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才のハタム-帝ノ森学園探偵部-  作者: 常葉スイ
7/7

7話 ミカドの王

とある一室で椅子に腰掛けながら、土居島大貴(ドイトウダイキ)は困惑していた。

隣に座る小菅準(コスゲジュン)の様子を窺うと、同じように困惑している――と言うよりもむしろ辟易しているらしく、その内心を隠す事もなく顔を顰めて部屋の隅に視線を送っている。

ダイキもそれに倣って視線を移すと、その先には一人の男生徒が壁に据え付けられた棚を片っ端から開けては閉じて、辺りを徘徊していた。明るい髪色と目鼻立ちのハッキリした顔が印象的な生徒だ。

何かを探しているようだが、その割に焦った様子も困っている様子も見られず、まるでリズムを刻む様に楽しげに棚を開閉していく。

「いや〜悪いな、大したもてなしが出来なくて。伴野(バンノ)三津峰(ミツミネ)が居れば、茶菓子の一つでも出してやれたんだけどな〜」

奉仕部の二人の名前を出し、男生徒はあっけらかんとした口調で謝罪を口にした。笑顔でそう語られても説得力が欠片も感じられないな、とは思いつつもそれは胸中に留め、ダイキも心の篭っていない定型句で応える。

「いや、お構いなく。部活の申請書出しに来ただけなんで」

茶菓子はどうでも良いから書類を受領してくれ、という意図を込めていたのだが、男生徒には通じなかったらしく棚の開閉の音が止む事はない。

「あれ、あいつこの辺に焼き菓子とか隠してたはずなんだけどな。どこやったんだ〜?」

男生徒はなおも機嫌良さげに「マドレーヌ♪フィナンシェ♪」と鼻歌を口ずさみながら、変わらずあちこちの棚を探して回っている。マイペースと言ったら聞こえは良いが、ここまで自分のペースを崩さないとなると迷惑でしかない。

ダイキはつい先程のジュンとの会話を思い出し、その言葉に数分越しに大きく納得した。


金宮(カナミヤ)先輩、苦手なんだよな…」


生徒会に申請書を出しに行くと提案した後の事だ。

無人になってしまう探偵部の部室に鍵を掛けるダイキに対し、ジュンはまるで独り言のようにそう呟いた。

突然の告白に「うん?」と曖昧な反応を返すと、ジュンは口を手で押さえしまったと言わんばかりに眉を吊り上げ、睨みつけるようにダイキの方を見やった。どうやら打ち明ける予定のなかった本音がつい出てしまったらしい。

「黙っとくから安心しろって。…で、どういう所が苦手なんだ?」

唇の端をニィと釣り上げダイキが意地悪げな笑みを浮かべると、ジュンはしばしの間微動だにせずに沈黙を貫き、黙秘の意を示す。しかし、自分の失言が元なのだから仕方がない、とでも言いたげに大きくため息をつくと、眼鏡のブリッジを上げながら語り始めた。

「会えば分かると思うが、理屈で話すタイプじゃないから疲れる。人の話を聞いているようで聞いていない。けど肝心な部分は聞いている。色々かき回していくくせに、何だかんだあの人の言う通りにすると上手くいく。あくまで俺の私見だが、そういう人だ」

「…何というか、凄い人だな」

私見とは言うが、嘘を見抜く『勘』を持つジュンがそう断言するという事はそこまで突飛な意見ではないのだろうし、恐らく多くの人間も同じような印象を抱いているのだろう。

とは言えジュンの見解だけではいまいち正確な人物像が見えてこない、とダイキが首を捻っていると、先程の告白で吹っ切れたのかジュンが金宮について再び語り始めた。

「気付いてるとは思うが、そもそも三年生が生徒会長になっている時点であの人はおかしいんだ」

(また随分な言い草だな…)と内心苦笑しつつ、ダイキは会話を続ける。

「他の委員のトップは二年がやってるよな?」

「あぁ、一年生の最後に代替わりをして、その後一年間長を務めるのが普通だからな。生徒会も時期は多少ずれるが、一年生の内に選挙に出て二年生が生徒会長になる」

二年で転入して来たダイキは委員会の代替わりと全く縁がなかったので実感が湧かないが、確かに各種委員会の委員長は同学年がやっているはずだ。例外は、生徒会長である金宮のみ。

