第18話 伝言
それを聞かれたルイシャはギクリとする。
彼には思い当たる節が一つだけある。それは無限牢獄にいたことだ。
あそこに長いこといたせいで何かしらの勇者の関係者とみなされたのではないかとルイシャは予想していた。
しかしそんなことバカ正直に言うことはできない。なのでルイシャは「な、なんでだろうねー」とすっとぼけることしか出来なかった。
しかしシャロはそんな返事では納得することが出来ずゾンビの女性に問いかける。
「ねえ、なんでこいつが呼ばれたの? いったいどう言う基準でここに呼んでるの?」
「えーと……申し訳ありません。それは私にはわからないです」
申し訳なさそうにワタワタした感じで言うゾンビの女性。
随分表情の豊かなゾンビだ。
「え? ここの管理人なんじゃないの?」
「えへへ、そうなんですがもう脳味噌が少ししか残ってないもので。言葉と使命を覚えておくので精一杯でした」
「そ……そう。それは悪いことを聞いたわね。ごめんなさい」
素直に謝るシャロ。随分丸くなったものだとルイシャは感心する。
しかし困ったものだ。勇者の仲間を知れたのはいい。だけどそれをどう活かしたらいい?
歴史的には超貴重な情報かも知れないが、逆に言えばそれだけの価値しかない。これだけでは無限牢獄の封印を解く手がかりにはならない。
せっかくこんな重要そうな施設に来ることができたのにこのまま引き下がるわけにはいかない! そう思ったルイシャはもうこのままお別れしそうな空気を断ち切り質問する。
「あ、あの! 何か他に伝えなきゃいけないことはないのですか!?」
「他に、ですか? うーんどうでしたかねえ」
悩みながら彼女は自分の頭に両手の指を突き刺し再び脳をこねくり始める。
「えー、あーうー、んm―、あjお。ふおあっm」
声にならない声を上げながら必死に記憶を辿るゾンビの女性。
やがて彼女は何かを思い出したのか指を引き抜きルイシャの方を向く。
「……お待たせしました。そう言えば私がここの管理に入る時勇者様から直々に言われたことが
ありました」
「本当ですか!? いったいなんて言われたのですか!?」
「勇者様はこうおっしゃっていました。『もしここに辿り着いた者がいたら私の仲間を頼れ』と」
「仲間を……頼る?」
普通に考えたら仲間とはこの壁画に描かれている三人の事だろう。
しかしこの三人を頼れと言われても、この三人三百年前の人物だ。いったい何人が生きているのだろうか?
それにこの三人は全員超のつく実力者だろう、もしかしたらルイシャの正体に気づき敵対される可能性もある。そうしたら今のルイシャで勝てるだろうか。
「……これで私の伝えることは全てです。あなた方に出会い役目を終える日を心待ちにしていましたが、いざ終わると寂しいものですね」
そう語る彼女の体は徐々に崩れていく。
自らゾンビ化を解いたのだ。そうすれば必然体は腐りおち土に還っていく。
「あ、そう言えばもし他の方と一緒に来たなら助けに行ったほうがいいですよ。転移されなかった人にはゴーレムが襲うことになってたはずですので」
「ええ!? それを早く言って下さいよ!!」