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神火のクレイオス  作者: 宮川和輝
第2部 昏き森と悪意の水都
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64 世界樹の枝

 明くる日となり。

 未明、森を朝霧が薄く覆う中で、土人族ヒューマンの二人は森長もりおさの住居の前にて時を待っていた。

 前日にここに来るよう言われていたが、さてどれくらい待てばよいのか――指示通り太陽神が昇るよりも前にやってきたクレイオスだが、相変わらず気配の感じ取れない村の中で手持無沙汰となっている。

 住居の中を覗き込んでも無人であったので、森長も三姉弟もどこか別の場所に居るようだ。


 鳥の囀りも聞こえず、あるのは枝葉がこすれあう些末な音だけ。腕を組むべく動いた拍子に、革鎧の軋んだ音が妙に大きく聞こえたほどだ。

 アリーシャも森の静謐を破ることに薄い抵抗を覚え、口を閉ざしている。暇を訴える手足を宥めるために、肘当てや革の手甲を無意味に調整したりして時間をつぶしていた。


 そう、二人は完全武装――森を訪れた際の旅装を身に纏っている。

 騎士団から贈られた橙色の外套を纏い、背にはそれぞれ槍と弓。足元には荷物の詰まった荷袋が置かれ、この森に残していくものは何もない。

 予定通り、クレイオスとアリーシャ、そして三姉弟はいよいよ水都へ向けて森を発つこととなっていた。


 二人のもたらした、魔物が居るかもしれないという警告。

 それは確かに森長へと伝わったらしいが、その上でかの老爺は三姉弟の出立を決断したらしい。

 根拠はクレイオスとアリーシャの直感だけで、事実として存在しているかどうかは完全に不明。どこで、何をして、どんな存在であるかもわかっていない。この三、四十年の間に明確に活動したかということも、この森に引きこもっている森人族にはわからないのだ。

 そんな存在のために、森の今後を左右する話を先送りにするわけにもいかず、そもそもにして行先はこのアルパリオス領の中心地、『水都』である。

 そんなところに魔物の危険が潜んでいる、などとクレイオスたちとてうそぶくわけもなく、こうして予定を変えることなく今に至る。


 二人が待つこと暫し。

 朝霧が消え始めた頃に、彼らはやってきた。


 珍しく聞こえてくる足音を耳にし、二人はそちらへ視線を向ける。この村の中で足音を立てる意味とは、即ち二人へ自身らの存在を示す親切心に他ならない。

 木立の向こうに見える、背の低い影二つに、背の高い影二つ。見えてきたのは、森長もりおさコルルクと三姉弟だ。

 森を出る三人は、当然旅装を身に纏い、それぞれ武器と荷物を背負ってやってくる。

 その中で目を引いたのは、彼らの装束だ。


 先日まで、三人とも獣皮、あるいはそれをなめした革を縫い合わせた衣服を身に纏っていた。

 綿や羊毛などを手に入れる手段のない森人族アールヴではしょうがない話だ。それでも正直な話、服飾の観点から言えばあのカーマソス村よりも劣っている。一年に数度とはいえ、商人がセクメラーナから布を仕立てて来てくれていたのだから。

 はっきり言うと、彼ら森人族の衣服は小汚く粗末なもので、文明的ではなかった。同じ田舎者であっても、王都を見てきたクレイオスからそんな感想が心中に浮かぶほどだ。無論、それを理由に軽蔑したり、侮るような精神性は持ち合わせていないが。


 だが、今身に着けているのは違う。

 皮でも革でもない、おそらく植物の繊維を用いて織り上げた生地の胴衣なのだ。白を基調とし、染料を用いた糸を使っているのか、鮮やかな新緑に染められたラインが各所に美しく引かれている代物である。

 長姉モルハウトは、その胴衣を豊かな胸のすぐ下で絞って右脇腹で結び、綺麗な臍と白く眩しい腹を晒している。下半身に纏う下服ズボンは赤茶けた革衣で、そのスラリとしながらも女性的丸みを帯びた体のラインがはっきりと見えていた。

