第47話 本心
本作の略称を「まりむそ」に致しました。
今後ともまりむそを宜しくお願いいたします!
姿が変わった二人の魔族の戦闘能力は、姿が変わる前から格段に上がっていた。
「くらえッ!」
先程までとは比べ物にならない速度で、肥大化した腕を振るうウルス。
シャロはその一撃を盾でいなそうとするが、その一撃のあまりの強さに受け流すことが出来ず吹っ飛んでしまう。
「くっ!」
吹っ飛ばされながらも空中で姿勢を立て直し地面にしっかりと着地するシャロ。
そんな彼女に今度はスパイドが襲い来る。
「その綺麗な顔、切り刻んでやるぜェ!!」
謎のパワーアップの影響で力が増しただけでなく腕が伸びているスパイドの剣撃は、まるで鞭のようにしなりシャロを襲う。
スパイドの攻撃はリーチが伸びただけでなく、軌道も読みづらくなり威力も段違いに上がっていた。シャロは相手の動きを先読みすることで何とか戦えてはいたが、防御に集中しても全ての攻撃を防ぐことは出来ず徐々にダメージを受けていく。
「はぁ……はぁ……」
そんな状況が数分も続くとシャロの息も上がり、身体には生傷が目立ち始める。
しかし彼女の目は死んでいなかった。危機的状況であろうと敵をまっすぐに見つめ、反逆の意思を崩さなかった。
ウルスはそんなシャロに疑問を抱く。
「貴様、この状況でまだ勝てると思っているのか? 理解に苦しむ」
「……あんた達みたいな馬鹿には分からないわよ。信頼できる人がいる、それだけで人はどんな絶望的な状況でも立ち向かうことが出来るのよ」
「ふむ、残念ながら本当に理解できないな。己以外にその身を委ねるなど弱者のすることだ、貴様には興味が尽きたよ」
ウルスはそう言うと、地面が陥没するほどの強さで地面を蹴り、一気にシャロへ距離を詰める。そして自慢の拳を叩きつけるようにシャロに振るう。
当然シャロは躱そうとする……が、その瞬間スパイドに斬られた足の傷がズキリと痛んでしまう。
「ぐっ!」
その痛みに一瞬気を取られている間にウルスの拳はシャロの目の前まで接近してしまう。
もはやこれまで。防御魔法を展開する時間もない。
「ルイ、後は――」
お願い。
そう口にしようとした刹那、大声がその場に響き渡る。
「鮮血の盾!!」
シャロの目の前に突然真っ赤な盾が現れ、ガキィン! と甲高い音を響かせながらウルスの拳と激突する。
しかしウルスの攻撃は常識外れの威力、その盾にはすぐにヒビが入り砕けてしまう。
だがそれでも数秒ウルスの攻撃を止めることは出来た、その数秒があれば救うことが出来る。
「掴まって下さい!!」
「……あ、あんた」
なんとあのアイリスが大きな声を上げながら、シャロを抱えて助けたのだ。
ルイシャ以外に興味を持たず、むしろシャロには敵意のようなものを向けていたあのアイリスが、危険を冒してシャロを救ったのだ。
敵から少し離れた位置に飛んだアイリスはゆっくりとシャロを地面に下ろす。
その動作にはちゃんと相手を気づかう優しさを感じた。シャロはそれが不思議でならなかった。
「あんた何で私を助けたの? 私のことが嫌いなんじゃなかったの?」
「……確かに私は貴方が苦手です。勇者の子孫だから、というだけでなく貴方の生き方が私みたいな日陰者には眩しすぎるから。貴方を見ていると自分が惨めに思えてきてしまいます」
「あんた……」
それはシャロが初めて聞くアイリスの本音だった。
自分の主人を封印した勇者の子孫だから。もちろんその理由も大きいが、それはルイシャがよしとしている以上自分がとやかく言うことではないとアイリスは理解している。
それでもアイリスがシャロに敵意に近い感情を抱いてしまう。その感情の名前は……嫉妬。
影に潜みながら暮らし、見つかるか分からないものを探し続けている吸血鬼の一族に比べ、シャロの人生はあまりにも眩しかった。
やっと見つけたルイシャという光も、シャロは先に見つけその心を手に入れていた。
アイリスも自分の立場を使い強引にルイシャに取り入ったのだが、それでもシャロという人物がルイシャにとって大きな存在であることは変わらなかった。
アイリスはそれが……とても悔しかったのだ。
「私は嫉妬で目が曇っていました。しかし貴方の言葉で霧が晴れました」
シャロの言った言葉。
『背中を追うのではなく、横で一緒に戦いたい』。
その言葉を聞いた瞬間アイリスは頭を金槌で叩かれたような衝撃を覚えた。
自分はルイシャの背中を追うことばかり考え、共に闘おうとなど考えもしていなかったことに気づいたのだ。
だから……変わろうと思った。
強く、気高い彼女のようになろうと思った。
だからもう、逃げるのではなく立ち向かわなきゃ。
「勝手な申し出だとは百も承知です、しかし……どうか一緒に戦ってくれないでしょうか、シャロ」
ぎこちない感じで自分の名前を呼ぶアイリスを見て、思わず『ぷっ』とシャロは吹き出してしまう。この時シャロは目の前の少女と本当に触れ合えた気がした。
「な、なにがおかしいのですか」
「ごめんごめん、あんた……いや、アイリスにも可愛いところがあるんだなって思っただけよ」
「し、失礼な! やっぱりシャロは苦手です」
「ちょと頬を膨らませないでよ、悪かったって」
そんな普通の女子みたいなトークをしながら二人は並び立つ。今度は一緒に戦うと決めて。