第72話 呼び出し
「大将、あんなすげえ話、本当に俺に聞かせてよかったのか?」
王城から出て魔法学園の寮に向かって歩く道中、ヴォルフはルイシャにそう質問する。
夜も更け、人通りのない街中を歩くのはヴォルフ、ルイシャ、アイリスの三人。ちなみにシャロは先に帰ってしまったようだ。
「だってヴォルフはいいって言っても僕を助けようとするでしょ? だったら遅かれ早かれ知っちゃうだろうしね。いい機会だと思ったんだ。ヴォルフなら誰にも漏らさないって信用できるしね」
「うう、こんな俺様を信用してくださるなんて……!!」
ヴォルフは腕で目を覆いおんおん泣き始める。
人がほとんど通ってないとはいえ、街のど真ん中で男泣きする彼を見てルイシャとアイリスは「はは……」と苦笑いする。
「まあヴォルフは放っておくとして……シャロはどうするんですかルイシャ様。このままというわけにもいかないですよね?」
「そうなんだよね……。何とかして落ち着いて話す機会を作らないとなあ」
ルイシャは胃をキリキリ痛めながら桃色の髪がよく似合うクラスメイトのことを考える。
最初こそ勇者オーガのことを知るために彼女に近づいたが、今では彼女はルイシャの大事な人の一人だ。彼女のためだったら喜んで命を張る事だってできる。
だからこそ有耶無耶なまま疎遠になるなんてルイシャには耐えられなかった。
「安心して、次学園で会う時までに元通りにしておくから」
ルイシャの言葉に二人は静かに笑い、うなずく。
自分たちの主人は必ず有言実行してくれるだろう、二人はとルイシャの中にはそんなあたたかくて硬い絆があった。
「頼むぜ大将、むくれた姉御はおっかねえからな」
「そうです、せっかく仲良くなったのにまた疎遠になるのは嫌です」
「はは、頑張るよ……」
ルイシャは二人の期待に応えるため、どうやって仲直りするかを必死に考えながら寮に戻ったのだった。
◇
月が夜を支配する時刻。
ヴォルフとアイリスと別れたルイシャは一人自室の前へと戻ってきた。
「ただいまー」
誰に言うでもなくそう口にしながら扉を開けて中に入る。
するとその瞬間部屋からひゅう、と冷たい風が吹きルイシャの体を優しく撫でる。
「……へ?」
部屋を出た時、ルイシャは間違いなく窓を閉めた。だというのに部屋の窓は大きく開け放たれていた。
「いったい誰が?」
警戒しながら部屋に入るルイシャ。
ぱっと見部屋に荒らされた形跡はない、気功の力で嗅覚を強化してみるが知らない人の匂いを感じとることも出来なかった。
「ん、これは……?」
しばらく部屋を物色したルイシャは机の上に一枚の紙が置かれていることに気づく。罠を警戒しまずはその紙の匂いを嗅ぎ取ってみると、その紙からは嗅ぎ覚えのある花のようないい匂いがした。
「この匂いは……!」
紙には「屋上で待ってる」とだけ書かれていた。
それを見たルイシャは脇目もふらず窓から外に出て寮の壁面を駆け上がる。
気功歩行術『地掴』。この技は足裏に纏った気功で地面を掴む技だ。凍った地面などの悪路を物ともせず歩き、壁面を歩いて登ることが出来るようになるのだ。
この技の力で一気に寮の屋上まで駆け上がったルイシャは、そこで自分を待っていた人物を見つける。
「……お待たせ」
ルイシャの声に反応し、桃色の髪を揺らしながらその人物が振り返る。
強い決意を宿したその眼でルイシャを見つめながら彼女は……シャロは、口を開く。
「待ってたわよルイシャ。それじゃ話しましょうか、私たちの今後について」