第67話 大広間にて
ルイシャたちが通されたのは王城の大広間だった。
そこではつい数刻前まで騎士団長エッケルと魔王国大臣グランツが戦っていたので所々が焦げついている。これを修繕するのは大変だろう。
しかしそんな状況においても国王フロイは堂々とした振る舞いで王の椅子に腰をかけていた。その気品あふれる様はまるでこの焦げた状態こそがこの広間の正しい姿なのではないかと思わせるほどだ。
ルイシャたちはそんな王様の前に一列に並ぶと、その場に膝を突こうとする。
しかしその瞬間フロイ王が「よい」と口にしたことでルイシャたちの動きが止まる。
「膝をつかずともよい。国を守ってくれた英雄たちにそのような事をさせるわけにはいかない」
王のその言葉にルイシャたちは照れ、「いやいやそんな〜」「英雄……悪くない響きだぜ」などと緩み切った顔を見せる。
「はあ、恥ずかしい……」
クラスメイトのそんな顔を親に見られたユーリはそう嘆きながら手で目元を覆うように押さえる。
しかしそんな彼も口元は僅かに緩んでいる。彼も自分の仲間が褒められて嬉しいのだ。
「さて、まずはこの国のため戦ってくれたことに礼を言わせて欲しい。ありがとう。君たちのおかげで民に不安を与えることなく危機は去り、平和を勝ち取ることが出来た」
魔族が王国に害をなそうとした事は王国民に伝わってしまってはいるが、王国民は誰一人として襲われなかったのでその企みは王国騎士団と冒険者の活躍によって潰えたと伝わっている。
なので王国民は不安になるどころか魔族に正面から打ち勝った王国に信頼を寄せる結果となったのだ。
「しかし魔族に良くないイメージを与えてしまった。それは申し訳なく思います」
そう言ってフロイ王はルイシャたちの後ろに立つ人物に目を向ける。
そこにいたのは丸い体に長い手足が特徴的な人物、魔王国宰相のポルトフィーノだ。
「気にされなくても大丈夫ですよフロイ王。いくらウラカンの独断で行われたとはいえ今回の一件は完全にこちらに非があります。その評価は甘んじて受け入れなければなりません」
今回の一件で王国側が受けた被害は魔王国が全て保障することになっている。魔王国も財政的に豊かと言える状況ではないのだが、ここで仁義を通さなければルイシャの魔族に対する心証が悪くなると考えたポルトフィーノは無理して全額補償を申し出たのだ。
その代わりとして今回の首謀者であるウラカンと他の生き残りの魔族の身柄は魔王国に引き渡されることとなった。
これには二国間の連携がしっかりと行われている事を他国に示すアピールにもなっている。
「ポルトフィーノ殿には色々と迷惑をお掛けしました。しかし今回の一件のおかげでこうして顔を合わせお話しする機会が出来ました。ぜひ今後もお互いの国のために交流の機会を作らせていただきたい」
「ええ、勿論ですとも。今後ともエクサドル王国とは仲良くしていきたいですからね……」
そう言いながらポルトフィーノはルイシャの背中をじっくりと見つめる。その物凄い眼力を受けたルイシャは寒気を覚え全身をぶるぶるっ! と震わせる。
ルイシャは魔王国には行けないことをポルトフィーノに伝えたのだが彼はまだ諦めてない様子だった。しかしまだルイシャは自分が魔王テスタロッサとどういう関係なのかを彼に説明出来てないのでそれも当然の反応だったりする。
なのでルイシャは後でちゃんと説明することを条件にポルトフィーノを一旦落ち着かせたのだ。
「……」
ルイシャはチラリと自分の隣に立つシャロに視線を移す。
彼女は疲れた様子でフロイ王の方を見ている。いつもだったらルイシャが自分を見れば視線を返してくれるのだが、無視を決め込んでいる。ウラカンを倒してから彼女はずっとルイシャに対して余所余所しい態度をとっているのだ。
(うう、無言が辛い……。やっぱりちゃんと説明しなきゃだよね……)
シャロがこんな態度を取ってる理由は明白。それはルイシャが魔王の力を使い、自分が新しい魔王だと言ったことだ。
魔王は自分の祖先である勇者が討伐した存在である。その力をルイシャが使うことはシャロに大きなショックを与えただろう。
なのでルイシャは覚悟を決め全てを話すと決めたのだった。
しかしそれは今ではない。さすがにバーンやチシャたち普通のクラスメイトに話すわけにはいかない。それは彼らを信用してないからではなく無用なトラブルに巻き込まないためのルイシャの配慮だった。
ルイシャがそう心の中で考えていると、フロイ王はポルトフィーノからルイシャ達に視線を移す。
「して……ユーリのクラスメイト達よ。何か欲しいものや要望はないかな? そうだね、特に……君は私に言いたい事があるんじゃないかな?」
そう言ってフロイ王が視線を向けたのは獣人のヴォルフだった。
王のその言葉の意味することは明白。大広間には一瞬にしてピリついた空気が充満しルイシャたちに緊張が走った。