第11話 隔離
「ま、魔王国がですか!?」
父の思わぬ言葉にユーリは驚く。
普段は飄々としているイブキさえも兜の中で額に冷や汗を浮かべる。それほどまでに魔王国が王国に接触してくることは異常事態なのだ。
「いったい今更何のために……? 何が目的なんだ?」
不可侵条約が結ばれてから魔王国は人間領に干渉することはなくなった。
完全に交流がなくなったわけではないが、それも年に一回の大陸中の国が集まり会議をする『統一会議」の時に顔を合わせるぐらいであり、一つの国同士で面と向かって話をするようなことはなかった。
「いったいいつ頃彼らは来るのですか?」
「……明日だ」
「は、早すぎる! これでは対策の立てようがないじゃないですか!」
取り乱すユーリ。
それを諭すようにフロイ王は優しい口調で話す。
「そうだな、それが奴らの狙いだろう。しかし焦っては奴らの思う壺だ、こういう時こそ冷静に対処しなくてはいけない」
「……す、すみません父上、取り乱しました」
失態を晒したことを恥じて謝るユーリ。
「してどうされるおつもりなのですか?」
「当然彼らを招き入れる、ここで断れば私は友好国を門前払いした薄情者とされるだろう。そうなれば他国との関係も危うくなり帝国に弱みを晒すことになる」
「しかし危険では? とても彼らがただ友好を深めに来たとは思えません」
「だろうな。聞けば今回の訪問の責任者はグランツ大臣のようだ。彼はあまりいい話を聞かない、宰相であるポルトフィーノ殿であれば信用できるのだが……どうやら彼は今回の件に絡んでないみたいだ」
「つまり今回の訪問はそのグランツ大臣の独断で行われてる、ということですね」
「左様。彼は戦果で成り上がった武闘派だ。強引な手に出る可能性は十分にある」
ここまで様々な情報を聞いたユーリは解決策を考える。
しかしあまりにも状況が悪い。相手は人間よりもはるかに高い戦闘能力を持った魔族。そんな者を国中枢まで招かなくてはいけないのだ。一瞬ユーリの脳裏にルイシャの顔が浮かぶが、流石にこんな危険なことを頼むわけにはいかない。
そんな風に悩むユーリに、フロイ国王は思わぬ言葉を投げかける。
「ユーリ、お前は避難していろ。魔族の相手は私一人でする」
「な!? しかし!!」
驚き立ち上がるユーリ。
今にも詰め寄ってきそうな彼をフロイ王は手で制する。
「今大事なのは王家の血筋を絶やさぬことだ。もし私に何かがあったとしてもお前が生きていればこの国は死なぬ」
「そこまでの覚悟を……!」
自分の命よりも国の未来を案じるその考えにユーリは何もいうことが出来なくなり言葉を飲み込む。
それに父の言葉は正しい、正し過ぎる。とても反論の余地はない。
ガックリと項垂れるユーリを見たフロイ王はイブキに目を移す。
「イブキよ」
「は、はいっす!」
突然話しかけられいつもの口調に戻ってしまうイブキ。
やってしまったと口元を抑えるが、そんな些細なことフロイ王は気に留めてなかった。
「ユーリを頼む。守ってやってくれ」
「ま、任せてください! それは私の使命ですので!」
イブキの力強い言葉に満足して優しく頷いたフロイ王は、もう話すことは終わったと二人を退席させ部屋に一人になる。
「打てる手は打った……。来るなら来るがいい、私の国はそう簡単には落とせぬぞ」
まだ見ぬ敵を見据え、フロイはそう口にするのだった。