「だから三年が生徒会長になってるのはおかしい、って事か。でも選挙で正当に選ばれたんだろ?」

普通は三年が就く役職ではないが、選挙という制度を以ってすれば不可能ではないはずだ。たまたま会長に選ばれる程人気のある生徒が三年だった、と考えればそう不思議でもない。

だが、問われたジュンは「んん…」と困惑じみた唸り声を漏らし、口元を抑えて独り言のように小さく呟く。

「正当、正当か…まぁ確かに選挙で選ばれたのは間違いないが…」

厄介な問題に対面したかのようにジュンは眉根を寄せて考え込む素振りを見せていたが、すぐにパッを顔を上げ話を切り出した。

「少し話は逸れるが金宮先輩は内部生で、最初に生徒会長になったのが()()()()()()の時だったんだ」

どうやら金宮という人物の来歴から語ってくれるらしい。相変わらず律儀な事だと思いつつ、後半の内容に引っかかるものがあった。

「…ん?一年の最後に選挙に出て、二年の時に会長になった、って事だよな?」

「いや、言葉通りだ。先輩が中等部一年生の時、その年の生徒会長が急に転校する事になって、代わりに生徒会長になったのが当時まだ入学間もない金宮先輩という訳だ」

ジュンの話からするに生徒会長のピンチヒッターとして選ばれたという事らしいが、内容として理解出来ても納得はしかねる。二年の生徒会長が辞めたのなら、同じ二年から代わりの生徒が選ばれるのが普通なのではないか。

そんなダイキの疑念を見とったのか、ジュンは皮肉げにフンと鼻を鳴らした。

「そこからしておかしいだろう?けど、そういう場面で選ばれる人なんだ」

そういう人間だと言われても、会った事のないダイキには全くピンと来ない。想像を働かせるに、生まれ持った『カリスマ』、とでも言うものなのだろうか。

「それ以来先輩はずっと生徒会長を務めている。高等部に上がっても、本来は代替わりしているはずの三年生になってもな」

「それ以来って…ほぼ学園にいる間中、生徒会長やってるって事か」

ジュンは小さく頷き、同意を示す。それだけの年数選ばれ続けているのだ、どうやらダイキが思っている以上にとんでもない人物らしい。

「そんな人が生徒会選挙に立候補してたら、お前は立候補するか?戦ってその地位を奪おうと思うか?」

ダイキはゆっくりと首を横に振る。生徒会長になろうという気は元々ないが、もしその気があったとしてもそれだけ絶対的な敵対候補が居ると分かっていたら、果たして本当に立候補するだろうか。ダイキは否、と結論付けた。

「さっきの正当かどうかって話はそういう事か」

「あぁ、あの人が立候補した時点でもはや公平な選挙じゃないんだ」

どこか憎たらしげにそう言い捨てると、ジュンはそれ以降金宮の事は口にしなかった。語るべき内容は全て語った、という事らしい。

しかし、ダイキには幾つかの疑念が残る。

ジュンの口ぶりからするに、金宮なる人物が立候補すれば百パーセント、絶対に、確実に当選する、という認識らしいが、いくら生徒会長として名を馳せている人物であってもそこまで言い切れるものなのだろうか。それにジュン自身、金宮が苦手だとはっきり名言している。

なのに、彼の人物が落選する可能性を微塵も考えていないし、恐らく金宮以外に投票するという考えもないのだろう。

(苦手とは言いつつその実力は認めてるって事か?でもそれだけじゃないような…会ってみないと何とも言えないな)

様々な考えを巡らせた後、結局はとにかく会って話してみようと決意した所で、二人は丁度良く生徒会室の前に辿り着いていた。隣を見るとジュンは一層苦々しげに眉根を寄せて不機嫌を振りまいている。

(さて、どんな人が出てくるか)

