第14話 強敵
一方その頃アイリス達。
彼女達の前に立ちはだかるのは巨大ゴーレム。
10mを超す大きさに太い手足と分厚い体。それがアイリス達の元にズシン! ズシン! と歩いてくる。
敵意剥き出しな上にとても言葉の通じる相手ではない。
アイリス達には戦う以外の選択肢は残っていなかった。
「いかに大きかろうと所詮はゴーレム……! 私が処理します!」
そう言って一番槍を買って出たのアイリスだ。
吸血鬼の身体能力を生かし高速で接近した彼女はゴーレムの懐目掛け魔法を放つ。
「鮮血の双剣!!」
アイリスが放ったのは血液で作られた刃渡り一m程の魔法の剣だ。
それが二本、恐ろしい速度でゴーレム目掛けて飛来する。
流石に倒すまでにはいかなくともこれで相手の硬さなどはある程度わかるだろう。そう思って放たれた魔法だったのだが、この魔法は相手の思わぬ特性を暴くことになった。
なんと二本の剣はゴーレムに当たった瞬間『パリン!!』とガラスが割れるような高い音を鳴らして砕けてしまったのだ。
それを見たマクスは絶望に満ちた震える声で呟く。
「う、嘘だろ……!? 魔封石で出来たゴーレムなんざ聞いたことねえぞ!?」
そう、なんとそのゴーレムは全身が魔封石で作られた世にも珍しいゴーレムだったのだ。
そもそも魔封石とは滅多にお目にかかれない鉱石だ。ダンジョンの中でしか見つからず、そのダンジョンから持ち出されたり攻略されたりするとただの石ころになってしまうのでダンジョン以外で見ることもない。
そんな珍しい魔封石だが、ダンジョンに頻繁に潜る者なら何回かは目にする事もある。
なのでジャッカルの3人は魔封石のある特徴も知っていた。
魔封石は大きくなればなるほど硬さの増す特殊な鉱石だということを。
「嬢ちゃん! 一旦退くんだっ!」
アイリスを呼び戻そうとするが、もちろんそんなものでは彼女は止まらなかった。
彼女は魔法による攻撃が無駄だと察すると、瞬時に肉弾戦で戦う戦法へとシフトする。確かに人間より吸血鬼の身体能力は大幅に高い。
しかしアイリスはまだ若く、しかも魔法主体での戦いを得意としている。武器なし魔法なしの戦いであれば気功術をかじってるシャロにも勝てないだろう。
しかしそれを理解していても彼女は止まらなかった。
なぜなら主人の安否が不明の今、ルイシャを探す障害はいち早く排除しなければいけないからだ。
「――――ハァッ!!」
アイリス渾身の回し蹴りがゴーレムの腹部に炸裂し、スパァン!! と大きな音が鳴り響く。
しかし魔封石の硬度は凄まじく魔法のかかっていないアイリスの物理攻撃では傷ひとつつかなかった。
非常に硬いゴーレムを思い切り蹴ったため、逆に自分の足を痛め苦悶の表情を浮かべるアイリス。そのわずかに出来た隙を見逃さなかったゴーレムは巨体に見合わぬ速度で拳を放つ。
絶体絶命。目をつぶりこれから自分を襲う痛みに耐えようとする。
……が、その拳がアイリスに当たることはなかった。
「……ったく危なっかしいやっちゃで! いい加減にしぃや!」
気づけばアイリスはカザハに抱き抱えられていた。
そしてその足元には三メートルはある巨大なムカデ。そのムカデは数え切れないほどの足をシャカシャカ動かし高速移動してゴーレムと距離をとっていた。
無事シオン達の元へ戻ったカザハとアイリス。
ゴーレムはターゲットを取り逃したことに腹を立てたのかさっきよりも速い足どりでアイリス達のもとへ走ってくる。
「……ほな二回戦といきましょか。次は協力してもらうでアイリスはん」