第70話 話す時
「まずは集まっていただいてありがとうございます」
ルイシャはそう言うと目の前の円卓に座っている人達を見渡す。
自分の左手からシャロ、ヴォルフ、イブキ、ユーリ、フロイ王、騎士団長エッケル、ポルトフィーノ、アイリスの順番で円状に座っている。
食事を済ませた彼らは休憩を取ったあと、今いるこの部屋に集まった。
中央に円卓が置かれているだけの質素な部屋。この部屋は主に盗み聞きをされてはいけない内密の話をするための部屋だ。
「机の中央にあるこの青いクリスタル、これはあらゆる遠視の魔法や聞き耳を阻害する力を持った魔道具なんだ。安心していいよ」
「城の内部に怪しい気配も感じられませんし大丈夫でしょう。さ、若のお話をお聞かせ下さい」
ユーリとポルトフィーノの言葉にルイシャは頷く。
ルイシャはゴクリと唾を飲み込んだあと、意を決して話し出す。
その内容は魔王のこと、竜王のこと、勇者のこと、そして自分が何をしようとしているのか、だ。
本当であれば誰の手も借りず一人で魔王達を助けたかったのだが、今回の一件で隠し切るのが不可能だと判断したルイシャは信用の置ける人物に話すことを決めた。
特にシャロにずっと黙っているのはルイシャの良心が許さなかったのだ。
ルイシャは慎重に言葉を選び、誤解のないよう話した。
そして話を始めてから三十分経った頃、ようやくルイシャの話は終わった。話を聞いた者達は信じられないことを聞いたと言ったような顔でみな顔をしかめている。
そんな重苦しい空気が流れる中一番最初に口を開いたのはフロイ王だった。
「……まさか魔王と竜王が生きているとは、とても信じられない。この話が本当なら世界がひっくり返る騒ぎになるぞ」
「信じられないのも無理はありません。しかし僕が話したのは嘘偽りのない真実です。証拠を出せと言われたらありませんけどね」
「信じられない、とは言ったがひとまず私は信じる。君の言ったことが本当なら様々な事象に説明がつくからね」
「そうですか、ありがとうございます」
ルイシャはフロイ王に深く頭を下げると、次は魔王国宰相ポルトフィーノに目を向ける。
「ポルトフィーノさん、あなたには申し訳ないですが僕にはテスね……テスタロッサさんを助ける使命があります。なので魔王国に行って魔王の跡を継ぐわけにはいかないんです」
ルイシャは申し訳なさそうにそう言う。
なんとかこれで引き下がってくれないかと心の中で祈ると、ポルトフィーノは「くくく」と急に笑い出す。
「なるほど……私は分かりましたよ若」
「本当ですか!」
「ええ、つまり……テスタロッサ様を復活させてから、若とテスタロッサ様の魔王二人体制で一気に魔王国を繁栄させ最強の国にするという作戦ですな!!」
「ええ……」
ポルトフィーノの予想の斜め上の反応にルイシャはドン引きする。
こりゃマズいと訂正を試みるルイシャだが、彼はすっかり自分の世界に入り浸っており話しを聞いてはくれなかった。
「はあ、まあしばらく魔王国に行かずに済みそうだしいいか」
そう結論づけたルイシャは次にシャロの方に目を向ける。
この話を聞いて彼女がどんな反応をするか。ルイシャはそれが一番想像がつかなかった。
ルイシャの話した物語の中ではシャロの先祖である勇者オーガが悪者だ。オーガを尊敬し目標にしているシャロからしたらルイシャの話は受け入れがたいものだろう。
そんなシャロの顔を覗き見ると、彼女の表情は怒るでも悲しむでもなく真剣な表情をして俯き何かを考えている様子だった。
「シャロ……?」
ルイシャがそう呼びかけるとシャロはルイシャの方をゆっくりと向く。
「えと、あの……」
「……」
なんと声をかけていいか分からずしどろもどろになってしまうルイシャ。するとシャロは無言で席を立つとスタスタと扉に向かい、部屋から出て行ってしまった。
「「「「…………」」」」
唐突に無言になる部屋。
静寂がルイシャの胸に重くのしかかる。
「それじゃ……一旦解散にするか」
耐えきれず助け舟を出したユーリのその言葉により、この秘密の話し合いはひとまず終了するのだった。