好奇心交じりに生徒会室の扉を叩くと、今まで聞いた事のない声が返って来た。

「はいよー!」

まるで居酒屋かのような威勢の良い男性の声だ。思わず肩の力が抜けてしまう。伴野でも三津峰でもない、この声の主が生徒会長である金宮なのだろうか。

声がしたすぐ後、室内からペッタペッタとこれも元気の良い足音が聞こえてくる。リズムからしてスキップしているらしい。

(どんだけ陽気な人なんだ…)と苦笑しつつ待っていると、突然ガラッという大きな音と共に扉が開かれ、華やかな外見の男生徒が現れた。

「へいへーい!何の御用かな!」

声からして明るい性格なのだろうとダイキは踏んでいたが、登場した人物はその想像以上にテンションの高い人物だった。

「………えっ、と」

満面の笑みを浮かべて歓迎の姿勢を見せているらしい男生徒から戸惑いながら視線を外し、隣で気配を消して佇んでいるジュンを見やる。すると、上下動が僅かに判別出来る程度の極小さな頷きが返ってきた。ダイキの認識は間違っていないらしい。

(この人が、金宮先輩か…)

成程、これはジュンが苦手意識を持つはずだ、と会って間もない男生徒にそう評価を下していると、当の男生徒――金宮宗(カナミヤシュウ)は「んー?」と怪訝な顔を見せつつダイキの顔をじっと見つめてきた。と、突然漫画のようにポンと片手を打ち、

「あ!お前二年の土居島だろ!」

と大きな声でダイキの名前を呼び、右手の人差し指をビシィッと音が出そうな勢いでダイキの顔先に突き付けた。ダイキは突きつけられた指先から逃げるように身を引き、曖昧に応える。

「あ、はい、そうですが…」

この時点でダイキは半ば金宮に圧倒されていた。

声の大きさや大げさな身振り、華やかな外見、冷静に考えれば思い付く要素は数あるが、出会い頭では何だかよく分からない存在感の方が印象として優っていた。

「やっぱりな!なんっか見覚えのない顔だと思ったんだよな〜転入生なら当然だよな〜。おっ、何だ小菅も一緒だったか。結構久しぶりじゃないか?」

ダイキの正体にひとしきり納得していた金宮だったが、その隣で無言で突っ立っていたジュンに気付くと、親しげに声を掛けながら近付き、バシバシと背中を叩いていく。明らかに痛そうな音がしていたが、ジュンは文句を言う事もなく「はぁ、そうですね」と随分適当に対応している。その顔には諦めの色が滲んでいた。

かなり一方的な挨拶を交わした金宮はやり取りに満足したのか少し距離を取り、改めてダイキとジュン、二人の訪問客の顔を見つめ、何かに気付いたように「あっ」と声を上げた。

「お前ら二人が来たって事はあれか、探偵部の部員が集まったのか?思ったより早かったな〜」

「探偵部の事、知ってるんですか」

少し、いやかなり意外な面持ちでダイキは金宮を見やる。自分の名前を知っていた事もそうだが、探偵部の名が出てきた事も想像していなかった。

(いや、生徒会長という立場を考えたら知っていて当然なんだけど…)

つい出てしまった発言を自省しつつ、どうにも生徒会長らしくない金宮にペースを乱されているようだ、とダイキは冷静に自身を分析する。ジュンの場合は意図的に自分のペースに持ち込もうとしていたから対処出来たが、天然でそう来られるとどうにも上手い対応が出て来ない。

「当たり前だろ、生徒会長舐めるなよ〜。取り敢えず中に入れ、話はそこで聞くから」

案の定金宮はやや呆れたように笑みを浮かべ、二人の肩をがっしりと掴んでそのまま生徒会室へと歩を進めて行く。身長はダイキの方が高いはずだが、抵抗しようにも組まれた肩を解く事が出来ない。

