第66話 合流
その後ルイシャ達は怪我人を王城に運び入れた。
幸い全員命に別状はなく、シャロとアイリスは軽く処置をしただけで済み、アイリスの仲間である二人の吸血鬼も二、三日休めば元気になると王城勤務の医師に言われた。
ルイシャのクラスメイト達も皆疲れてはいたが大きな怪我をしていなかった。彼らはルイシャと同じく王城の一室に集められ、無事ルイシャと再会を果たしたのだった。
「大将! お疲れ様です! ご活躍は聞きましたよ!」
部屋に入ったルイシャの元へヴォルフがいの一番に駆け寄り話しかけて来る。彼の尻尾は右に左に大忙しだ、よほど会えて嬉しいのだろう。
「ヴォルフこそお疲れ様、頑張ってくれたみたいだね。そしてみんなも、今回の事件は僕一人じゃどうにか出来なかったよ」
そう言ってルイシャは部屋に置かれた高級そうなソファに疲れた様子で座るクラスメイト達を見やる。
人間に変装した魔族を見つけ出したヴォルフ、王城を囲む結界に気づき王子を探し出したチシャとバーンとカザハ、そして王城に乗り込み王に危機を伝えたユーリとイブキ。
彼らの内誰か一人でも欠けていたら完全勝利は無かっただろう。それをよく理解しているルイシャは頼りになるクラスメイト達に頭を下げる。
「おいおいルイシャ、なに頭下げてんだよ。一番活躍したのはお前だろ?」
「そーだよ、悪いのは魔族の奴らなんだからさ」
バーンの言葉にチシャがそう乗っかる。
まるでいつもの教室のような光景に思わずルイシャは「ぷっ」と笑ってしまう。
そんな風に和やかな感じで話しているとガチャリと扉が開き二人の人物が入ってくる。
「どうやらすっかり元気なようだね。全く君達の元気さには感服するよ」
そう言って入ったきたのは王子のユーリだった。後ろにはいつものように従者のイブキも一緒だ。
「もー王子ったら素直じゃないんすからぁ。本当はみんなが無事で嬉しいくせにぃ」
「言葉が過ぎるぞイブキ、僕がいつそんなこと言った」
「ぷぷ、王子が何考えてるかなんてお見通しっすよ。何年一緒にいると思ってんすか」
ユーリは苛ついたような、しかしどこか恥ずかしそうな様子でイブキを怒る。しかし彼はケラケラ笑い全然効いてなかった。
そんな彼を見て説教するのを諦めたユーリはルイシャ達の方に向き直ると、「おほん」と前置きをして話し始める。
「まずはありがとう。君たちのおかげでこの王都は救われた。この国の王子として礼を言わせて貰う」
そう言ってユーリは深く頭を下げる。
そんな彼の様子にクラスメイト達は恥ずかしそうに鼻を擦ったり、笑ったりする。
「そして疲れているところ悪いが今から大広間に来て欲しい。父上からみんなに話があるんだ」
「ユーリの父上ってぇと……王様か!? おいおい俺たちがそんな事していいのかよ!?」
バーンの言葉に他のクラスメイト達もうんうんと頷く。それほどまでに王様と直々に顔を合わせることは滅多にない事であり、とても名誉なことなのだ。
突然の事態にみんなが浮き足立つルイシャのクラスメイトたち。そんな中獣人であるヴォルフだけは少し複雑そうな顔をしていた。
「ヴォルフ? どうしたの?」
「あ、ああすまねえ大将。ちょっとぼーっとしてただけだ」
「ならいいんだけど……もし行きたくないなら僕からそう頼むよ?」
ヴォルフは獣人であり、王国内で何度も差別的行為を受けてきた。
いくら今の王が差別反対派といえどもその胸中は複雑だろう。そう考えたルイシャは彼の事を案じてそう言うが、彼はその申し出を断った。
「ありがとな大将、でも大丈夫だ。俺はもう逃げねえって決めたからな」
そう言う彼の瞳には強い決意の色が宿っている。それを感じ取ったルイシャは「そっか」と短く言うと会話を切り上げる。
もう心配はいらないな、そう感じたルイシャはヴォルフの背中を優しく叩き部屋を後にするのだった。