第65話 若
「えと……どういうことですか?」
唐突なポルトフィーノの服従宣言にルイシャは当然の如く困惑する。
それに気づいたポルトフィーノの立ち上がりルイシャに説明する。
「ウラカンめが関所を越えたと報告を受け、私はすぐさま行動を開始しました。しかしウラカンらが関所を越えた後どこに向かったか誰も知らず、私は自分の能力でウラカンを探しました」
そう言ってポルトフィーノは丸眼鏡の下の眼を指差す。その瞳にはルイシャやアイリスの瞳と同じく六芒星の紋様が刻まれていた。
「これは『遠視の魔眼』と言う代物です。その名の通りこの魔眼は魔力の流れだけでなく遠くの景色をも見ることが出来ます」
魔眼には様々な種類がある。ルイシャはテスタロッサからそう教わっていた。
魔力の流れが見えるのは魔眼の基礎能力であり、それとは別の能力を併せ持つ魔眼がいくつも存在するのだ。
もっともそれを使えるのは余程の実力者か希少種族しかいないのだが。
「この魔眼でウラカンを発見した私はずっとこやつを監視しながらここまで来ました。なので当然貴方とウラカンの戦いも一部始終見せていただきました」
「そ、そうなんですね……」
「はい、そして貴方が魔煌砲を放つ少し前には私はもうここに到着し、隠れて戦いを観させていただきました。なので貴方の『新しい魔王になる』との言葉もしっかりとこの耳に届いておりますよ」
そう言ってポルトフィーノは「よよ……」と大袈裟にハンカチで目元を拭う。
どうやらよほどルイシャの言葉に感動したようだ。
「私の魔眼にはしっかりと貴方様の中に流れるテスタロッサ様の魔力が見えます。なので貴方様の言葉に嘘偽りが無いことも分かっております」
そう言ったポルトフィーノはその長い腕でがっしりとルイシャの腕をつかむと、凄みのある笑みを浮かべながらこう言った。
「さ、邪魔者もいなくなりましたし魔王国へ行きましょう。新しい魔王の誕生に我が魔王国の国民も多いに喜ぶでしょう」
「え、いや、でも」
実際に魔王国の当主になどなる気はないルイシャはポルトフィーノの妄想を止めようとするが、彼はすっかり妄想の世界に浸ってしまっているのでルイシャの声は届かない。
「私には見えます。若が国民を率い、魔王国を繁栄へと導く姿が! さあ若、共に魔王国へ凱旋しましょうぞ!」
すっかりその気になっているポルトフィーノはルイシャのことを『若』と呼んでいる。
そんな彼には申し訳ないのだが……先にやらなくてはいけない事のあるルイシャは申し訳なさそうにポルトフィーノに提案する。
「あの……先に怪我人の手当てをしてもいいですか?」
ルイシャはシャロとアイリス、そしてウラカンの部下にやられたアイリスの仲間の二人を指してそう言ったのだった。