第22話 理由なんてない
「おいおい大丈夫か!? 今治療してやるから待ってろ!!」
懐から包帯などの治療キットを出そうとするマクス。
しかしアイリスはそれを手で制する。
「心配には及びません。この程度の傷であれば自分で治せます」
そう言って自らの傷に意識を集中させると、なんと傷口がみるみると塞がっていく。
吸血鬼であるアイリスは人間とは比べ物にならない回復力を持っているのだ。それに血液を凝固させて傷口を無理矢理塞ぐことも出来る。
「ふふ、それにしても私が人間を助ける日が来るなんて思いませんでした。カザハの言っていた意味が今分かりました」
カザハは自分を助けた時に言った。
『ウチがなんであんたを助けたか、その理由はもうあんたなら知っとるはずやで』
今ならわかる。
理由なんて、ないのだ。
人が人を助けるのに理由なんていらない。
当たり前のようでこれをできる人間は少ない。事実少し前のアイリスならそんな考え微塵も持たなかっただろう。
しかしルイシャや他のクラスメイト達と同じときを過ごすうちに彼女の中にも自然とその考えが根付いていたのだ。
「ふふ、吸血鬼としてこの考えはあまりにも甘いと言われてしまうかもしれませんが、ルイシャ様に似たと思えばこれほど名誉な事はありませんね」
そう言ってアイリスは再びゴーレムに向き合う。
命を賭して戦うことを決意した鋭い目。しかしその表情はある魔力を感じたことで一気に緩む。
しかしその魔力に気付かないマクスは深刻な顔をしていた。
「すまねえな嬢ちゃん。勢いよく出てきたのに役に立たなくて……やっぱり俺たちゃ脇役にもなれねえんだな」
弱気になるマクス目掛けて再びゴーレムは拳を振り上げる。すっかり体に付いた炎は消え失せ元気いっぱいだ。これではマクスが役に立たなかったと自己評価するのも無理はないだろう。
しかしアイリスの返答は意外なものだった。
「そんなことないわ。あなた達のおかげで私たちは助かるわ」
「……え? どういうことだ?」
「あなた達が時間を稼いでくれたおかげで、あの方が間に合った。もう安心です」
「なに言ってんだ嬢ちゃん!? 早く逃げねえとおっ死んじまうぞ!?」
二人目掛け振るわれる拳。
今度こそ終わり。そう観念するマクス。
永遠にも思える一瞬の中、拳があと十メートルで当たるといったところで突如地面にバコン! と穴が開き何かが出てくる。
「ああ……お待ちしておりました」
目で見なくても分かる。
出てきたのはアイリスが最も敬愛し、信頼する人物だ。
その人物は真っ直ぐゴーレムの拳を見据えながら背後のアイリスに話しかける。
「お待たせ、みんなを守ってくれたみたいだね。ありがとう」
いつものように優しい笑顔で、そう少年は言うのだった。