まるで連行されるように生徒会室に招かれたダイキとジュンはそのまま丸テーブルの周囲に並べられた椅子に座らされ、話は冒頭へと戻る。



「茶菓子何も見つからなかったわ!悪いな〜後で伴野が来たら出してもらおうな」

散々扉の開閉に勤しんだ金宮は流石に諦めたらしいが、それでも上機嫌のままダイキ達の対面の椅子に腰を下ろす。他のものとは造りの違う明らかに高そうな椅子にどっかりと腰掛ける姿は、まさに学園のトップに立つにふさわしく堂々として見えたが、机からはみ出して覗く胡座がそれを台無しにしていた。

「いや、本当に茶菓子とかは良いですから…。それよりこれ、受け取って下さい」

金宮の椅子上での態勢が整うのを待たず、ダイキはため息混じりに手にしていたファイルを差し出す。中にはダイキ、ハルヤ、ジュンの名前が書かれた探偵部の申請書が収まっていた。

「ん、どれどれ〜」

ファイルを受け取った金宮は机に身を乗り出し、興味深げに内容を確認していく。

「おぉ、もう一人は見崎が入ったのか。小菅はともかく見崎は意外だな〜もしやお前、見崎を脅迫したな!」

「してないですよ。協力してくれってお願いしただけです」

決して嘘は言っていない。ハルヤが最適な人材だと説明してお願いしたのだ、とダイキは心中で正当化していたが、ふとジュンが不思議そうにこちらの様子を窺っているのが視界の端に映った。(この場で敵に回るのは勘弁してくれよ…)とジュンに対して念じていると、金宮は特に追及する事もなく「ふ〜ん、そっか」と納得した様子を見せた。

「でも部員が見つかって良かったな。もし候補が居ないようだったら、伴野か三津峰に入ってもらうかーとか、最悪俺が入るかーって思ってたんだけど、心配し過ぎだったみたいだな」

椅子にもたれかかり背後の棚上にある平たい紙箱にファイルを入れ、金宮は陽気に呟く。箱には『処理済み』のシールが貼られており、どうやら生徒会の方で正式に受理してくれるらしかった。

対して、何か引っかかるものがあったらしいジュンはあくまで冷淡な口調で断ずる。

「…生徒会長自らが新設の部に入る必要はないでしょう」

同行者が自発的に問いかけてくれたので黙っていたが、ダイキも同意見だった。気にかけてくれているらしいのは素直に有難い事だと思うものの、生徒会長が動くとなると一部活の新設にしては少し大袈裟ではないだろうか。

「まぁな、あくまでそれは最後の手段だから。でも自分で言うのもなんだけど、割と適任だったと思うぞ?」

胸を張り渾身のドヤ顔を見せる金宮を、ダイキは驚き半分呆れ半分の気持ちで見つめる。(どっからそんな自信が…)と疑問に思っていると、金宮はまるでそんなダイキの心中を察したかのようにその理由を語った。


「だって俺、お前の『()()()』だから」


「「…は?」」

あまりにも突然の告白にダイキが呆けた声を上げると、隣からも同じように呆気に取られた声が聞こえた。チラリと横を見れば、眉根を寄せて怪訝な顔で固まっているジュンの姿がある。

口をポカンと開けている二人の様子を見て、金宮は悪戯が成功した子供のように目を細めて言葉を続けた。

「いやだから、俺『協力者』の一人なんだって。部員にするならその方が望ましいだろ?それに俺、生徒会長だし、色々と融通は効かせられるぞ〜」

話の展開が早すぎて、ダイキの耳にはもはや金宮の言葉が言葉として入って来なかった。つらつらとあくまで楽しげに一人語る金宮に、慌てて静止をかけて問いかける。

「ちょ、ちょっと待って下さい。先輩、『協力者』ってのはどこで聞いたんですか?何で自分が『協力者』だって分かるんですか?何で、」

堰を切ったように疑問を投げかけるが、金宮は落ち着いた口調で「まぁまぁ」と宥めるばかりで自分のペースを崩す様子は微塵もない。ダイキは金宮との会話で主導権を握る難しさを身を以て感じ始めていた。

「順に説明するから。丁度良いタイミングだし、二人も交えて一緒に話をしよう」

「二人…?」

脈絡の無い言葉に困惑していると、丁度生徒会室の扉が開けられた。先程金宮が現れた時とは打って変わって静かに音が響き、白黒の男女二人が姿を見せる。執事姿の伴野とメイド姿の三津峰である。

