第74話 不安
「……ってことがあったんだよ」
「それは大変だったわね! 大丈夫? どこも痛くない!?」
「大丈夫だよテス姉、この通りピンピンして……ってどこ触ってんの!?」
魔将ウラカンとの激闘から二日後の夜。
ルイシャは無限牢獄の中にいた。そこで久しぶりに魔王テスタロッサと竜王リオに会ったルイシャは二人に今回の一件のことを話した。
ちなみに今はテスタロッサが魔法で作り出した家の中におり、丸い机を三人で囲んでいるのだがルイシャはテスタロッサの足の上に座らされていた。
抜け出そうにもテスタロッサの腕力は凄まじく、激闘を重ね強くなったルイシャの腕力でもそれを振り解くことはできなかった。
「ちょ、いい加減下ろしてよテス姉!」
「なんでそんなこと言うの!? お姉ちゃんのことがキライになっちゃったの!?」
「ああもう!」
テスタロッサにいいように弄り回されるルイシャ。
そんな見慣れた風景を見ながらリオは口を開く。
「しかし将紋持ちを容易く屠るとは強くなったじゃないかルイ。こりゃわしらを超える日も近いんじゃないかの?」
リオはニヤニヤ笑みを浮かべながら嬉しそうに言う。
確かにルイシャは外の世界に出てからメキメキと力をつけている。成長期な上に毎日二人から言われた修行を愚直にこなしていった賜物と言えるだろう。
しかしそれでも彼女たちに勝てるビジョンがさっぱり見えなかった。
「強くなったから分かるんだけど、僕じゃまだまだリオ達に勝てそうにないよ」
ルイシャの見立ては正しい。
テスタロッサとリオ、二人の実力は今の世界でもトップクラスに分類される。
“人を超えた者”と言われる程の実力を持つ白金等級の冒険者であっても彼女達に敵うものはいない。
王紋に目覚めてすらいない今のルイシャでは例え百人がかりでも勝つことは不可能だろう。
「かか、確かにわしらに勝つことはまだ出来ぬじゃろうがそんな弱音を吐くでない。そんなんじゃ勝てる戦も勝てぬぞ」
「う、うん……」
そう返事はするが、ルイシャはしょんぼりした様子だ。
彼は自信を失いつつあった。将紋持ちにこそ勝ててはいるが、王紋持ちに出会った時果たして勝てるのだろうか? そしてテスタロッサやリオが勝てなかった勇者オーガがもし生きていたら彼に勝つことが出来るのだろうか?
そんな風に思い悩むルイシャを見てリオは眉を潜める。
不味い傾向だ。せっかく順調に成長しているのにこのままでは行き詰まってしまう。
そう危惧したリオはある提案をルイシャに投げかける。
「のうルイ、ちょっといいか?」
「ん、どうしたの?」
「どうじゃ、久々にわしと特訓せぬか? もちろん実戦形式での」
突然の提案にルイシャはポカンとする。
なんで今そんな事するんだろう? そんな疑問が頭の中で渦巻き返事することができない。
するとそんな彼を見かねてテスタロッサがリオに抗議する。
「ちょっとリオ! ルイくんが落ち込んでるのになんて提案してんの!? ちょっとはルイくんに気を使ってあげなさいよ!」
「うるさいのう。なにも甘やかすだけが優しさじゃなかろうて」
リオはそうテスタロッサを一蹴するとルイシャの瞳を覗き込みながら再び問いかける。
「ルイ、お主の今の力を全部わしにぶつけてみろ。さすれば何か見つかるものもあるじゃろう」
「……わかった」
ルイシャは戦う意味がよく分からなかったが、リオが自分のことを考えてそう発言してくれているのは分かった。
ならばそれに乗る。例え真意が分からずとも彼女達が自分のことを強く想ってくれていることは知っているのだから。
「リオ、やるからには本気でやるからね」
「かか、いい目になったではないか。少しは楽しませてくれよ?」
二人は視線をぶつけ合いながら外に出るのだった。