第14話 決意
魔族の一団が王国を訪れたという前代未聞のニュースは、次の日には王国中に広がっていた。
ウラカン達は堂々と正門から入り、大通りを通って王城まで行進したのでかなりの人の目に止まっている。噂が広まるのも当然だ。
そしてその日のZクラスもその話題で持ちきりだった。
「ねえ、ルイは魔族の件何も絡んでないの?」
「……面倒ごとには僕が関わってると思ってるでしょシャロ。残念ながら魔族の一件は何も関わってないよ」
「そうなんだ。はあ、いったいあいつら何しにきたのかしら。面倒事を起こさないでいてくれるといいのだけれど」
「そうだね……」
シャロの言葉を聞くルイシャの内心は複雑だった。
なぜならルイシャは魔族が悪い人ばかりじゃないことを知っているからだ。彼らは人間よりも魔力と身体能力が高いだけで中身は人間と大差ないのだ。
しかし人間が魔族に対して恐ろしいイメージを持っていることもまた理解していた。人間は自分の知らないものを恐れる。それが自分より強いものなら尚更だ。
どうにかしてそのイメージを払拭したいと考えたこともあるが、魔族と人間の壁は未だ厚く容易には崩せないことをルイシャは理解していた。
「ねえアイリス。アイリスは今回の件どこまで知ってるの?」
ルイシャはシャロとの話を切り上げ吸血鬼のアイリスに話を振る。もちろん他の者には聞こえないよう小さな声で。
吸血鬼も広義で見れば魔族の一種だ。現にアイリスの頭部には髪で隠れているが小さな角が生えてるし、スカートの中には尻尾も収納されている。
そんな彼女なら今回の件も何か知っているだろうと思ったのだが返ってきたのは意外な言葉だった。
「……すみませんルイシャ様。残念ながら今回の件は私もあまり把握出来ていないのです」
「へ? そうなの?」
「はい。魔王国に残った私の仲間もいるのですが、なぜか今回の件の報告はありませんでした。もしかしたらこの訪問は魔王国も知らないのかもしれません」
「そ、それってまずいんじゃないの? 誰かが国に内緒でこんなことしてるってこと?」
「そうなりますね……。調べたところによりますと今回の訪問の首謀者は大臣グランツと名家出身のウラカン。大臣の方はそんなに頭が回る人じゃないのですが、ウラカンは色々黒い噂がある油断ならない人物です」
「なるほど……気をつけなきゃいけないね」
ルイシャはアイリスの話を聞いて自分の中で警戒度を上げておく。もしかしたら戦闘になるかもしれない。
そんなことを話しているとレーガス先生が教室に入って来たので生徒はみんな自分の席に戻った。
「えーじゃあ全員揃っているようみたいなので授業を始めるぞー」
「ちょっと待ってください先生。まだユーリとイブキが来てませんよ」
ベンの言葉通り二人は席についていなかった。ユーリは入学してから遅刻をしたことがない。珍しいこともあるもんだとルイシャは朝から思っていた。
「あーそのことなんだがな。なんか体調不良って連絡があってな。しばらく休むそうだ」
その言葉を聞いたルイシャは心臓が冷やされるような感触を覚えた。
間違いなく良くないことが起きようとしている。絶対にみんなは守らなくちゃ。
そう固く決意するのであった。