第7話 魔王の書
「ふんふふーん♪」
先頭の馬車の御者台に座りながらウラカンは気持ちよさそうに鼻歌を歌う。
現在ウラカン一行は無事人間領の関所も越え人間領に入ることに成功していた。ゴツゴツした岩だらけの地面である魔族領と違い人間領は緑にあふれている。そこを馬車で走るのは気持ちいいのでウラカンは風に当たっていた。
「ご機嫌ですねボス」
「ん? ああウルスか」
馬車から顔を出しウラカンに話しかけたのは彼の部下の大柄の魔族ウルスだった。
彼は大きな体を器用に動かし御者台に乗り移るとウラカンの隣に座る。
「そりゃご機嫌にもなるさウルス。ここまで綺麗に筋書き通りだとね」
ウラカンの計画で一番の難所は許可証を発行できる人物を仲間にし無事に人間領に侵入することだった。
それさえ達成出来ればもうこの計画は成功したも同然。つまり自分はもう魔王になったも同然だと思っていた。
「ふふ、楽しみだなあ」
ウラカンは懐から一冊の本を取り出し、その表紙をうっとりした顔で撫でる。
そのタイトルすら書かれていない茶色い表紙の本こそウラカンがこの計画を建てるキッカケとなった代物だった。
今までは自室に厳重に保管していたので現物を見たことがあるのはウラカンだけなのでウルスはそれを物珍しい目つきで観察する。
「ボス、それが……!」
「ああ、これが『魔王の書』さ」
そう言ってウラカンは自慢気にその本を部下であるウルスに見せつけるが、ウルスにはその本は普通の本にしか見えなかった。もちろんそんなことは声には出さなかったが。
「素晴らしいです、ボス」
「ふふ、そうだろう? この本が僕の代、しかも魔王が不在の今見つかったのは運命と言っていい。今新しい魔王が生まれれば親魔王派も僕に鞍替えするだろう。天が僕に魔王になれと啓示してるんだよこれは!」
熱の入った口調でそう捲し立てるウラカン。
側から見たら狂ってるようにも見える。しかしウルスはこの狂信にも似たナルシズムを評価していた。
ナルシズムに実力が加われば、それは立派なカリスマ性へと変貌する。
ウルスはそれを期待しウラカンに付き従っているのだ。
「楽しみだなあウルス」
「ええボス」
そんな風に話しているとウラカンは前方に何かを発見する。
「……ん? なんだあれは」
「村、のようですね。このまままっすぐ進むとぶつかってしまいますがいかが致しますか?」
「ふふふ、つまらぬ事を聞くんじゃないよウルス君。私が人間の為に進路を変えるとでも?」
「……そうですねボス。ではこのまま真っ直ぐ行きましょう」
「くく、後ろの部下達もそろそろ我慢の限界だろう。ここらでガス抜きさせてやらなくちゃな」