第9話 蹂躙
魔族はその名の通り魔法に愛された一族だ。
生まれた時から豊潤な魔力を持って生まれ、先天的な異常がない限りほぼほぼ全ての魔族が大人になるまでに魔法が使えるようになる。
そして人間にはあまり知られていないのだが彼らは身体能力も高い。流石に獣人や竜族には及ばないが一般的な人間の身体能力を大きく上回っているのだ。
そんな魔族が凶悪な武器を持ち、さらに訓練された兵士であったならとてもではないが普通の村人が敵うはずもない。
「ひゃひゃひゃ! 脆い、脆すぎるぜぇ!!」
歓喜の叫びを上げながらスパイドは村人をその手に持った刀で切り刻んでいく。
中には武器を持った屈強な村人もいたが、スパイドは武器ごと叩き斬りその命を奪っていく。
「あーあ、すっかり気持ち良くなってやがる」
その様子をうんざりした顔で眺めるウルス。
そんな彼のもとへ槍を持った村人が突っ込んでくる。明らかにヤバそうなスパイドは手に負えないと判断したのだろうか。
「よくもやってくれたな! 死ねえ!!」
渾身の力で放たれる突き。ただの村人にしては力の入ったいい突きだ。
槍の先端はウルスの腹部に音を立てて命中した……のだが、なんと槍はウルスの腹筋を貫くことができず止まっていた。
「ば、馬鹿な……!」
「ふん、そんな腑抜けた攻撃じゃ俺の筋肉は貫けねえ」
そう言ってウルスは呆然とする村人の頭部を上からバシッと叩く。
それだけで村人の体は地面に叩きつけられ動かなくなる。
「こんな弱い奴らと戦っても予行練習にもなんねえが……まあいい。ストレッチぐらいにはなるか」
そう言ってウルスは逃げ惑う人々を蹂躙し始める。
潰し、千切り、殴り、砕く。
人間離れした怪力で繰り出される殺人技に人々は逃げ惑うことしかできない。運よく村から脱出できたとしてもそこには他の部下が回り込み始末する。
もう彼らに逃げ場は残ってなかった。
「はっはぁ! お前もノってきたな!」
「お前と一緒にするなスパイド。……しかし血が滾らないと言えば嘘になるがな」
殺戮の快楽に身を委ねる二人。
そんな彼らの様子を見ながらウラカンは血のように赤いワインを飲む。
「ふふ、やはり人間が死にゆく様を見ながらの酒は美味しい。最高の肴だよ」
そう言って恍惚とした表情でワインを流し込むウラカン。
そんな彼のもとへ惨状を見かねた大臣のグランツは詰め寄る。
「おい! なんだアレは!? こんな事をするなんて聞いてないぞ!?」
「おやおや大臣。こんな些細な事で大きな声を出さないでくださいよ。せっかくの美酒が不味くなってしまう」
「そんな事知るか! ただでさえ私は危ない橋を渡ってお前達に手を貸してるんだ! もしこんな凶行がバレて私が責任追及されたらどうしてくれるんだ!?」
喚き立てるグランツにウラカンはやれやれと言った感じで首を振る。
彼は「しょうがないですね」と立ち上がると右手を村に向かってかざす。するとそれを見たウラカンの部下達が村から急いで離れ始める。
「おい、何をする気だ……!」
「そんなにバレるのが心配なら証拠を残さず消して差し上げますよ。超位広域火炎!!」
ウラカンの手から放たれた巨大な火炎は村を一瞬で飲み込み激しい熱気を辺りに撒き散らす。
その炎に人も建物も一切が焼き尽くされ……一分も経たぬ間にかつて村だったそこは焼け野原になってしまう。
それを見て満足したウラカンは大臣に「これでいいでしょ?」とニカっと笑いかける。
「あ、ああ……」
困惑しながらもグランツは高揚していた。
今ほどの強力魔法、いかに魔法の得意な魔族といえどそうそう使える者はいない。目の前の若造は確かに性根は腐ってるかもしれないが能力面においては信頼できる。
「さて、それじゃ出発しようか」
グランツが納得したのを見たウラカンは再び馬を走らせる。
リラックスした表情でウラカンは自分の手に光り輝く紋章を見ながら呟く。
「物足りないなあ、僕の退屈を満たせる相手がいればいいのだけれど」