。僕も久々に戦えて楽しかったですし」
「いや、本当であれば正々堂々時刻と場所を決めて行うべきだ。今回の決闘の挑み方は不意打ち、とても条件がフェアとは言えない」
そう言って退かないリチャード。
しかしそれでもルイシャは揺るがなかった。
「僕はいつ何が起きても戦えるように特訓してます。だからそれでいいんです。むしろ決闘を申し込まなくても不意打ちしてきて構いません」
そう堂々と言い放つルイシャにリチャードは「完敗だな」と心の中で呟く。
実力だけでなく心の器でまで負けてしまっては嫌味の一つも出てこない。
「ふふ、君に負けたこと、誇りにすら思うよ。だからこれは親切心による忠告だ。君はもう生徒会に目をつけられている、十分注意することだ」
「生徒会が?」
「ああ、ゆめゆめ気をつけることだ。生徒会はこの学園きっての変人の集い。いくら君とは言え一筋縄ではいかないだろう」
リチャードはそうルイシャに告げると立ち上がり去っていくのだった。
「生徒会……か」
ルイシャは彼の後ろ姿を見送りながらそう呟くのだった。