第30話 結界
「……なんか面白えことになってんな。一体どうしたんだ?」
巨大なムカデの上でぐったりしてるチシャを見てバーンは不思議そうに尋ねる。
「ははは……色々あってね、うっぷ、まあ多分大丈夫だようっぷ」
巨大ムカデのムーちゃんに乗ったチシャとカザハは猛スピードで街を駆け抜け、無事に閃光弾を放ったバーンの元にたどり着いていた。
しかしその乘り心地にチシャは気分を悪くし顔を青くしていた。
「と、とにかく会えて良かったよバーン。いったい何があったの」
「ああ、時間がねえから手短に話させてもらうぜ。実はな……」
バーンは何があったかをチシャとカザハに話す。
その驚きの内容に二人は顔を険しくさせ額に汗を浮かべ始める。
「……思ったよりもヤバそうやな。ウチの虫っ子達が怯えた様子なのもそれが原因で間違い無いやろな」
「そうだね。速いとこ魔族の連中が何しようとしてるか突き止めないと。でもその前にまずはこの結界をなんとかしないとだね」
チシャはそう言って見えない壁に近づき手を当てる。
触っても害はなさそうだ、軽く叩くとコンコンと音が鳴る。
「どうだ? 何かわかるか?」
「うーん、触っただけじゃ良くわからないね。もっと詳しく調べてみようか」
そう言ってチシャは結界を触る手に魔力を込め始める。
「魔力解析……!」
チシャの手から淡い青い光が出て、ゆっくりと結界に染み込んでいく。その光は結界の情報を読み取りチシャの脳内に送る。
「ふむふむ、どうやらこの結界は二つの効果の結界を重ねてるみたいだね」
「二つ? ただ硬いだけじゃねえのか?」
「うん、一つはバーンの言うとおり硬いだけの結界。さすが魔族が作った結界だね、この硬さは超位魔法でも壊せるか分からないよ」
「そ、そんなに硬いのか……」
バーンの今全力で放てる魔法でも上位魔法級が限界、それより上の超位魔法でも壊せないのであればバーンにはとても無理だ。無論一般的な学生からしたら上位魔法級が使えるだけで規格外なのだが。
「それともう一つが認識阻害の結界だね。これのせいで中にいる人たちは外の様子がわからない、ここでいくら騒いでも音も伝わらないよ
「はーん、そんな魔法があんのか」
「いやいや授業でもやったでしょ……まあいいや。問題はなんで魔族がこんなことしてるかだね」
チシャは頭を回転させて状況を整理する。
彼は生まれつき頭の回転が速い。これは解析魔法の才能を持って生まれたゆえの能力だとチシャは考えている。
解析魔法はただ使っても効果は薄い。脳に流れてくる情報の渦を解析、処理出来る優秀な頭脳がないと最大限に効果を発揮できないのだ。もし脳のキャパシティを超えた情報が脳に入って来たら効果が薄いだけでなく、最悪脳がやききれ廃人となってしまうだろう。
ゆえにチシャより魔法が上手いルイシャでもチシャほど上手く解析魔法を使うことはできないのだ。
「なんで城を結界で囲んだ……? 王国最高戦力の騎士団を閉じ込めて倒すため? いやだったら騎士団をバラバラに引き離すべきだ……」
ブツブツと呟きながら推理するチシャ。既にバーンとカザハの存在は頭の中から消えている。
「魔族が言ってたっていう『新しい魔王』『皆殺し』、そしてこの『結界』これらには必ず共通点があるはず……考えろ……必ず意味があるはず……」
極限に集中し考えるチシャ。
そして数分間考えた彼は遂に真実にたどり着く。
「……そうか! そういうことだったんだ!」
答えに到達したチシャは唐突にそう叫ぶ。
油断していたバーンとカザハは驚き「おわっ!」「きゃ!」と声を出す。
「なんや急に! 大声出したらびっくりするやないか!」
「ご、ごめんカザハ、でも分かったんだ。あいつらが何をする気か」
その言葉にバーンが反応しチシャに詰め寄る。
「本当か!? 教えてくれチシャ!!」
「うん、奴ら魔族は僕たちを生贄にするつもりなんだ」
「生贄!? 一体どういうことだ!?」
「ちょ、ちょっと服を引っ張らないでよ。いい? これは憶測だけど多分その新しい魔王ってのを作るには生贄が必要なんだ。そのために魔族は僕たちを皆殺しにしようとしてる。でもそんなことしようとしたら騎士団が止めるよね?」
「そらそうやろなあ。儀式が起きんと魔王は生まれんのやろ? 魔王がいないなら騎士団には勝てんやろなあ」
「そう、魔族の連中はそれを分かってる。だから騎士団をこの結界で閉じ込めたんだ」
そう言ってチシャは結界をポンポンと叩く。
「この結界は守るためのものじゃない。魔王が生まれる儀式が完了するまで騎士団を閉じ込めるための牢獄なんだ」