 纏う防具は革の胸当てだけで、アリーシャと同じく軽量な身のこなしを維持するためだろう。胴衣をわざわざ結んで固めているのは、ヒラヒラとする裾を嫌ったのか、と同じ感想を抱いたことのあるアリーシャは理解を得る。

 長兄フィラウトは胴衣の上から重厚でありながら関節部の装甲を排除した革鎧を纏い、同じく軽業を行える装備をしていた。ただし、こちらの革鎧は丁寧に油が引かれ、金属鎧に劣らぬ艶やかな質感と美しさを表出している。下半身にも膝当てや腿を護る革当てを纏い、戦士らしい風格を漂わせている。

 クレイオスはすぐに、その革鎧が以前に見たものとは異なる素材、魔獣の革で作られたものと理解した。王都の職人たちが生み出した己のソレとは数段劣るが、それでも十全な機能美を見せている。

 末弟ユピテウスは姉兄と比べれば些か簡素な装いだ。膝丈まで伸びるサイズの大きな胴衣と、二人に比べれば薄い革衣の下服ズボン。胸当てなどの簡素な防具さえないが、目を引くのはその右手に握られた、身長ほどの棒であろう。

 地を突く細い棒先から、上へと行くにつれて節くれ立って膨らんでいく形。アリーシャからすればそれは立派な『杖』であり、魔法師マギア・カネラーが好んで持つ魔法マギアの補助具であると理解した。


 装いを新たにした三姉弟。

 眩く見える白の胴衣と真新しい革の防具を纏ったその姿は、前日までの印象とは大きく異なる。清潔感に溢れ、気高さが総身からにじみ出ていた。

 正装、とはまた意が異なるのであろうが、しかし使者として恥ずかしくない、誇りある姿であるのは確かだ。

 きっと村全体が、水都へ向かう三人のために仕立てたのであろう。故郷の村の女衆では決して真似できぬ美しい装いに、アリーシャは心底から感服する。

 その上、衣服からは森神シルワの気配が薄く立ち上っている。権能フィデスを持った同胞が、なにかしらの祝福を与えているのだろう。


 そこには、この三姉弟への愛情が確かに存在していた。

 きっとこの講和の話を快く思わぬ者とて居ただろうに、それでも彼女たちを送り出す準備と手間だけは惜しまなかったのだ。


 見惚れて呆けるクレイオスとアリーシャの前で、三人とコルルクは足を止める。

 一歩前に進み出た老爺は、その懐に入っていた物を取り出した。

 クレイオスの胸板ほども面積のあろう大きな葉で包まれた何かだ。包まれたシルエットとしては盾に似ているが、その為に使うには小さすぎるし厚みもない。

 長さ自体は半ベルムルもなく、全体的なサイズとしても荷袋に放り込んでしまえるくらい。

 それを恭しく両手で握りながら、コルルクは口を開く。


土人族ヒューマンの若枝たちよ、改めて礼を言わせてもらおう。

 縁も所縁もなき我らに付き合い、旅の世話までさせることとなる。あるいはその先の水都でもなにか手間をかけさせるやもしれぬ。

 もしかしたら、今になって悔いを得ていることもあろう。だとしても、逃げ出すことなく、臆することなく今日こうして待ってくれていたことに心から……感謝する」


 そう言って、老爺は深く頭を下げる。同じように、背後の三姉弟も神妙な面持ちでその頭を垂れた。

 同道を頼み込んできたとき、そして今。一度ならず二度までも、その決して軽くはない頭を下げてもよい、とこの老爺は思ってくれている。

 この村にとってどれだけ自分たちという存在が奇跡的で、そして森の未来を託すに足る存在であるのか――改めて、腹に鉄の玉を飲み込んだような重さと共にクレイオスは理解した。

