第17話 壁画
壁画に1番大きく描かれているのはもちろん勇者オーガだ。
全身を覆うフルプレートメイルに巨大な剣、伝承通りだ。
そしてその隣にいるのは耳の尖った女性だ。背中からは二対の大きな蝶の様な羽が生え、手には身の丈ほどの杖を持っている。
その絵の下にはその女性の名前が書いてあった;
「妖精王……ティターニア……!!」
その名前はルイシャも聞いたことがある。
この世界のどこかに存在するという秘境「妖精郷」。そこには妖精やエルフや幻性生物が住んでいるという。
そしてそこを治める女王こそ『妖精王ティターニア』だ。
「まさか実在していたなんて……!」
その存在はもはや御伽噺の域だ。
実在していて、更に勇者の仲間だったなんて言っても誰も信じないだろう。。
衝撃を受けながらも二人は次の人物に目を移す。
そこにいたのは屈強な獣人と思わしき男だった。大きなタテガミに鋭い牙と爪。特徴から考えるにライオンの獣人だろうか。
そしてその下には『三界王バルムンク』の文字。しかしルイシャもシャロもそんな人物に思い当たる節はなかった。
「この人はどんな人なんですか?」
「えーと……少々お待ちください」
そう言うとゾンビの女性はブスッ!! と人差し指を自分の側頭部に突き刺し、その中、つまり脳味噌をぐちゃぐちゃかき回し始める。
突然の事態にルイシャとシャロは口をあんぐり開けて絶句する。
「あ、あんた何やってんのよ」
「すいません、こうすると記憶が少し蘇ってくるんですよ。お見苦しいですが少し我慢してください」
そう言われると流石のシャロも言い返すことはできない。
胸にモヤモヤしたものを残しながらも渋々シャロは引き下がる。
「あー、思い出してきました。そうそうバルムンク様は勇者様一行のなかでも最強の破壊力を持った格闘家でした。数の多い獣人の中でも当時最強の戦士として獣人に崇められていました」
「そんな人がいたんだ……」
獣人に詳しくないのでルイシャは後でその人のことをヴォルクに聞こうと心の中にメモした。
そして最後の人物。
『蛇王エキドナ』と描かれたその人は上半身が女性の人間、下半身が大蛇という姿だった。いわゆる蛇人族というやつだ。
亜人の一種であまり人前に姿を現さず、森の奥地でひっそりと暮らしている種族だ。
「この人も知らないなあ。シャロは何か知ってる?」
「残念ながら私も知らないわ。全く、こんな超重大な秘密を私の代で引き継ぐことになるなんて運がいいんだか悪いんだか分からないわね」
額に汗をにじませながらシャロはそう言った。
この情報をオーガはひた隠しにしていた。と言うことは理由はわからないがこの情報は世間に流れると非常に良くないことということになる。
その責任は重くシャロの背中にのしかかり、顔色も悪くなる。
「大丈夫だよシャロ。僕もいるから」
そう言ってルイシャはシャロの肩に優しく手を置く。
するとシャロは少し安心し顔色が良くなる。
「ふふ、ありがとルイ。確かにそれは助かるのだけれど……なんでルイもここに呼ばれたの? ルイは勇者の子孫じゃないわよね?」