第2話 繋ぎ
「新たなる魔王だと? 馬鹿馬鹿しい! どうやらベルフォモンテ家も落ち目のようだな!」
ウラカンの狂言とも取れる言葉にポルトフィーノは声を荒げる。
しかしウラカンはそれを見ても表情を崩さず笑みを浮かべていた。
「ポルトフィーノ様がお怒りになるのも無理はありません。あなたは国内でも随一の親魔王派だ。新しい魔王を簡単に受け入れられるはずもない」
「ふん! 分かってるならさっさと自分の領地に帰るんだな! 反魔王派と話す口など持ち合わせておらん!」
そう言ってポルトフィーノはしっしと右手で追い払うようにジェスチャーをする。
だがウラカンは引き下がらない。ポルトフィーノは魔王国でもかなり権力のある立場だ、だというのにここまで言われても引き下がらないのはいくら名家の出だとしても不敬と捉えられてもおかしくはない。
それほどまでに自分の持って来た話に自信があるのか。とポルトフィーノは気になってくる。
そんな彼の心境の変化をウラカンは見逃さなかった。
「ご安心ください、私は何もテスタロッサ様を不要と論じてるわけではございません。それまでの繋ぎの話をしているのです」
「繋ぎ……?」
「はい。現在魔王国、いえ魔王領全体は三百年続く王の不在で国民の士気の低下は危機的状況にあると言えるでしょう」
確かにウラカンの言うとおり年々魔族領の財政は厳しくなって来ている。
優秀なリーダーの不在と国民の士気低下。なまじ魔族の寿命が長いせいもあり、なかなか魔王の行方不明のショックから国民は立ち直れずにいた。
「今は宰相であるあなたと数人の大臣でなんとか国の運営を回せていますが……それも長くはもたない。そうでしょう」
「む……」
図星を突かれポルトフィーノは口ごもる。
ウラカンの言うことは正しい。ポルトフィーノ含む数人で国を回すことはできる……が圧倒的に不足しているものがあった。
それはカリスマ性だ。
魔王テスタロッサが持っていた圧倒的魔力と美貌、そして大胆な政策は当時の魔族の心をガッチリと掴んでいた。
その時代を覚えている者が多いからこそ現状に不満を持つ者が多くいた。
魔族には新しいリーダーがいる。そんなことは誰が言わずともわかり切っていることだった。
「どうです? 少しは話を聞いてみる気になられたのではないですか?」
「た、たしかにお主の言うことは一理ある。しかし誰が魔王様の繋ぎを出来ると言うのだ!? 私とて魔王様の代わりを務められる者がいないか探したことがないわけではないのだ」
しかしそんなものはいなかった。
そもそも魔族は自由人が多い。好き好んで上に立つ者が少ないのだ。
そして何より先代魔王が人気すぎると言うのが立候補者のいない最たる理由だ。彼女と比べられてはどんな優秀な魔族も見劣りしてしまう。
「いったい誰がお前の言う新しい魔王になれると言うんだ!? そんな奴がいるなら私の前に連れてこい!!」
それを聞いたウラカンは待ってましたとばかりに笑みを浮かべ、自らの胸に手を当てる。
「それはもちろん、私でございます」
その言葉を聞いた瞬間、ポルトフィーノの内に激しい怒りの炎が巻き起こる。
怒りに身を任せて目の前の青年を焼き払わなかったのはここが自分の敬愛する王の城だからだ。
もしここではなかったらウラガンの命はなかっただろう。もちろん彼はポルトフィーノはここではそのような暴挙に出ないと踏んでの言動だったのだが。
「……今の言葉は聞かなかったことにする。私は仕事が残っているので失礼するよ」
「ええ、お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。またお会いしましょう」
「ああ、また、な」
ポルトフィーノはギロリ、と猛禽類のような恐ろしい目をウラガンに向けた後去っていった。
そして彼が去って少しすると大男の魔族がウラガンの元へやって来る。
「……お疲れ様ですボス。どうでしたか?」