第1話 いつもの朝風景
ルイシャの朝は早い。
日の出と共に起きた彼はまず寮から飛び出て日課の修行を始める。
まずは魔力を増やす特訓、寝て回復した魔力をまず空にするのだ。そうすることで魔力が回復するごとに最大魔力量が少し増える。一度に増加する量はそれほどでもないが毎日続ければその上昇量はとてつもないものになる。
気功も魔力と同様に使い切ることで鍛えられるのでそっちの特訓も怠らない。
ルイシャは無限牢獄を出てからもこの特訓を欠かしていなかった。
そして二つの力を使い切った後は王都をランニングだ。
朝の王都は涼しくて走るのが気持ちいい。ストレス発散と体力を鍛えるにはもってこいのトレーニングだ。最近は少しだけ魔力を残しておいて自分に重力魔法をかけて走ったりもしている。
そのおかげで体力と脚力がメリメリ上がっている。
「お! 坊主、今日も精が出るな! リンゴ食うか?」
「朝から元気ね、今度ウチの喫茶店に来てよサービスするから!」
街中を走っていると店を開く準備をしている人や散歩している人に声をかけられる。ずっとこの時間に走っているルイシャは街の人からすっかり顔を覚えられているのだ。
可愛らしい少年が頑張ってる様子を見れば応援したくなってしまう。毎日欠かさず走ってる様子を見ている街の人たちはルイシャのことが気に入ってしまったのだ。
「あはは、今日も色々貰っちゃった」
街の人たちはそんなルイシャに色々食べられる物を分けてくれる。寮に帰る頃にはルイシャの両手は塞がってしまっている。
「ただいま……と」
「お帰りなさいませルイシャ様」
寮のシャワーを浴び自室に戻ると、メイド吸血鬼のアイリスが朝食の準備をして出迎えてくれる。今日の朝食は新鮮な野菜をふんだんに用いたサンドイッチ。彼女は栄養のバランスと味に気を遣ったメニューを毎朝提供してくれるのだ。
ルイシャは最初は申し訳ないと断っていたのだが、彼女がどうしてもと毎朝押しかけてくるので遂に根負けしてしまった。
「うーん、今日も美味しいっ!!」
「ふふ、それは良かったです」
素直に褒められアイリスは頬を紅潮させて喜ぶ。
自分の作った物が愛する人の体内に入り身体を構成していく、その感覚がとても嬉しい。アイリスはすっかり変態になっていた。
そんなこと知る由もないルイシャは手早く朝食を済ませると制服に着替え、アイリスはその間に朝食の片付けをする。
「アイリス、今日って何やるんだっけ?」
「今日は午前中は座学、午後はポーション作りの実習がございます」
「あーそれがあったね。何か素材になりそうな面白い物あったかな?」
「でしたら世にも珍しい吸血鬼の血、など如何でしょう?」
「……アイリスって時々ふざけてるのか本気なのか分からないこと言うよね」
他愛のない会話をしながら二人は寮を出る。
すると外には二人の生徒が待っていた。
「おはよっ! ……ってなんでアイリスがもういるのよ、あんたまた忍び込んだでしょ」
「おはようございます大将。カバン持ちますぜ」
「おはよ二人とも。カバンなら自分で持つから大丈夫だよ」
ルイシャを出迎えたのはシャロとヴォルフだ。
寮から教室までは歩いて十分と短い距離だが、四人はいつも一緒に登校していた。
「朝から部屋に押し入るなんて迷惑に決まってるじゃない、あんたには常識ってもんがないの?」
「朝のお手伝いをするのは私の重要な使命です。いくらシャロでもそれを邪魔する権利はありません」
「きー! ねえルイ、なんとか言ってやってよ!」
「はは、二人は本当に仲良くなったねえ」
「これ見てそう言える大将はやっぱり大物だと思うぜ……」
ぎゃいぎゃいと喧しい登校風景。ルイシャはこの時間が大好きだった。