第3話 誘惑
「ふふ、さすが魔王国宰相と言ったところだね。歳はとってもあそこまでの圧を出せるなんて。並の『王』より強いねアレは。忠誠心も高いしとてもじゃないが仲間に引き込むのは難しそうだ」
「ふむ、でしたらどうなさいますか?」
「なあに他にも手はある。そのためにわざわざこんな人目のつくところでやりとりをしたんだ」
「……? それはどういうことですか?」
「ふふ、あっちをみてごらん」
ウラガンがそう言うと、ちょうど一人の魔族が近づいて来る。
スーツに身を包んだ壮年の魔族、彼は野心家として知られる魔王国大臣の一人グランツだ。
彼を確認したウラガンの部下は「なるほど」と納得する。
「わざと見せつけて協力者を炙り出したんですね」
「そういうこと。さあ我らの支援者を歓迎しようじゃないか」
ウラガンは悪魔的な笑みを浮かべながら協力者を迎え入れる。
「こんにちは大臣。私に何か用でしょうか?」
「堅苦しい挨拶は抜きにしようじゃないかウラガン君。私は君の先程の話に興味があるんだ、ぜひ詳しく教えてくれないか?」
まんまと自分の話に引っかかったことにウラガンは心の中で高笑いする。
しかしそんな様子は表には一切出さず、あくまで紳士的に振る舞う。
「ええもちろん。しかしこれより話すのは極秘事項であるため一つだけ約束していただきたいのです」
「約束? なんだ言ってみろ」
「それは……人間領へ入るのを許可していただきたいのです」
領をまたぐには二つ方法がある。
一つはそれを管理する組織に申請を出し、認可されること。
もう一つは宰相であるポルトフィーノか大臣に特例として許可をもらうこと。
ウラガンの狙いは初めからこれだったのだ。
「人間領に? しかし……ううむ」
人間領で問題を起こせば最悪戦争になりかねない。
野心にあふれているこの大臣もさすがにそれは躊躇する。
しかし躊躇するということは迷っているということ。ここが攻め時と見たウラガンはグランツに接近しその目を間近で覗きこむように見る。
「なにを迷っているのです大臣。今こそ強い魔族の時代を取り戻すときじゃないですか。そしてあなたはその立役者となるのです」
「わ、私が……?」
「ええ、他の腑抜けた宰相や大臣ではなくあなたしかいないのです。英雄になりたくはありませんか?」
「英雄……私が……!」
「そうですあなたは英雄になるべくして生まれてきたのです……」
そんな二人の会話を聞いていたウラガンの部下スパイドは思わず「うへ」と声をもらす。
今ウラガンがやってるのは誘導催眠だ。相手の欲望を上手くつついて自分の思う方へ相手を誘導する。ウラガンがよく行う政治術だ。
彼の持つ『催眠眼』という魔眼の一種の効果も加わり成功率は非常に高い。特にグランツのような欲深い者への成功率はほぼ百パーセントだ。
グランツを無事味方に引き入れたウラガンはほくそ笑む。
(くくく、とうとう私の時代が来る! 私が魔王になるのだ!)
悪意が、動き出す。





