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りりー  作者: あまざけとひやしあめ
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焼きマシュマロと、淹れたての紅茶

あつい。喉がひりひりする。額にじんわりとした汗を感じる。窓越しに見える空はこれ以上ないほど真っ青。射し込んでくる強い日の光。夏だ。鈍い頭で、ぼんやりそう感じた。

起き上がりたくない。このまま、じっとうずくまっていたい。でも、起きて、水を飲まないと、しぬ。

だらりとした自分のからだを、精一杯引きずって、キッチンへと向かった。ようやく冷蔵庫に辿りつくと、お気に入りのグラスに、よく冷えたお茶を、たっぷりと注ぐ。

一気に飲み干すと、内側からうるおって、生き返ってくるのがわかった。落ち着いて、ため息をこぼすと、今度はダイニングに向かった。テーブルには、レーズンパンが2つ、かごに入ってる。メモも置かれてあった。ひらくと、予想したとおりのことがかいてあって、思わず目を細めた。

つくりたてだという、オレンジジュースとベーコンと卵入りのサラダそしてレーズンパンを、ゆっくりと味わって食べる。レーズンパンは、とくにおいしく感じた。ふんわりとした食感と、干しぶどうとシナモンの香りが、わたし好みだった。

かなり、甘やかされてる。そういう自覚は前からずっとあったけれど、べつにいやなものじゃないから、ありがたく受け取りつづけてきた。そして、たまに、わたしはラッキーだなと、心から、そう思ったりした。

お腹がいっぱいになったところで、音楽を聴いて、ゆったりすることにした。

わたしのすきなうた。イヤホンで蓋をした耳の鼓膜を振動させて、心に直接響いてくる。目を閉じると、ここではないどこか、うたの世界だけを感じられる。

しばらく椅子にもたれてじっと音を聴き続けた。

でも、そのうち、思い出したように発作が起こった。

音楽を止めて、頭を空っぽにする。思いっきり深呼吸する。落ち着くと、光で溢れる窓辺を、じっとみつめた。静かなその光景が、ばらばらになったこころをすこしだけ、もとに戻してくれた気がする。

歯磨きを済ませて着替えると、外に出た。あつい。けど、同時にどこかすがすがしい。どこまでもつづく果てのない青と潮の匂いを運ぶ風。目を閉じて感じるオレンジ色。気持ちがいい。

海沿いの道に出ると、潮の香りが一層濃く感じた。うみどりたちのうたを聴きながら、ゆったりと歩いた。

しばらくすると、砂浜で何人かのひとが遊んでいるのが見えた。

近づいていくと、誰なのかわかった。この近くの一軒家に住む家族だった。子どもたちは3人きょうだいで、この町では有名だ。彼らはバンドをやっていて、かなり人気がある。彼らのセンス、ルックス、実力からすれば、当然のことだった。

わたしも、前に彼らの音楽を聴いたことがあった。

すぐに気にいった。とくに、ヴォーカル。気持ちがこもっていて、うたの世界に引き込まれる感じがした。

一番近くにくると、彼らの和やかな笑い声が聴こえてきた。ビーチボールをくるくる回してあそんでいる。

やっぱり、このひとたちがこんなに近くにいなければよかったのに、と思ってしまう。

あれだけの才能と、たのしそうな姿には、羨望の念を抱かずには、いられなかった。

なんだか、自分のこころが空っぽに感じて、そのまま何を思えばいいのかわからないまま、家を目指した。

家に着くと、庭の芝生が柔らかく風に揺れて、つやつやとひかっていた。

自分の部屋に戻ると、椅子に座って外の景色をじっと眺めた。ある程度落ち着くと、日記を出して、絵や、ことばを綴った。それが終わると、横になって、静かな曲をかけて、電気を消した。

目を閉じる前に窓の外を見ると、星が美しく瞬いていた。

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