第60話 大広間にて
王都にそびえ立つ白き城、王城ヴァイスベルク。
その中にある大広間にフロイ王とその側近と魔族達は集まっていた。
フロイ王は黄金で出来た玉座に座りながら自分に向かい合うようにして立つ魔族の一団、特にグランツを見ながら口を開く。
「ではグランツ殿、そろそろ我が王国に来た理由をお聞かせ願えるかな?」
当然フロイ王は魔族達が話し合いに来たなどとは思っていない。しかしこちらから攻撃してしまっては国内に招き入れた客人をいきなり攻撃したとして他国からバッシングを受けてしまう。
もしそうなったら魔王国と帝国が手を組んで王国に攻め入ってくる可能性すら出てきてしまう。そうなれば王国は滅びの一途を辿ってしまうだろう、それだけは避けなければならない。
ゆえにフロイ王は向こうが手を出してくるのを待たなければならないのだ。
そんなことを知ってか知らずかグランツはフロイ王の気分を逆撫でするような態度を取る。
「まあそう慌てなさんなフロイ王。どうですか? 堅苦しい話をする前に一杯飲みませんか? まずは仲良くなりましょうよ」
そう言ってグランツは下卑た笑みを浮かべる。
これは明らかな挑発だ、フロイ王は表情にこそ出さないがその心の内では怒りの炎が燃え上がっていた。
しかしここで怒りに身を任せてしまえば相手の思う壺だ。フロイ王は怒りを押し込めて柔和な態度で接する。
「そうはいきませんよグランツ殿。私たちはお互い多忙な身、早めに用を済ませようではありませんか」
「まあまあそんなツレないこと言わないでくださいよ、魔王国から良い酒を持ってきてるんです。きっと王の口にも合いますから飲んでくださいよ」
そう言ってグランツはしぶとく酒を勧めてくる。
ここでフロイ王はある違和感に気づく。こやつ……挑発というよりも時間稼ぎをしているみたいだ。だとしたら狙いはなんだ?
フロイ王はグランツが時間稼ぎをする意味を考える。そして聡明な彼は……すぐにその答えに辿り着く。
「なるほど……狙いは私ではなく『外』だったか」
その言葉にグランツの瞼はピクリと動いて反応する。
その反応でフロイ王は自分の推測が当たったことを確信する。
「どうやら当たりのようですな。私と騎士団をこの城に閉じ込め、その間に王都を制圧する……確かに良い作戦です。しかしそんな事はさせません。王国騎士団よ、今すぐ街を守るのです!」
フロイ王の命を受け騎士団は即座に動き出し大広間から出ようとする。しかしその行手を魔族の兵士達が遮ってしまう。
「どけ! さもなくば斬り伏せるぞ!」
「へへ、やれるもんならやってみろよ騎士様」
騎士団が剣を振り上げ脅しても魔族の兵士達は怖がる様子は一切ない。彼らは知ってるのだ、こちらから手を出さねば騎士団は攻撃できないということを。
「正しいというのは不自由なものですなフロイ王。相手が間違ってると確信しても証拠がなければ剣を振るうことが出来ない。ウラカンの言っていた通りの展開だ」
「ぐっ……」
フロイ王は窮地に立たされていた。
魔族が外で暴れているのは明白。しかしそれを目で確認してない今こちらから剣を振るってしまえば、もし外で魔族が暴れてなかった時最悪の事態になってしまう。
早く誰か外の様子を伝えにきてくれ。とフロイ王は思うが現在王城ヴァイスベルクは結界に囲まれ外の様子を伺うことが出来ないのだ。なので城の中にいる兵士が外の異変に気づく事はない。
万事休す、そう思われた次の瞬間大広間の扉が突然開き、ある人物が中に入ってくる。
「父上! 今すぐ外に出てください!」
大広間に入るや否やそう叫んだのは眩しい金髪の美青年……この国の王子のユーリだった。