第59話 敗因
「真の魔王……まだそんなふざけたことを言えるとはね」
『ククク貴様が信じられぬのも無理はない。魔王とはなろうとしてなれるものではないからな』
一般的な『王紋』と違い特殊な条件下でのみ得ることができる『王紋』がこの世には存在する。魔王紋もその一つであり、ただ魔族が強くなったからといって魔王紋を宿すことは出来ないのだ。
魔王になるための条件、それは三年に一度魔族領で行われる武闘大会『大魔天祭』で優勝すること。国民達の目の前で堂々と戦い、見事一位になったものが魔王紋を受け継ぐことが出来るのだ。
この大会の最終戦は最後まで勝ち残った者と現職の魔王との一騎打ちになる。この大会に勝つと魔王から直々に魔王紋を受け継ぎ、優勝者が次代の魔王になる。つまり魔王テスタロッサがいない今新たな魔王が生まれることはないのだ。
しかしウラカンの手にした『魔王の書』にはそんな非常事態でも魔王紋を継承する儀式の手段が載っていた。
『俺様の持つこの指輪、『犠牲の指輪』には周囲の魂を呼び寄せ中に取り込む力がある。そして魔王継承の儀は一万人の魂と引き換えに行われるのだ』
王都の人口は約四十万人、魔王継承の儀を行うには十分すぎる量だ。
『今頃俺様の部下が人間どもを殺しまくってる筈だ。もうとっくに一万人以上殺している頃だろう……!』
本当は万全を期すためもっと待つはずだったがしょうがない。ウラカンは妥協してこのタイミングで魔王継承の儀を行うことを決める。
彼は犠牲の指輪を右手に握りしめると天高くそれを掲げ、指輪に魔力を込める。
『指輪よ! 今こそその真の力を解き放ちこの地に満ちるヒト族の魂を集めよ!』
ウラカンがそう叫ぶと指輪が光り出す。
そしてそれに応じていくつもの魂が集まって……来なかった。
『……ん?』
ウラカンは再び指輪に魔力を込めて天に掲げるが、指輪は光るだけで何も起きない。
指輪の故障だろうかとウラカンは指輪を叩いたり磨いたりするが何も起きない。
そんな彼の焦った様子を見てルイシャは「ぷっ」と吹き出す。
「いくらやっても無駄だと思いますよ、だってその指輪は壊れてるわけじゃありませんからね」
『き、貴様の仕業かガキ……!? いったい何をした!!』
ルイシャの小馬鹿にしたような態度に顔を真っ赤にして激怒するウラカン。
そんな彼にルイシャは涼しげな態度で答える。
「魔力探知してみれば分りますよ、あなたも魔族なんだからそれぐらいできますよね?」
『魔力探知だと? そんなことして何が分かるというん』
ウラカンはそう反発しながらも魔力探知を発動する。
王都をすっぽり覆うほどの魔力探知、さすがは魔族といったところだ。しかしそんな広範囲を探知できてしまったがために、彼には残酷な結果を思い知る事になる。
『ば、馬鹿な……! なぜ人間の数がちっとも減ってないのだ!? 私の兵達は何をしている!!』
王都に入る前、ウラカンが魔力探知して確認した人の数と今の人の数は全く変わっていなかった。
それに反して部下の数は結構減ってしまっている。
ウラカンは今回の計画を行うに当たって、邪魔が入らないよう入念に準備をした。障害となるであろう騎士団を封じ、金等級冒険者はクエストでいないタイミングを狙ったのだ。
それなのになぜ魔族が負けている? 今王都には猛者がいないはずなのに。
『貴様の仕業なのか!? 貴様が我が兵を倒したのか!?』
「さすがにこの短時間で僕でもそんなことは出来ないよ、お前の兵達はこの王都に住む人たちにやられたんだ」
ルイシャはそう言うとウラカンの目を真っ直ぐに見据え、宣言する。
「お前は僕に負けるんじゃない。この国に負けるんだ」