第51話 価値観の相違
「お、おいウルス……嘘だろ……?」
地面に転がる仲間の頭部を見て、アイリスと戦っていたスパイドがそう声を漏らす。
彼はアイリスを無理やり押しのけるとウルスの亡骸へと近づきその場に膝をつく。
「馬鹿野郎が……先に逝っちまいやがって。お前はいつか俺様がぶった斬ってやろうと思ってたのによぉ……」
そう漏らすスパイドの目には僅かに光る物があった。
彼はそれを拭うと、すくっと立ち上がりルイシャを睨みつける。
「ウルスは確かに無愛想でいけすかねえ野郎だったが気の合うやつだった。てめえだけは許しちゃおけねえ」
そう言ってスパイドはルイシャに二振りの曲大剣を向ける。
その顔は先ほどまでの楽しみながら戦っていた時とはまるで違い、真剣で本物の戦士の気迫がこもったものだった。
しかしそんな気迫を向けられながらもルイシャは落ち着いていた。
その顔はむしろどこか悲しんでる様にすら見える。
「仲間の死を悲しむことは出来るのに、他の人を思いやることは出来ないんですね」
「ウルスは仲間だった、他の奴と一緒にすんな」
それを聞いたルイシャは静かに首を横へ振る。
世界には、どう足掻いても理解できない思想があるということをルイシャはこの時知ったのだ。
そんな達観した様子のルイシャに苛ついたのか、スパイドは何も喋らず剣を振り上げ襲いかかる。
謎の力によりパワーアップしたスパイドの腕の長さは約二メートル。その圧倒的なリーチから繰り出される剣劇は並の戦士では近づくことすらできないだろう。
しかしルイシャは竜眼の力でその動きを見切り、最小限の動きでその斬撃を躱し懐に潜り込む。
「――――はぁッ!」
そして伸びきったスパイドの両腕を、握りしめた剣で両断する。
肘から先を失った腕の先からは真っ赤な血が吹き出す。
「俺様の腕が……っ!?」
流れるようなルイシャの回避と攻撃に、スパイドの目はついていけてなかった。
何が起きたのかもほとんど分からず、唯一分かったのは自分が斬られたという事実だけ。それほどまでに二人の実力には壁があった。
今更ながらその事に気づいたスパイドは「クソッ!」と悪態をつきながら背中を向け逃走しようとする。しかし彼をみすみす逃せば第二第三の犠牲者が出ることは確実。それを防ぐ為にもここで確実に息の根を止めなければいけない。
ルイシャは背中を向けるスパイドに右手をかざすと、魔法を唱える。
「超位火炎剣」
ルイシャの手から現れたは、長さ二メートルほどの魔法で出来た剣。その刀身からは絶えず灼熱の炎が湧き続けており、その熱は距離が離れているシャロとアイリスでも少し熱いと感じるほどだ。
「いけッ!」
ルイシャが命じると同時に射出された灼熱の剣は寸分違わずスパイドの背中にグサッ! 高速で突き刺さる。
「うごっ……!」
剣が直撃したスパイドは呻き声を上げながらその場に倒れ込む。
パワーアップした彼の回復能力は群を抜いており、切断された両腕の傷ももう止まっている。なので背中を刺されたくらいでは致命傷には至らない……のだが、ルイシャの放った剣は高純度の火属性を付加してある。
その熱はスパイドの再生速度を上回る速度で彼の体内を焼き尽くしていく。
「う、うごおおおぉぉっぉっ!!!」
自らの意思に関係なく身体が再生する為、スパイドは身体が焼き尽くされる感覚を長く味わう事になってしまう。必死に手足をバタつかせてその痛みから解放されようとするが、ルイシャの剣は深々と突き刺さっているので抜けることはない。
「あ……が……」
やがて身体を動かす力も無くなったスパイドは力なく伸ばした手を地面に落とす。
「……あの世で苦しめた人たちに詫びてください」
どこか悲しげな表情を浮かべながらルイシャはスパイドが燃え尽きていくのを見届ける。
力尽きたスパイドはものの数十秒で燃えかすとなり果て、風に吹かれその残骸すら消え失せる。
それを確認したルイシャはとうとう敵の親玉であるウラカンに目を向ける。彼は信用する部下を両方失ったというのに余裕そうな態度を崩していなかった。
「くふふ! 素晴らしい! よくぞ人の身でそこまで鍛え上げたものだ。どうだ? 私の部下にならないか? 歓迎するぞ」
「……反吐の出る提案をどうも、悪いですが今はあまり冗談に付き合う気分じゃないんですよ」
軽口を叩くウラカンに対し、ルイシャはそう冷たく言い放ち剣を向けるのだった。
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