第20話 狙い
「クソが……! 変装魔法を見破るとはてめえホントに何者だ?」
男達が使っていたのは変装魔法と呼ばれる珍しい魔法だ。それも角と尻尾を完全に消し、魔族特有の独特な魔力をも人間の魔力に似せてしまう高度な魔法だ。
普通であればまず気づかれることはないだろう。ルイシャですらヴォルフが彼らの変装魔法では消しきれなかった匂いに気づかなかったら、彼らを見逃していたかもしれない。
しかし彼らを観察するうちにルイシャは変装魔法を見破ることが出来るようになっていた。
理屈は分からない。だがいつの間にかルイシャの左目はうっすらと黄色に変わり彼らの変装魔法を看破できるようになったのだ。
「何者か答えんのはそっちだ。お前らこんなとこで何してんだ?」
「近づくんじゃねえよ獣人風情が。俺たちが何しようがお前らには関係ねえだろうが」
「あ!? 関係大アリだろうが。そもそもお前らの外出は許可されてねだろうが」
先ほどルイシャも言った通り今回入国した魔族達の外出は許可されていない。
フロイ王が国民を怖がらせないように大臣にそう約束させたのだ。そのおかげで国民も暴動を起こすほどの混乱は起こしていない。
しかし変装して街に紛れ込んでると知られればかなりの大事になるだろう。
「わざわざ遊びたいだけでこんな危険を犯すとは思えない。何か大きな理由があるんじゃないですか?」
ルイシャの鋭い指摘に魔族の男は口をつぐむ。
どうやら話せない狙いがあるようだ。
「どうする大将? ひとまず騎士団に突き出して尋問させますかい?」
「うーん、それだと時間がかかり過ぎるかもしれないね。もしかしたら状況は僕たちが思ってるより悪い可能性がある。早いうちに狙いを聞き出さないと」
そう言ってルイシャは右手の人差し指に魔力を込める。
すると指先にバチバチッ! と電気が流れ始める。音こそ大きいが威力は大した事なさそうだ。一体これでどうやって口を割らせるというのだろうか。
「へへ、随分と可愛い魔法だな。それで俺をどうしよってんだ?」
魔族の男は余裕の表情でルイシャを挑発する。自分の忍耐力によほど自信があるのだろう。
ルイシャは彼の言葉に耳を貸さず、魔法に集中し……そして「せいっ」と急に電気を溜めた人差し指を男のこめかみに突き刺した。
「あ、あばばばばばっ!!」
脳に電気を食らった男はそう大きな声を上げながら口から煙を吐き出す。
その声に目を覚ました男の仲間の一人は、隣で拷問のような事をされている仲間を見て「「ギャアアアアア!!」」と声を上げ後ずさる。
「お、おい大将! そんなことして大丈夫なのか」
その凄惨な光景を見て流石に心配するヴォルフ。
そんな彼とは対照的にルイシャはケロっとしていた。
「大丈夫大丈夫。見た目ほどダメージはないから。自分を実験台にして練習したけど大丈夫だったからね」
「ええ……そんなことしてんのかよ。もっと自分の身を大事にしたほうがいいぜ大将」
一見マトモな常識人に見えるルイシャだが、こと強さの事になると狂気的な側面が垣間見える。
新しい魔法を覚えるときなどはよく自分の体を実験台にしているのでシャロに叱られることも多々あった。
「はは、わかったわかった。……あ、目を覚ましたみたいだよ」
ルイシャに電気を流された魔族の男はゆっくりと目を開けるとぼんやりとした感じでルイシャ達を見る。心ここにあらずといった感じだ。いったい彼に何が起きたのだろうか。
「ええと……まずは名前を教えてくれますか?」
「ちょ、大将。そんなこと言うわけがないじゃねえですか」
そう当然の反応をするヴォルフ。
しかし男の反応は意外なものだった。
「俺……の、名前、は、エラゴ、です」
なんと素直に自分の名前を喋り出したではないか。
驚いたヴォルフはルイシャの方を見る。するとルイシャは得意げな顔で今使った魔法を解説する。
「これは僕のオリジナル魔法『催眠電撃』だよ。催眠魔法を電撃に混ぜて脳に直接打ち込むことで、抵抗されやすい催眠魔法の成功率を大幅に上げたんだ」
「す、すげぇえげつねえ魔法だな大将! さすがだぜ!」
「それ褒めてる……? まあいいや。じゃあ次は君達魔族がここに来た本当の理由を教えて貰えますか」
「俺たち、が、王国、来たのは……」
ようやく聞ける彼らの目的にルイシャとヴォルフは耳を澄ます。
「王国の、人間を、皆殺、しにし、て、新しい、魔王、をつく、る。ため」
男の口から語られたのは、ルイシャ達が想像しているよりも凄惨な計画だった。