第54話 魔王の瞳
「攻式三ノ型、不知火ッ!」
ルイシャの渾身の前蹴りがウラカンの横腹に突き刺さり、 熱せられた刃物で刺されたような激痛がウラカンを襲う。
「ぐっ……!」
効く、効きすぎる。なんだこの攻撃は!?
その予想を大きく上回るダメージにウラカンは押されていた。ガードしてもその上からねじ伏せられる感覚。今まで強者として生きてきたウラカンにとってそれは初めての感覚だった。
「くっ、魔将の魔爪!」
ウラカンは殴りかかってこようとするルイシャに対し、指先から鋭い爪を伸ばし反撃を試みる。カウンター気味に放たれたその攻撃は完全にルイシャの虚を突く形となる、これなら確実に命中すると思われたがなんとルイシャはその攻撃がまるで来るのが分かってたかのようにノールックで少し体を捻り回避する。
「――――せいっ!」
そして攻撃を外したウラカンの腹部に気功を乗せた拳を打ち込む。
逆にカウンターを喰らうことになったウラカンは後方に吹っ飛び情けなく地面を転がりボロボロの状態になる。彼の表情からは最初に出会った頃の余裕は消えうせ、焦燥と怒りがにじみ出ている。
そしてよろよろと立ち上がった彼はキッとルイシャを睨みつけ……そしてある事に気づく。
「貴様……なんだその瞳は!?」
ウラカンが驚くのも当然、なんといつの間にかルイシャの左目が変貌していたのだ。
金色の輝く瞳、そしてその瞳に浮かび上がる六芒星の紋様。
ルイシャは指摘されて初めて自分の眼が変化している事に気づく。そしてそこから放たれる魔力にも気づく。その魔力の波長は以前感じた事がるものだった。
「これは……魔眼!?」
右目に竜眼が目覚めた時と同じように、ルイシャの左目には魔力の流れを見ることができる瞳『魔眼』が目覚めていた。
ルイシャは魔法で手鏡を作り出すとそれで自分の瞳をまじまじと確認する。
おお、確かにこの紋様は魔眼に現れる紋様だ。でも瞳の色が金色になったのはなんでなんだろう。
ルイシャがそう疑問に思っていると、わなわなと震えていたウラカンが突然大声を出す。
「その金色に光る魔眼……間違いない! 何故だッ! 何故貴様のようなただのクソガキがその眼を、魔王の瞳を持っている!?」
魔王の瞳。その単語を聞いた瞬間ルイシャはテスタロッサに聞いたことを思い出す。
確かその瞳は魔王のみが使う事を許された、あらゆる魔眼の頂点に立つ魔眼だ。まさかそんなモノが宿るなんて……とルイシャは驚愕する。
「答えろッ! 何故ッ!? いったい何故私ではなく貴様がそれを持っている!? その瞳は魔王である私が、俺が持つべきモノなんだッ!!」
ウラカンは半狂乱気味に髪を掻きむしりながらルイシャに叫ぶ。
確かに魔王になりたいウラカンが魔王の瞳を欲しがるのは当然だ。しかしそれにしても様子がおかしい。明らかに異様ともいえる執着だ。
ルイシャはその事を不思議に思いウラカンに問いかける。
「いったい何が貴方をそこまで駆り立てるのですか? 別に魔王になどならなくても貴方なら好き勝手に生きる力があるはずなのに」
「なぜ俺が魔王になりたいか、だって? そんなに聞きたいなら教えてやるよ、三百年前一体何があったか!」