「おや、土居島様に小菅様。生徒会室にいらっしゃっていたのですね」

客人の姿に気付くと、伴野はいつものように慣れた動きで頭を下げる。その後ろでは三津峰も同じように綺麗なお辞儀を見せていた。

非日常的な装いの二人の姿にダイキ達が気を取られている中、金宮は先程と変わらぬトーンで――むしろやや気安い口調で伴野に声をかける。

「伴野、お前この前持ってきた焼き菓子の箱どこにやったんだ?二人をもてなしたかったのに何も見つからなかったぞ」

「会長様が見つけられる所には置いておりませんよ。今からで宜しければ準備致しますが、如何なさいますか?」

「頼んだ!あ、あと飲み物もくれ。紅茶がいいな」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

慣れた様子で言葉を交わすと、伴野は三津峰と共に奥の給湯室のような小部屋へと消えていった。

「さっきの話の続きだけど、二人が戻って来てからにしよう。その方が話が早いからな」

そう提案すると金宮は胡座を解いて立ち上がり、ダイキ達に背を向け同じように奥の小部屋へと歩を進める。どこまでもマイペースな金宮の姿に、気付いたらダイキの口からは小さく声が溢れていた。

「…何で、二人が来るって分かったんですか?」

遠ざかろうとする背中に半ば独り言のように問いかけると、金宮はクルリとターンをしながら振り返り、顎に手を当てて「うーん」と考える素振りを見せた。

数秒唸っていたがすぐに納得したように頷き、金宮は一言、

「勘かな!」

と満面の笑みで答えると、そのまま小さくスキップしながら小部屋の中に姿を消した。

「勘、って…」

こうも清々しいまでに特に理由はないと言い切られてしまっては反論のしようもない。と、ダイキが困惑気味に息をついていると、ため息の原因である金宮が「勘とは言ったけどさ」とひょい、と小部屋から頭だけを覗かせた。

「伴野達が生徒会室を出たのが丁度一時間くらい前だったんだよ。教室清掃の依頼でな。で、これまでの経験上、そろそろ帰って来るだろうなーとは思ってたよ」

「…直後に本当に二人が帰って来たのは、」

「それはただの偶然!」

金宮は明るく言い放ち、再びその姿は見えなくなった。

思わず力の抜けてしまったダイキは椅子の背にもたれ掛かり、香りの良い紅茶と焼き菓子が準備されていく様子をしばらく見つめる事しか出来なかった。



金宮達が小部屋に消えてから十分程立った後、ダイキ達の前には小皿に盛られた焼き菓子と紅茶の注がれたカップが置かれていた。生徒会のものなのか、金宮か誰かの私物なのかは不明だが、曇り一つなく輝く白の食器類は随分品良く、端的に言えば高そうに見える。

すっかり金宮に乱されてしまった気持ちを鎮めるべく、ダイキとジュンは揃って出されたカップを傾け紅茶を流し込んだ。先程まで探偵部の部室で飲んでいたものとは随分味が違って感じられる。

(茶葉の差なのか淹れる人の技術の差なのか…)

自分が淹れたものと比較しつつ、恐らくその技術の持ち主であろう伴野と三津峰に視線を移す。二人は先程とは違って普通に椅子に座している金宮の後ろで、左右に分かれて控えるように立っている。こうして見ると主人とその従者のようだな、と思いその様子を興味深く眺めていると、ふとハルヤの言葉が思い出された。

(そう言えば二人は金宮先輩の家で働いてるって言ってたな。って事は実際先輩に仕えている訳か。その割には先輩達仲良いっていうか距離が近いような…)

ぼんやりと三人の関係性に思考を巡らせていると、ダイキの視線に気付いたのかマドレーヌを手に金宮が楽しそうに告げた。

「ちなみに気付いているかもしれないが、伴野と三津峰も『協力者』だぞ」

「――っは、ゲホッ」

二度もの突然の告白に、ダイキは思わず口に含んでいた紅茶を一気に飲み込んでしまい、激しく咳き込む。美味しい紅茶なのに勿体無い、と冷静に思いながらも咄嗟に顔を伏せると、どこから出したのか三津峰が清潔そうな白いハンカチを差し出していた。有り難く受け取り口元に当てると、ふんわりと石鹸の様な優しい香りがする。