 だが、それに臆して無様を晒す男ではない。


「その感謝、まだ早かろう、森長もりおさよ。

 旅というのは何があるかわからない。明日には這う這うの体で森に五人そろって逃げ込むやもしれない。

 だから、あなたの感謝は、この三人が為すべきことを成し、笑顔で帰ってきたときまでとっておいてもらいたい。

 無論、帰り道まで俺たちが共にするかは旅の顔色のようにわからない。そこに俺たちは居ないかもしれない。

 だが、あなたの真摯な感謝は俺たちがどこにいようと受け取って見せよう。

 だから、今は信じて見送ってほしい」


 珍しく、本当に珍しく、クレイオスは真摯な心持を長い言葉で表現した。

 後ろに立つ三姉弟の装束と、そして昨日聞く機会があった、彼らの願い、憧憬。それらを胸に得た青年は、自分たちが行動を伴にするのはこの森の『希望』であるのだと、真実に理解したのだ。

 生半可な気持ちでは挑めない。魔物が居るかもしれないということに気を取られて、彼らを守れないなどという間抜けな事態にはさせない。

 強い決意を抱き、故に森長もりおさには薄くはあるが柔らかい笑みで頷いて見せるのだ。


 青年の言葉を聞いて、老爺は頭を上げ――そしてニコリと笑って見せた。齢を重ねた証の皺が笑みを彩り、老爺特有の見る者に安心感を与える柔らかな微笑みの表情となった。

 彼が穏やかな笑みを浮かべるのは何度か見たが、それでも二人は初めて見る表情だ、と感想を抱く。きっとそれは、老爺の心中が心底から安心を抱き、そこから生じた笑みであったからだろう。


「――ああ、やはり、お前たちに頼んで正解であった。

 であれば、クレイオスの言葉通り、この感謝は後まで置いておかせてもらおう。

 だが、此度の件に関する礼は、この場で受け取っていただこう」


 満足げに頷いたコルルクは、それからようやく抱え込んでいた盾のようなものを見せる。

 目の前でそれを包んでいるひどく大きな葉っぱを丁寧な手つきで剝がし、そうして見えたのは――『枝』だ。

 何の変哲もない、先ほど若木から切り落として来たばかりのように見える少し太い枝である。先へ行くにつれて数本に枝分かれして伸び、先端には数枚の幼葉がちょこんとついたまま。

 これを決して折らぬように包めば確かに盾のようなシルエットになるだろう。


 これが一体何なのか。

 まるで理解できぬクレイオスであるが、三姉弟、コルルク、そして――アリーシャは違ったらしい。


「おぉ……」

「いつ見ても、だな」

「すご、い」

「うそ、うそでしょ、これ……」


 長姉から末弟までが感嘆の吐息を漏らし、アリーシャが口元を抑えながら枝を凝視している。あの様子では視力を回復してまでつぶさに観察しているな、とクレイオスは横目で彼女を見ていた。

 彼女らの共通点とは今更悩むまでもなく、即ち『森神シルワ』の加護を受けし者であること。クレイオスだけが反応できない理由はそれしかない。


 説明を求める視線を向けてみれば、コルルクは重々しく頷きを返して口を開く。


「これはの、百二十二年前に我らが世界樹森林ウーニウェルスム・プランテルを出奔する折、当時の森長もりおさが賜ったもの。

 伝承が正しければ、これは、かの世界樹ウーニウェルスムの枝を森神シルワさま自らが手折り、そして生まれたばかりの森人族アールヴに与えたもうた十三本の枝の一本なのだよ」

