第24話 紛れる悪意
「ハァ、ハァ、クソッ中々見つからねえな」
まだ人通りも多い王国商業地区。
ヴォルフはそこで人の中に紛れ込んでいる魔族を探していた。
彼らは巧妙に姿を隠して溶け込んでいる。大勢の人の中に紛れ込まれてはルイシャですら見つけるのには時間がかかるだろう。なのでヴォルフは紛れ込んでいる魔族を探す役割を買って出たのだ。
風下に立ち、必死に匂いを嗅ぎ取ろうとするヴォルフ。そんなことを続けているとようやく大量の匂いの中からお目当ての匂いを嗅ぎ当てる。
「……ん? この匂いは!」
一度見つけてしまえば後は辿るだけ。
人通りの中をすり抜けるように走り抜けたヴォルフはお目当ての人物の後ろに音もなく忍び寄ると、人目がない隙を見計らって思い切り蹴飛ばし路地裏に押し込む。
「……グッ! いてえ! 一体なんだ!?」
突然蹴飛ばされ困惑する男。見た目は普通の人間の男にしか見えない。
しかしヴォルフの鼻はその男が人間ではないことを確実に見抜いていた。
「……ったく手の込んだことしやがって、おかげでこんな手間かかることしなくちゃいけねえじゃねえか!」
苛々しげにそう呟きながら男へ近づいていくヴォルフ。
ヴォルフは大通りを背にしながら近づいているため男は逃げ場を失っている。
「時間がねえ、眠っててもらうぜ」
「ちょ、ちょっと待て! 私が何をしたと言うんだ! お前は無実の人間を殴るのか!?」
あくまで自分は人間だと言い張る男。しかしヴォルフはそんな見苦しい言い訳に耳を貸さず、腕を大きく振り上げ力の限り振り下ろす!
「……オラァ!!」
腰の入った渾身の正拳突きが『ゴンッ!!!!!』と男の顔面をしたたかに殴りつける。
いくら頑強な魔族といえど獣人の拳を顔面にマトモに食らっては無事では済まない。見事に後方に吹っ飛んだ男は路地の壁に後頭部をめり込ませグッタリと動かなくなる。一瞬「死んでねえよな?」と不安になるヴォルフだが、指先がピクピクと痙攣しているのに気づき胸を撫で下ろす。どうやら気絶しているだけのようだ。
そして少しすると気絶した男に角と尻尾が現れ始める。やはりヴォルフの鼻は正しかったようだ。
「ふう、これで一人か。いってえ何人いやがんだ」
何人の魔族が人混みに紛れているかわからない以上ヴォルフに休む暇はない。それにこの気絶した魔族が逃げないようにする必要もあるし問題は山積みだ。しかしルイシャもバーンもそれぞれが大事な役割を果たしに行っている。
なので二人に助けを求めるわけにはいかない。これくらいの障害自分で解決しなければルイシャに合わせる顔がない。
「さて、まずはこいつをどう処理すっかだな」
縄で縛るのは論外だ。仮に鉄の鎖などで縛っても魔法に長けた魔族を長時間捕縛するのは難しいだろう。
「ううむ……」と頭を働かせるヴォルフ。しかしいくら考えども頭が熱くなるばかりでいい案は一向に思い浮かばない。しばらくその場で考え込むヴォルフ、すると彼の鼻に嗅ぎ覚えのある匂いがふっと入り込んでくる。
「この匂いは……!」
すぐさま駆け出し路地裏から飛び出たヴォルフは、人混みの中にその人物を発見し急いで声をかける。
「おい! こっちだ!」
「ん? 誰だ?」
ヴォルフの呼びかけに反応し振り返るその人物。いや人物達と言った方が正しいか。
彼らは振り返りヴォルフを見ると嬉しそうな顔をして彼に駆け寄る。
「おう! どうしたんだヴォルフ! 今日は兄貴は一緒じゃねえのか?」
「ああ、大将はここにはいねえ。それより今ちょっと大変な状況なんだ。力を貸してくれねえか?」
それを聞いた彼ら……冒険者パーティー『ジャッカル』の三人は真剣な顔つきになりヴォルフにいう。
「話を聞かせてくれ。俺たちで良ければいくらでも力を貸すぜ!」