ダイキが呼吸を落ち着けている間、隣に座るジュンは一層不機嫌な様子で金宮を睨み付けていた。

「ふざけるのもいい加減にして下さい。怒りますよ」

普段よりも低い声を聞いて既に怒ってるな、とは思うもののダイキは口にしない。

ただ、ジュンが「嘘を付かないで下さい」と言わなかったと言う事は、恐らく金宮は本当の事を言っている、少なくとも本人はそう思っているという事なのだろう。それが分かるからこそ、ジュンは不機嫌になっているのかもしれない。

(そりゃ突拍子もない事言ってるのにそれが嘘じゃないって分かったら、ちょっとムカッとするよな)

特殊な『勘』を持つジュンに同情していると、その不機嫌の理由を知らないはずの金宮は宥めるように冷静な口調で弁明を口にする。

「ふざけてる訳じゃない。本当に、俺も含めて三人共『協力者』なんだよ」

ジュンは変わらず顰めっ面のまま金宮と相対している。その表情から察するに、やはり嘘は付いていないらしい。

金宮の方もそれ以上の事は口に出さずにダイキ達二人の様子を窺っており、伴野と三津峰に至っては言葉を発する気配すらなかった。

思わぬ沈黙が続く中、これ以上の問答は無意味だろうと判断し、ダイキは息をついて話を切り替える。

「…それが本当かどうかは後で良いです。まずは金宮先輩が『協力者』の事を知った経緯を教えて下さい」

「あぁ、さっき聞いてたな。どこで知ったのかって」

金宮は先程から手にしていたマドレーヌを食べきり、指先をペロリと舐めて答える。

「何て事はないよ、単に理事長から聞いたんだ」

「理事長から?」

「考えてみれば当然の話でさ、部活を新設する以上生徒会(俺達)の許可が必要だろ。ただ理事長直々の頼みであっても、学園の生徒に選ばれてこの職に就いている以上、納得出来る理由じゃないと印は押せない。なんで、理事長からこういう理由なんですよ〜って聞いたって訳だ」

確かに、ダイキが手渡された申請書には既に生徒会の印が押されていた。その際には理事長が上手く根回したのか、くらいにしか捉えていなかったが、その『根回し』の一環として生徒会メンバーにある程度話がされていてもおかしくない。

先程から沈黙を守り続けているジュンの様子を見る限り、やはり嘘は付いていないらしい。もし引っかかる所があればジュンの性格的に何かしら口を挟んでいるだろう。

「ちなみに、どこまで聞いたか教えてもらえますか?」

自分について何を聞かされたのか、僅かに警戒心を抱きつつダイキが問うと、金宮はその心情を知ってか知らずかゆったりとした動作で小皿に手を伸ばし、今度はブラウニーに齧り付く。

「ん〜まぁ必要な所だけだよ。理事長に招かれて『探偵』が来る。そいつは二つの事柄を依頼されていて、一つが七不思議の調査、もう一つが『協力者』探し。その依頼を達成するための拠点として探偵部を新設して与えたい、だからそのために生徒会の許可が欲しい。そんな所かな」

金宮が語った内容はおおよそハルヤやリオが知っている内容と同じだ。申請書に印を押してもらうため、本当に必要最低限の状況を説明した、という事らしい。

(金宮先輩が『協力者』の事を何で知ってるのか、それは理解出来た。けど…)