世界樹ウーニウェルスムの、枝……ッ!?」


 老爺が明かしたこの枝の正体に、アリーシャが半歩後退して息を呑む。畏れ多い物に近づくなどできない、という信心深さが勝手に体を動かしていた。

 さしものクレイオスとて、その凄まじい価値を誇るであろう代物を前にしていると理解し、思わず仰け反って唸る。

 それくらい、今、コルルクが手に持つソレはとんでもない逸品であるのだ。


 神々によって一晩のうちに生育され、神界カタラム大地テラリアルを繋ぐ役割を与えられた世界樹。

 その周辺、広大な範囲は森人族アールヴが住まう森林によって守られ、その結果として落ち葉の一枚とて森人族以外が得ることは不可能ではないにせよ難しい。

 況や、枝などどうして得られようか。

 冬であろうと青々とした葉を茂らせ、さらには生命力に溢れ頑丈である世界樹から、折れ枝が落ちてくることは期待できない。ならばとばかりに折ってしまう、なんてこと、人族の身として不敬どころの話ではない。当然、根元に住まう森人族が、そんなことをするわけもなく。

 そうなれば、枝に手を加えることができるのは、誰あろう神々しかいないだろう。

 世界樹の枝というだけで大騒ぎできるというのに、森神の手で授けられた、という事実まであればとんでもない価値となる。枝は枝でも、この大地にたった十三本しかない内の一本なのだから。


 必然、これは間違いなく『神具』と言えよう。

 神の手によって生み出され、人界に零れ落ちた奇跡を呼ぶに、それ以外の呼称は存在しない。

 クレイオスが今背に提げている『白銀の神槍(ミセリコルディア)』と同等の代物、と表現すればわかりやすいだろうか。


 当然、この枝がそれほどの物である、と老爺の話を裏付けるものはある。

 それが、アリーシャ含めた森神に連なる彼女らが大きな反応を示した理由――強烈な森神の気配だ。

 半神半人アモルデウスの神火ほど露骨な神性ではない故に青年には感じ取れなかったが、それでも大変な代物であるのは森神信奉者には一目でわかる。仮に老爺の話が嘘であったとしても、森神に連なる大事な物、という認識は間違いなく得られるほどだ。


 心胆を揺るがした大きすぎる驚愕から、アリーシャは乾ききってしまった喉に無理やり唾を飲み込ませる。その拍子にゴクリと音が鳴ってしまったが、そのはしたなさを気にする余裕は少女になかった。

 枝から目を離せない有様の彼女を置いておき、クレイオスはようやく口を開く。


「……そんなにも素晴らしいものを見せてもらえるとは、光栄な限りだ。これだけでも、この話を受けた意義がある」


 心からの感謝を述べ、記憶に焼き付けんとその枝を見つめる。これが森人族からの『お礼』ということなのだろう。そのことに、文句どころか喜びしかなかった。

 普通の人族が一生を冒険に費やしたとて、目にすることができるかわからない『世界樹の枝』。それを間近で見たという経験は、宝石の山をも凌駕する価値があろう。


 そう思って頭を下げかける青年を、老爺は片手をあげて押し留める。それから首を横に振り、何でもないことのように笑みを浮かべながら言った。


「いやいや、見るだけと言わず、持っていくとよい」

「――――は?」


 コルルクの言葉に、復活しかけていたアリーシャの頭が再度停止した。いろいろなものをかなぐり捨てて、「理解できません」という言葉が一文字だけになって口から零れ落ちる。

 口から出ただけクレイオスよりマシかもしれない。固まり、眼を見開いただけの青年は一切の無音で老爺を見つめていた。

 言葉もない若者たちに、老爺は穏やかな笑みを保ちながら言葉を続ける。


「これを見せれば、あらゆる森人族アールヴがお前たち若枝を敵とは見るまい。今回のように迷い込んだ森で鏃を向けられても、可能な限り穏便に事を終えることができような。

 森の未来を託す者に、我らが示せる誠意といえばこの枝以外にあるまい。それだけ、我らが本気であるということよ」

「……いくらなんでも釣り合っていない。俺たちが頼まれたのは同道することだけ、で」


 困ったように眉根を寄せて首を横に振ろうとしたクレイオスは、はたと気づく。

 目の前の老爺、その視線がわずかに落ちたことに。

 落胆、あるいは失意を思わせる動きに口を止め、青年は思考を巡らせる。


 「それだけ我らが本気である」――森長もりおさは正しく、この機会に賭けているのだ。森の存続、そして土人族と争いを止め、講和を結ぶ未来を。

 だが、その為とはいえ、ただ道案内をするかのような土人族の若造たちに世界樹の枝を差し出すなど、あまりにも不自然である。その身が森神を尊ぶ森人族であるということを鑑みても、やりすぎとしか思えない。

