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第44話 受け継がれる意思

 優秀な勇者の子孫が生まれた。

 その事実は魔族領にも広がっており、情報通のウラカンももちろん把握していた。

 王国の学園に通っていることも知っており、どこかで会えればラッキー程度に考えていたのだが。


「まさか自分から会いに来てくれるとはね。私は私の運が恐ろしいよ」


 何度目になるかわからない醜悪な笑みを浮かべウラカンはシャロを見る。

 その不気味な気配にシャロの剣を持つ手に汗がにじむ。


「……どういう状況なのかはわからないけど、あの気持ち悪い魔族がヤバそうってのはようく分かったわ。後は私が何とかするからあんたは下がってなさい」


 シャロは剣を構えながら地面に座り込むアイリスにそういう。その様はまるで姫を守る騎士だ。

 命を賭して自らを守ろうとするシャロを見てアイリスは疑問を抱いた。


「なぜ……私を守ろうとするのですか? 別に私と貴方は仲間でも友人でもありません。いやむしろ貴方からしたら私は恋敵、邪魔な存在のはずです」


 そう、確かに二人の仲は良くない。

 ルイシャとよく一緒にいるので顔こそよく合わせるが、二人だけで話すことなどまずない。

 突然現れたアイリスにシャロは戸惑っているし、アイリスは自らの主人を封印した勇者の子孫であるシャロに敵対心を持っていた。

 もし逆の立場だったのならアイリスはシャロを救っていたか分からない。見殺しにいていたかもしれない。

 それなのになぜ? アイリスは純粋に疑問を抱いた。


「……確かにあんたと私の仲はよくないわね。いや、悪いと言っても良いかもしれないわ」


「だとしたらなぜ……?」


 アイリスのその言葉にシャロは懐かしむような口調でこう答える。


「『人が困っていたら助けるのは当然』……前にルイと戦って負けた時に言われた言葉よ。確かにあんたと私の仲は良くない、けどそれが何だって言うの? 勇者の末裔……いいえ、一人の人間として困っている人を見捨てるわけにはいかないのよ」


 ルイシャに負けた時、自分もこうなりたい。こうありたいと思ったから。

 例えいがみ合う相手だったとしても命を賭けて守ってみせる。シャロはそう決意していた。


「話は終わったかい? それじゃそろそろこちらの相手をして貰おうかな」


 待ちくたびれた感じでそう言うウラカン。

 部下の二人ももう待ちきれないといった感じだ。


「わざわざ待っててくれるなんて律儀なのね、少し見直したわ」


「ふふ、最後の青春を邪魔するほど野暮じゃないですよ。それに私は君に、いや君の先祖に感謝してるんですよ」


「感謝……?」


「ええ、君の先祖はあのクソ魔王を倒してくれました。あの時どれだけ私が救われたか! ふ、ふふふ、今でもあの日を思い返すだけで興奮しますよ。出来れば死体を残してくれていたらなお良かったんですけどね……!」


 恍惚とした表情で語るウラカンにシャロは強い嫌悪感を抱く。


「……てっきり魔族はみんな魔王を慕っているのだと思ったわ、あんたみたいなのもいるのね」


「国民はあのクソビッチに騙されていたのですよ。あんなぽっと出の小娘が魔王に相応しいわけがない! 魔王に相応しいのは私みたいな高貴な家出身でなければならないィッ!」


 そう語るウラカンの目は黒く濁り焦点が定まっていない。

 狂っている。シャロは彼を改心させることは不可能だと判断した。


「そんな君を手に掛けるのは心苦しいのだけれど……君を国民の前で処刑すれば支持率がグンと上がる。悪いけど利用させてもらうよ」


 ウラカンがそう言うと部下のウルスとスパイドがゆっくりとシャロに近づいていく。

 殺しこそしないだろうが手加減は期待できない。そう思わせるほどの殺気が二人から放たれていた。


「に……逃げなさい。二対一じゃ分が悪すぎる……!」


「あら心配してくれるなんて優しいのねアイリス。でも悪いわね。私、そう言われるほど燃えるの……!!」


 アイリスの制止を振り切り駆け出すシャロ。

 そんな彼女にスパイドは曲大剣を振るう。剣はまっすぐとシャロに振り下ろされ彼女を袈裟斬りにする……かと思われたが、シャロはそれをスレスレの所で横に回避、そして走る勢いそのままスパイドの腹部を蹴り飛ばす!


「気功術、攻式三ノ型『不知火』!!」


 無防備な腹部に渾身の蹴りを食らったスパイドは「がっ……!!」と呻きながら後方に吹き飛ぶ。


「こいつ……っ!」


 思わぬ反撃に戸惑いながらもウルスは背中を見せたシャロに拳を振るう。

 死角からの攻撃。避ける術はないように思えたが、シャロは後ろを向かずにその攻撃を後方宙返りで避ける。


「そんな乱暴な攻撃じゃ私を捉えることは出来ないわよ? もっと女の子の扱いを学ぶことね!」


 ウルスの背中に回り込んだシャロは剣を抜き放ちウルスの背中を斬りつける。

 その斬撃は鍛え上げたウルスの岩のような背中をものともせず斬り裂き、辺りに鮮血を撒き散らす。


「つ、つよい……!」


 シャロの戦いぶりを見ていたアイリスは思わずそう漏らす。

 少し前までは同じくらいの強さだったはずなのに、今のシャロはその時とは比べものにならないほど強くなっていた。

 その後姿が、まるで伝説の勇者と重なって見えるほどに。


「さあかかってきなさい! 女の子に手を挙げるクズ男は一人残らず相手してあげる!」

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著者:熊乃げん骨
レーベル:オーバーラップ文庫
 発売日:2020年12月25日
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― 新着の感想 ―
[一言] シャロ、お前は立派な勇者だよ。 そしてウラカン、お前は生かして帰さん。
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