ダイキの中で、先程沈黙の種となった疑問が再び湧き上がる。つまり、何故金宮は自身が『協力者』だと分かったのか、だ。

「…さっきの話に戻りますけど、何で先輩は自分が『協力者』だと思ったんですか」

焦点を戻して問いかけると、隣人の肩がピクリと動く様子がダイキの視界に入った。先程の対峙をまだ気にかけて居るらしい。

対する金宮は咀嚼しつつ「ん〜…」と唸り、ゴクリと喉を鳴らして上目遣いにダイキを見やる。

「勘、って言ったら怒るか?」

「…また勘なんですか」

肩透かしを食らわせれた気分になるも、ダイキはめげずに会話を続ける。若干語気を強めて応えると、金宮はケラケラと楽しそうに笑い声を上げ、対面する後輩達を宥めるように右手を振るった。

「怒るなよ〜これもふざけてる訳じゃないんだって。正確に言うと、ある程度根拠のある勘、推測だな」

唇の端に付いたブラウニーの欠片を舐め取り、金宮は目を細める。何気ない動作だったが、ダイキにはいやに挑発的に見えた。

「さっきも言ったけど、探偵部新設の許可を下す時に土居島の依頼について聞いた。でも、正直『協力者』の話って内容としてはかなり曖昧だし、わざわざ部外者に言う必要ないだろ?単に七不思議の調査の為に呼んだって言えば、目的としてはかな〜り弱いけど一応筋は通ってるし、許可出来ない事もない。でも敢えて『協力者』の事を話したって事は、それなりの意味があるんじゃないかなーと」

「それで、自分がその『協力者』じゃないかと推測した、って事ですか」

発言の意図が伝わった事に気を良くしたらしく、金宮は満面の笑み「そうそう」と頷いて同意を示す。

「自分で言うのも何だけど、学園の生徒会長っていう特異な立ち位置に居るんだし、他の生徒よりは可能性高いだろ?伴野と三津峰に関しても同じだ。もし俺が『協力者』なんだとしたら、こいつらもきっとそうだろう、って思ったんだよ。優秀さは身を以って知ってるから」

「成程…」

金宮の弁は意外にも筋が通っていた。確かに千人近いの生徒の中から理事長が見出したとなると、目立つ立ち位置に居る生徒である可能性は高い。名目上とは言え生徒のトップに立つ生徒会長が含まれているというのは、いかにもありそうな話だ。

と、納得も示しつつ、それでは可能性が高いだけで確定とは言えないのでは?とダイキはふと思い、金宮の発言の真意を確認する。

「それだけだとただの確率論ですよね。何か確証があるんですか?」

ダイキはここまでの会話から鑑みて、突飛な発言が目立つものの金宮は頭は回る人間だと踏んでいた。自分こそが『協力者』だと語るのであれば、何かしらそれを裏付ける証拠の一つや二つ持っているのではないか、と希望的観測を抱いていたが、

「確証はない。そう確信しているだけだ!」

その希望は悪びれた様子もない金宮の発言により脆くも崩れ去る。

あまりにも堂々とした言い草にダイキはやっぱり勘じゃないか、と反論する気にもなれず、「そうですか…」と弱々しく答えた。

ジュンの様子を窺うと同じように何も口にする事が出来ないらしく、唇を真一文字に引き結んでいる。嘘を見抜く『勘』を「根拠のない確信」という裏技ですり抜けられてはたまったものではないだろう。

(いいや、もう…後で生徒証に打ち込んで確認しよう…)

『協力者』であるか否かについてのそれ以上のやり取りを諦め、会話の締めとしてリオやジュンにも話した『決め事』の確認を取る。

「ちなみに、俺『協力者』は下の名前で呼ぶって決めてるんですけど、もし先輩も『協力者』だったら、シュウ先輩って呼んで良いですか?」

恐らく金宮の性格から言ってどう呼ばれるかどうかなんてさほど気にしないだろうし、そもそも許可を取る必要もないのだろう、とダイキ自身は思っていたが、同時に先輩である以上ある程度の礼は尽くすべきだという思いもあった。

断られるという可能性をほぼ除外しつつ返事を待っていると、満面の笑みと共に金宮は親指をグッと突き立て今日イチの大声を発した。


「モチのロン!」


予想を超える何とも緊張感のない返答に「はは…」と乾いた笑いを浮かべ、ダイキは今日何度目かの脱力感を抱きながら思う。

これが、帝ノ森学園の生徒会長(王様)なのか――。

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