第26話 閉ざされた道
一方その頃バーンは気を失った魔族を肩に抱えながら街中を全速力でダッシュしていた。
「どけどけぇ! ぶつかっても知んねえぞ!」
通行人が多い街中をそう叫びながら走っているので当然住民たちには白い目を向けられるが、今はそんなこと気にしている暇はない。ここでモタモタしていれば彼らを死なせてしまうかもしれないのだから。
「はぁ、はぁ、よし。もうすぐ、つくな」
息も絶え絶えになりながらバーンが目指す先、それは王城だ。
バーンがルイシャから託された役目。それは王城に出向き、王子であるユーリに何があったかを説明して王国騎士団に協力を仰ぐことだった。
そのために捕まえた魔族を持って行っているのだ。本来外出禁止である魔族を連れていけば話の信憑性も高まる。
このミッションの肝はユーリに会えるかどうかだ。
もしユーリに会えさえすれば彼は友人の言うことを信じ即座に動いてくれるだろう。
しかし城の守衛がバーンをすんなり通してくれるかといえば、そうは上手く行かないだろう。バーンはお世辞にも信用できる見た目はしていない。
いくら魔族を連れているからと言っても、もし信じてもらえな変えれば最悪怪しい人物として捕まってしまう可能性すらある。もしそうなったらかなりの死者が出ることになるだろう。
それだけは避けなければならない。
「ルイシャとヴォルフも頑張ってんだ。俺だってやってやる……っ!!」
そう小さく呟き決意を固めたバーンが足に力を入れ、速度を上げた瞬間……ゴチン!! と頭を何か硬い壁のような物にぶつけてしまう。
「痛っ……てぇっ!!!! なんだ!?」
ぶつかった衝撃で尻もちをつくバーン。確かに急いではいたが人や建物にぶつからないよう注意はしていた。それなのになぜ!?
まだ衝撃でぐわんぐわん揺れる頭を擦りながら目を開くバーン。するとそこには……何もなかった。
「あ? 何もねえじゃねえか。一体さっきの衝撃は何だったんだ?」
戸惑いながら起き上がり、バーンは先程の衝撃が何だったのかを確かめようとする。
恐る恐るさっき自分が何かにぶつかった所まで行き、手を伸ばすと何か硬い壁のようなものに指先が触れる。
目には見えないが確かに何か壁のようなものがある。自分はこれにぶつかったのだとバーンは理解した。
「これは……結界魔法か? 一体何のためにこんなもんが」
ルイシャから結界魔法のことを聞いたことあるバーンはその壁が結界魔法だということはすぐ理解した。
しかしなぜ王城に結界魔法が? もしかして既に事態を理解した王国が守りを固めたのか?
頭に?マークを浮かべながら悩むバーン。ヴォルフと同じく彼も頭を動かすのは苦手なのだ。
そんな彼の壁を挟んで向こう側に、王城の守衛らしき人物がやってくる。おそらく見回りをしてるのだろう。辺りをキョロキョロしながら歩いている。
「お! ちょうどいい所に来やがった」
一体何が起こっているかを聞こうと思ったバーンは。その透明な壁をガンガン叩きながら「おーいっ!!」と大声で守衛に向かって呼びかける。しかしその守衛はバーンの声が聞こえてないのかチラリともこちらを見ようとしない。
「あ? 聞こえねえのか? だったらしょうがねえ、上位爆破ァ!!」
業を煮やしたバーンは壁めがけ爆破魔法を発動する。ズゴォン!! と轟音を響かせながら爆発する透明な壁。かなりの衝撃が壁にかかったはずなのだが、その壁にはヒビ一つはいっていなかった。
「……マジかよ、この魔法でも壊せねえとかどんだけ強力に作られてんだよ。だが流石にこれだけの音が鳴りゃあ流石に気づくだろ」
そう思って守衛の方に目をやるバーンだが、なんと守衛はチラリともバーンの方を見ていなかった。
それどころかあくびをしながら眠そうに歩いている。とても爆音が聞こえたようには見えないし、聞こえていて無視している風にも見えない。
「嘘だろ……! まさか認知阻害の結界もあるのか!?」
硬いだけの結界魔法ならさっきの爆発で気づくはず。ということはこの結界には更に認識阻害効果のある結界もはられている可能性があるとバーンは気づく。もしそうなら中の守衛からは爆発音はおろかバーンの姿すら見えていない。このように二つの効果の結界魔法を重ねることを二重結界という。
「……こりゃあ俺だけではどうしようもねえ。あまりやりたかなかったが誰かに頼るしかねえ」
そう言ってバーンが取り出したのは紐が付いた小さな筒。
それを先っぽを空に向けて紐を引くと、小さな火の玉がポン! と発射され空中で赤い閃光を放ち小さく爆発する。
「よし、これでいいはずだ」
バーンはそう呟くと、その場に腰を下ろして少し休憩するのだった。