第12話 王国の盾
「はあ……帰りてえなあ……」
エクサドル王国正門門番、カルロス・モーンは自分の心境とは対照的に晴れ渡る青空を見ながらそう嘆息する。
彼はこの仕事に誇りを持っている。一見地味に見える門番という仕事だが、彼には地味ながらも王国をこの身で守っているという自負があったのだ。
なのでどんな訪問者、例え他国の王が入国してこようが堂々と接する自信があったのだ。
しかし今日来訪する人物に対してはその誇りも消え失せるほどの恐怖心を持っていた。
「まさか魔族が来るなんてなあ……」
人間族と魔族の関係は途絶えて久しい。
なので魔族を直接目にする機会など普通の人にはほとんどない、あるとすれば政治に関わるものか世界中を旅する冒険者ぐらいのものだ。
そのため一般人の魔族に対するイメージは本や昔話に出てくる聞きかじったものになる。そして物語に出てくる魔族はだいたいおぞましかったり悪者だったりと悪い方向にに誇張されている。なのでカルロスも魔族という種族に恐怖を持っていた。
そんな彼の不安心を感じ取ったのか、カルロスの横に立った人物が声をかける。
「どうした? いつもの元気はどこに行ったんだカルロス」
「え、エッケル団長! すいません情けないところをお見せして……」
カルロスに声をかけたのはエクサドル王国最強部隊の『エクサドル王国騎士団』の団長『エッケル・プロムナード』であった。
二メートルを超す大きな体に巨木の如き太い手足、短く揃えた金髪に薄く日焼けした肌。体に負けずゴツい顔はお世辞にもイケメンとは言えないが、不思議な愛嬌があった。
彼こそ『王国の盾』の異名で大陸中に名前を知られる実力者だ。その実力は大陸一の剣の使い手と呼ばれる『帝国の剣』と呼ばれる帝国剣士とよくどちらが強いか議論されるほどだ。
普段は王の守護を担当しフロイの側から離れないエッケルだが、国の非常事態のため王の元を離れ魔族の入国を監視しにきたのだ。
「まあお前が緊張するのも無理はない。誰も初めて見るのものには緊張するものだ。無論私も含めてな」
「だ、団長も緊張したりするんですか」
カルロスにとってエッケル団長は雲の上のような存在だ。
そんな人物が緊張するだなんてとても信じられなかった。
「はは、私だって人間だ緊張ぐらいするさ。しかし私は国を代表する身、弱みを見せるわけにはいかないから隠しているだけさ」
「団長……ありがとうございます。おかげで震えが少し収まりました」
「それでいい。お前は騎士団ではないが同じ国を護ると決めた同志だ。期待しているぞ」
その言葉に目頭がジン、と熱くなったカルロスは思わず目を手でおおい……そして手を離す頃には覚悟を決めた顔になっていた。
「それでいい。向こうのほうが戦力が上だろうと弱みを見せてはいけない。気持ちで負けてたら勝てる戦も勝てないからな」
「はい! もう大丈夫です!」
国にその身を捧げた男たちは、襲いくるであろう脅威に立ち向かう覚悟を決めるのであった。