第15話 不安
その日の放課後。
ルイシャは友人のバーンとお供のヴォルフを連れて通りを歩いていた。
「なあんか、嫌な感じだな」
そう言葉を発したのはバーンだ。
「みんなそわそわしてやがる。そんなに魔族が怖いかね」
バーンの言う通り道行く人は不安そうな顔をしている。
皆が用を済ませるとまるで逃げるように帰っていく。どうやらなるべく外にいたくないようだ。通りを歩く人の数も少ない。
そんな町の様子を見て不満を漏らすバーンをヴォルフは諫める。
「みんながみんなお前みてえに能天気じゃねえんだよバーン。お前も少しは危機感を持った方がいいゼ」
「あ? もしかしてお前ビビってんのかよ」
いつものように喧嘩腰でヴォルフに絡むバーン。
こう言う時はいつもヴォルフも喧嘩を買ってそれをルイシャやシャロやユーリが諫めるという流れなのだが、今日は少し違った。
「ビビる……確かにそうかもな。俺も出来ることなら魔族となんざ戦いたくねえ」
「へえ意外だな。随分謙虚じゃねえか」
ルイシャもその言葉に内心少し驚いていた。
ヴォルフもバーンほどではないが少し話を盛る癖がある。そして自信家でプライドも高いので中々こういうことを言うことはないのだ。
「うっせえな、魔族は獣人にとっちゃ天敵みてえなものなんだよ。魔法が苦手な俺たちは魔族に遠距離魔法で攻められちゃ打つ手がねえ。事実大昔に獣人は魔族に滅ぼされかけてっからな」
その話はルイシャも知っている。
魔族に滅ぼされかけられた獣人は同じ境遇にあった人間と手を組んで魔族に立ち向かい、紆余曲折あって和解に至ったのだ。
「ふーん、そんなに恐ろしいもんなのかねえ魔族ってのは」
しかしあまりピンと来てない様子のバーン。
まあ話でしか聞いたことがないので当然の反応ではある。
そんなこんなをしてる内に三人はお目当ての場所に辿り着く。
そこは小さな露店で、ガタイのいいおっさんが一人で肉を焼いていた。
「おじさん、大串三本ちょうだい!」
「ん? おおルイシャの坊主じゃねえか! それにヴォルフにバーンも。こんな時にきてくれっとはありがたいねえ」
このハゲ頭にねじり鉢巻のおっさんの名前はマーカス。少し前にヴォルフのことを泥棒と疑った商人だ。
あの時は険悪だったが、誤解が解けマーカスが素直に謝罪したことにより二人の溝は埋まり今ではよくマーカスの店に来るようになっていた。
色々手広く商売をやっているマーカスだが、今力を入れてるのはギガバッファローの肉を使った串料理だ。歩きながら食べれる手軽さが学生や冒険者に受け繁盛しているらしい。
ルイシャ達も気に入っており男子連中はみんな一回は来たことがあるほどだ。
なのでいつもだったら行列が出来てて並ばなければいけない……のだが今日は全然人は並んでなかった。
「やっぱり今日はお客さん少ないんですか?」
「ああ、客足はガッツリ減っちまったよ。冒険者の連中もたくさん王国を出て近くの国や村に避難しちまってるらしいし一体どうなっちまうんだろうねこの国は」