 その理由は何故か。

 三姉弟が果たすべきこの旅の目的は、水都にたどり着き、そして講和の条件を突き詰めること。あるいはそのまま講和を結んでしまうことも含まれるやもしれない。


 だが、その道半ばで果てた場合、どうなるか。

 そこでクレイオスはコルルクの話を思い出し――雷に打たれたように体を強張らせる。

 「かつて森を出奔した同胞は、変わり果てた姿で見つかった」と。

 その時は苦い思い出を振り返るかのような面持ちで語っただけであった。老爺はそういった悲しみを抑え、憎しみを吞み込んでこの一件に臨んでいるから。


 しかし、この三姉弟が同じ目にあってしまえば。

 数日後、この森の外に打ち捨てられた彼らを見たとすれば。


 新たに燃え上がった憎悪を、この老爺はまた吞み込むだろうか。激憤する同胞をなだめにかかるだろうか。

 想像でしかない、だが――百二十年戦い続けたこの男が、再び弓を取るに躊躇するようには思えなかった。


 だから、この旅立ちに、三姉弟が土人族の領域にその身一つを晒しに行くことに、『森の全て』を賭けるつもりなのだ。

 うまく講和が進むのならば、それでよし。過去を呑み込み、未来のために邁進する。

 だが、彼らが死んでしまったなら、彼らの願いを踏みにじった報いを受けさせる。森を挙げて戦いを挑むだけの理由はあろう。


 この『お礼』は、老爺の覚悟の全てだ。クレイオスたちが理解して、今回のことに臨んでくれるかを見定める指標。

 ことここに至って、クレイオスらを試す捨て身の一手かもしれない。

 過剰なまでの物品を差し出すのだから、わかってくれような――そんな音なき言葉が鼓膜を震わしたように思えた。

 無論、全てはクレイオスの妄想に過ぎないのかもしれない。森の秘宝を託すほどに青年たちを信じているだけということもありうる。


 だが――今こうして、視線を合わせてきた森長の瞳を前に、背筋に夜気が触れたかのような冷えが舞い降りたのは、気のせいではなかろう。

 老爺の覚悟を想像し、どうすればよいかを迷って。


 青年は、即座にそんな己を腰抜けと罵って投げ捨てた。


「――この身の全力を尽くして、彼らを水都に送り届ける。いや、水都でも、手を貸せることには可能な限り手を貸そう。

 モルハウトたちが最良の未来を掴めるように。皆が納得できる結果に笑えるように。

 ……それでいいだろうか、森長もりおさよ」


 元より彼らを助けると決めたくせに、目の前の老いさらばえた男の気概を前に委縮するなど、誇りある祖父タグサムの孫、母アンネリーサの息子の姿ではない。

 今更どんなものを差し出されようが、やると決めたことはやる。相応しくないと思うものを授けられるなら、相応しいに足ることを為せばいい。

 そうして一瞬でも気圧された己を叱咤し、クレイオスは森長を正面から見据えて言った。受けて立とう、と。


 対し、百二十年を戦った老爺は一瞬だけ目を丸くして――それから、ニヤと笑った。


「ありがとうよ、若木・・よ。そう言ってもらえるなら、安心できるというものよ」


 そう言って、コルルクは手の中の枝を差し出す。

 クレイオスはそれを迷いなく両手で受け取り――水都を目指す旅は、始まった。

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