第32話 圧倒
突然現れた少年に戸惑いを隠せない魔族達。
しかし自分たちにもプライドがある。明らかに自分より年が下の少年、しかも劣等種族と蔑んでいる人間の子供に舐められたままなど許せなかった。
「ガキが……! 生きて帰れると思うなよっ!」
一人の魔族が痺れを切らしルイシャに突っ込んでいくと、それに続いて他の魔族達も走りだす。
血に飢えた魔族達の見た目は醜悪で恐ろしい。見ただけで普通の人間なら腰を抜かしてしまうほどだ。
しかしルイシャは恐怖心を勇気で抑え込み、魔族達に勇猛果敢に立ち向かう。
「……来いっ!!」
ルイシャに襲いかかるいくつもの剣や槍。それを肌に触れるスレスレで避けたルイシャは竜王剣を手の中に出して横なぎに振るう。
「がぁっ!」
その一撃は一気に三人の魔族の身体を斬り裂き、戦闘不能に追い込む。そしてそのまま前進し今にも武器を突き出そうとしている二人の魔族に気功術三ノ型『不知火・二連』を放つ。
両方の足で同時に繰り出された二つの不知火は二人の魔族の顎を的確に打ち抜き意識を刈り取る。
その鮮やかな武技に魔族達は額に汗を浮かべる。
「……なんだこのガキはっ!? いくら何でも強すぎる!! まさか竜族か?」
「いや感じる魔力は人間だぞ!」
「でも竜族でもなけりゃこの強さはありえねえだろ!」
竜族は成長が遅いので、一見子供に見えても何百歳と歳をとってることも珍しくない。なので魔族達はルイシャが竜族ではないのかと勘違いしているのだ。
(ま、竜族に格闘術を教えてもらってるからあながち間違ってないけどね……)
ルイシャは心の中でそう呟く。
気功術だけでなく普通の徒手格闘もリオから直々に教わっているのだ。そのせいでルイシャの格闘術は人間よりも竜族に近い動きになっている。
「近接は分が悪いっ! 魔法で攻めろ!」
魔族の一人がそう叫んだことで魔族達は戦法を切り替え魔法攻撃を放ってくる。
人間よりも肉体的に強い魔族だが。やはり彼らの真骨頂と言えばその高い魔法能力にある。大人になっただけで人間のベテラン魔法使いレベルには育ってしまう。なので兵士である彼らの魔法技術は人間とは比べ物にならないほど高い。
そんな魔族の殺意がふんだんに盛り込まれた魔法が次々とルイシャ目掛けて放たれる。
炎に雷に剣に槍、様々な魔法の一斉掃射。とても避ける隙間などありはしない。
しかしルイシャはまるで散歩でもするかのように魔法に向かって進み始めた。
その無謀な行動に戸惑う魔族達。命を捨てる気か? そう誰もが思った次の瞬間驚くべき事が起こる。
「ま、魔法が……避けてる?」
数え切れないほどの魔法の雨は、何故か一つもルイシャに当たらなかった。まるで魔法が意思を持ってルイシャを避けているようにすら見える光景だった。
その光景に圧倒され魔族達は気づかなかったがルイシャは時に頭を横に倒したり、立ち止まったりしていた。そうすることでルイシャは最低限の動きで魔法を躱してしたのだ。しかしそんな躱し方は魔法がどの位置に来るか知ってないと出来ないことだ。
未来を知るなんてあり得ないことだ……しかし今のルイシャはそれに近い事が出来るようになっていた。
(この魔法は……こっち。ここで止まって……ここで進む。あの魔法は当たらないから無視していい)
ルイシャの眼は完全に魔法の軌道を読むことが出来るようになっていた。それが何でかはルイシャも分からない。しかし少し前にダンジョンを抜け出してからたまに魔法を『視る』事が出来るようになっていたのだ。
この力を使えば力任せの魔法など散歩感覚で避ける事が出来る。
「到着……と」
堂々と真正面から魔族達の元へたどり着くルイシャ。既に彼の右手には魔法が完成している。
後は解き放つだけだ。
「に、逃げっ……!」
その莫大な魔力に怖じけ逃げようとする魔族たち。しかしルイシャはそんな暇など与えない。
思いっきり力を込め、魔法を打ち込むっ!!
「超位竜火炎!!」
ルイシャの右手から放たれた、竜の形をした巨大な火炎は魔族に逃げる暇を与える事なく喰らいついたのだった。