第20話 助太刀
時を遡ること少し。
アイリス達は魔封石のゴーレムに苦戦を強いられていた。
アイリスとシオンは魔法攻撃が主体でありカザハも硬い敵に対しての有効打がないので、ロクなダメージを与えられなかったのだ。
「ハアッ!!」
それでもアイリスは隙を見つけては蹴りを打ち込んではいるのだが、やはりゴーレムには効果があるようには見えなかった。
アイリスの顔には徐々に焦りが見え始め、最初は慎重だった攻撃も段々荒くなっており、気づけば深追いをするようになっていた。
それに気づいたゴーレムは自分の足元をウロチョロするアイリスを疎ましく思い、彼女目がけ拳を振り下ろす。
「危ないっ!!」
「しまっ……!!」
カザハの叫びで自分がピンチであることに気づき、ゴーレムから距離を取るアイリス。
しかし巨体に見合わぬ素早さを持つゴーレムは、常人離れした速さで距離を取ろうとするアイリスを追いかけながら拳を振り下ろす。
もはやこれまで。
そう観念したアイリスは自分を襲うであろう衝撃を覚悟し目を瞑る。
そして予想した通り自分の体をバラバラにするほどの衝撃が襲って…………来なかった。
。
「……へ?」
恐る恐る目を開けるアイリス。
すると驚くべきことにゴーレムの拳はアイリスの数m手前で止まっていたのだ。
「な、なんで?」
突然の事に混乱するアイリス。
誰かがゴーレムを倒したのかと思ったが、ゴーレムの瞳はいまだに赤く輝いており、まだ活動は停止していない。
アイリスは次にゴーレムの足元を確認した。
すると何やらネバネバしたスライムみたいな物がゴーレムの足元に大量にへばり付いていた。それがゴーレムが進むのを邪魔しアイリスへの攻撃を食い止めたのだ。
「いったいあれは……?」
謎の物体に首を傾げるアイリス。
そんな彼女の元にジャッカルの三人がドタドタ走りながら近づいてくる。
「無事か嬢ちゃん!?」
「え、ええ。なんとか」
「良かった! なんとか間に合ったみたいだな」
そう喜ぶ三人の手には見覚えのない色々な道具が握られていた。
どれもアイリスの見たことのない不思議な道具だった。
「まさかあのネバネバはあなた達が?」
「おうよ! あれは冒険者なら一回は使ったことある『ネバネバボム』だ。効果時間は数分だが強い魔物でも足止め出来る優れモンだ!」
そう言ってマクスは手に持った色々な道具を見せびらかす。
これらは冒険者組合が発売してる消耗品の道具だ。安価な代わりに殺傷能力は低いが、その代わり面白い効果を持ってるものが多い。
自らの戦闘能力が低いジャッカルの面々はそれをカバーするためにたくさん道具を持ち歩いてるのだ。
「ささ、これを飲んで下さい」
そう言ってジャッカルの魔法使いマールがアイリスに渡したのは瓶に入った緑色の液体。いわゆるポーションである。
強引に渡されたそれを飲んだアイリスの体力は全回復とはいかないがまた全力で走れるくらいには回復する。
「ありがとうございます。しかしあなた達、どうして戻ってきたのですか? アレに勝てる見込みでもあるのですか?」
アイリスは三人がゴーレムから逃げるのは当然だと思ってた。
とても三人が役立つとは思ってなかったし、逃げるのはむしろ賢い選択だとすら思ってた。
それなのに彼らは戻ってきた。ゴーレムの攻撃が一発でも当たればお終いの脆弱な体なのになぜ?
「へへっ、勝てるだなんて思っちゃいねえさ。でもあんたんとこの坊主を見てたら逃げてるのがかっこ悪く思っちまったんだ」
坊主とはもちろんルイシャのことだ。
アイリスはここにいなくても自分を助けてくれたルイシャの存在に目頭が熱くなる。
「てなわけで俺たちも参戦するぜ! まずは残りの二人にポーションを届けるんだ!」
「「了解リーダー!」」