第21話 名手
マクスの指示に従いシーフのジームと魔法使いのマールがポーションを持ってカザハとシオンの元に走る。
しかしゴーレムがその怪しい動きを見逃すはずがない。
足元のネバネバに両手を向けたゴーレムは、なんと手のひらから炎を噴射しネバネバを全て焼いてしまう。
「げえ! あんなことが出来んのかよ!」
ネバネバから解放されたゴーレムは走るジャッカルの二人目掛けて手のひらを向ける。
とても二人にさっきの火炎放射を防ぐ技などない。
しかしリーダーであるマクスは慌ててなかった。彼は腰につけていたとっておきの武器を取り出す。
それはパチンコ。
大きさは三十cm程度のなんの魔法効果もついてないただのパチンコだ。
「そんなんであいつを倒せると思ってるの!?」
「まあ見ててくれよ嬢ちゃん。こう見えてもこいつには何度も救われてんだ」
マクスはそう言ってギリリ……! とパチンコのゴムを引くと、ゴーレムの頭部目掛けて発射される。
そしてゴーレムの頭にペチンと当たったその玉はボフン!! と爆発し大きな白い煙を生み出す。
「冒険者印の超強力煙玉だ。いかに奴が強かろうと目が見えなきゃ攻撃は当たらねえ!」
マクスの狙い通り視界を煙で覆われたゴーレムは目標を見失い見当違いのところに火を放つ。
その間にジームとマールはカザハとシオンのところに辿り着きポーションを渡す事に成功する。
「おおきに! 助かったで!」
「ふふ、これでまだ戦えそうだ」
その間に大きな腕を振り煙を振り払ったゴーレムは、自分をこんな目に合わせたマクスに狙いを定め走り始める。
ドシンドシン! と大きな地響きを鳴らしながら近づいてくるゴーレムにマクスは足をふるわせながらもパチンコを構える。
外したら死。そんな状況に怯えながらもマクスは少し高揚していた。
「いくぜ! 滑油玉!」
ゴーレムの足元に打ち込んだのは冒険者組合が開発した、尋常じゃないほどよく滑る特別な油。
それを踏んだゴーレムは地面を踏み締めることが出来ず、ズルリと足を滑らせ勢いよくその場に膝をつく。
「ビンゴ! どんどんいくぜ!」
そう言ってマクスは黒い玉を次々と発射しゴーレムにぶつけていく。
その玉はぶつかると割れて中から黒い液体を撒き散らす。それを見たジャッカルの残りの二人も黒い液体の入ったびんを次々と投げつけ瞬く間にゴーレムの体を真っ黒にしていく。
「よっしゃそろそろいいか! 頼むぞマール!」
「任せて!」
マールはゴーレムの足元に溢れた黒い液体に向かって火炎の矢を放つ。
すると辺りに撒き散らされていた液体は勢いよく燃え上がり、あっという間にゴーレムを物凄い熱さの火が包み込む。
先ほどジャッカルの面々がぶつけた黒い液体の正体は魔物討伐にも使われる特別性の油だ。
主に植物性の魔物との戦いに使われ、一度火がつくと水をかけても中々消えることはない。
この量の油を使えばB級魔物なら倒せる威力が出せる。
なのでゴーレムを倒すとはいかずともダメージは与えることはできるだろう。
そう予想するマクスだが、現実はそう甘くなかった。
なんとゴーレムはその体を火に包みながらも悠然と立ち上がったのだ。
燃え盛る炎もよく見ればその表面を焦がすくらいしか出来てない。それほどまでにゴーレムの体は常識外れの硬さだったのだ。
渾身の攻撃が時間稼ぎ程度にしかならなかったマクスは思わず呆然と立ち尽くしてしまう。
ゴーレムはそんな彼に狙いをつけ拳を振るう。
「「危ない!!」」
そう叫び助けに入ろうとする仲間の二人だがとても間に合わない。
もはやこれまで。そう思って二人だが絶体絶命のマクスを助けに思わぬ人物が駆けつける。
「上位鮮血十字槍!!」
アイリスの手から放たれる巨大な十字架の槍。
その槍はゴーレムの拳に触れた瞬間砕け散ってしまうが、わずかに勢いを弱める。その隙にアイリスはマクスの襟を掴み拳から逃れる。
紙一重でゴーレムの拳から逃れた二人。
戸惑いながらもアイリスにお礼をしようとしたマクスはアイリスを見て驚く。
「じょ、嬢ちゃん! 怪我してんじゃねえか!」
なんとアイリスの右腕にゴーレムの拳がかすってしまい怪我を負ってしまったのだ。
傷はそれほど深くはないが、少なくない量の血が流れてしまっている。