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第71話 国王

 話が終わり、部屋にいた者達が続々と出ていく。

 外に出ずに残ったのは五人。フロイ王と息子のユーリ、そして二人の護衛エッケルとイブキに魔王国宰相ポルトフィーノだ。


「ふふ、楽しいお話でしたなフロイ王。さて、目的も全て済んだことですし私は魔王国に帰らせていただきます」


 ポルトフィーノはそう言うと長い足で立ち上がり、恭しくフロイ王に一礼する。


「もう帰ってしまわれるのですか? ゆっくりしていってもよろしいのですよ」


「仕事を色々残したまま出てきたものでしてね、今頃部下が泣いているでしょう。それに若のためにも色々準備をしなければなりませんからな」


 若。その言葉にフロイ王がピクリと反応し眉を顰める。


「失礼ですがポルトフィーノ殿、貴方は彼に何をさせる気でしょうか? 返答如何によっては看過出来ませんぞ」


 常人であれば震え上がってしまうほどの気迫でフロイ王はそう問いただす。

 横にいるユーリは初めて見るそんな父の姿に畏れを抱く。


 しかし相手は何百年もの間、魔王国で政治の中枢を担っていた化物だ。彼はそんな気迫などものともしていなかった。


「くく、若は将来魔王国を背負って立つお方。その地盤固めですよ。ヒト族が上に立つとなったら民の反対は必至。まずはそこからどう解決するか決めませんとね」


「……盛り上がっているところ申し訳ありませんが、私には彼、ルイシャ君がそれを望んでいるようには見えませんでした。そしてそのことに気づかぬ貴方ではないはず。もし彼の意思を尊重せずそのような暴挙に出るのでしたら私は彼の味方をします。この国の恩人として、そして我が国の善良な一国民として」


 そう毅然と言い放つフロイ王。

 相手がどんな化物だろうと臆することなく接する父親の姿にユーリは大きな尊敬の念を抱く。


 一方ポルトフィーノはというと真面目な顔をしているフロイ王とは対照的に嗜虐的な笑みを浮かべ、こう言い返した。


「元気なのは結構ですが少しご自分の立場を理解された方がよろしいですよ。王紋を持たぬ王など真の王とは言えません、いわば仮初の王。こんな滑稽な王が認められるのはヒト族だけだということをお忘れないよう」


 ポルトフィーノの言う通り、本来『王』とは王紋の所持者だけが名乗れる身分だ。

 しかしヒト族には国の統治者を『王』と呼ぶ風習がいつからか出来てしまった。いくらその人物が弱かろうと、人望がなかろうと、智略に長けてなかろうと、王の座を継いでしまったのならば王と呼ばれるのだ。

 しかし魔族や獣人、その他の亜人種などは王紋を持たぬ者でなければ王にはなれない。

 王紋を獲得するということは、それだけでその者の強さとカリスマ性を証明することになるからだ。


「確かに私に王紋はありません。しかしそれでもこの国を守り、導くことは出来ます。優秀な部下がおりますからね」


「確かにこの国はヒト族の国にしてはかなりよくやっている方と言えましょう。しかしそれがいつまで続きますでしょうか。特に最近は物騒な事件も多いですしね」


 ポルトフィーノの言葉にフロイ王は顔を僅かに曇らせる。

 確かに今王国だけにとどまらず様々な国で不可思議な事件が度々起きている。それを知った民衆が怯え誤った行動を起こさないよう、各地域は厳しい情報統制が行っているはずなのだが……どうやら目の前の人物には筒抜けだったようだ。


「若もこの国を気に入っているようですのでこちらから害を為しはしません。しかしこの国が安全で無いと判断したら無理やりにでも若を連れ出しますので」


 ポルトフィーノはそう冷たく言い放つと一礼してから部屋を出ていく。


「……ふう、流石に肝が冷えたな」


 フロイ王はそう言って大きく息を吐き、冷たい水をあおるように飲む。

 気丈に振る舞ってはいたが緊張で喉がからからだったのだ。


「くく、やはり化物だな奴は。どうだエッケル、あいつを倒せるか?」


「……足止めなら出来ましょうが倒すのは無理でしょうな。おそらく奴は王紋持ち、将紋である私では敵いますまい」


「そうか……やはり魔王国との戦力差は歴然、急ぎ戦力を増強しないとな」


「ええ」


 そこでエッケルとの会話を打ち切ったフロイ王は息子であるユーリの方に目を向ける。


「大丈夫かユーリ、顔が青いぞ」


「は、あ、はい。大丈夫です父上、はい」


 ユーリは青い顔を取り繕いながら父親の方を向く。


「いいか、王になればあのような化物達と戦っていかなければならない。お前も早い内に慣れないとな」


「はい、精進します」


 ユーリは自分と父親の間にある大きな差を感じながらそう言うのだった。

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