到達
宇宙に数多存在する銀河団。
さらにその銀河団に数多存在する銀河の一つに、亜空間を抜けて一隻の探査艇があらわれた。
それは銀河間航行可能な知性体のもつ汎用探査艇だった。近傍銀河の宇宙図作成中に、その辺境恒星系が発信源と思われる規則的な電波を受信したため調査へやって来たのである。
宇宙図作成中に知性と遭遇するのは特に珍しい事では無い。今回の調査は通常通りの、その生命の様式が既存の知性にとって危険か否かを判断するためのもの。危険というのは、例えば既知の知性構成体をそのままそっくり乗っ取るとか、上書きするとか、あるいは素粒子レベルまで分解する、といった類の事である。これまでに数百件の例があり、今の処置が決定するまでに数十の悲劇があった。
仮に新規に発見した知性がその手の危険なものだった場合はどうするか。別にどうということはない。その星系に近付かないだけだ。蓄えられた知恵に彼らがアクセス出来ないというだけのこと。
発見されるのを防ぐため、目的恒星系の外縁にて探査艇を恒星軌道に乗せて停止。そして無数の調査機を射出する。後は受信する情報を解析するだけである。
……データがまとまり始めた。
第一から第四惑星は岩石惑星で、第五惑星の残骸らしき小惑星群は、恐らく第六惑星が引き寄せた彗星に衝突した結果によるものだろう。第六から第九惑星はガス天体。
さて、恒星側から見ていくか、外縁から見るか。
知性は第三惑星発祥のようだが、我々は外縁から見ていく事にした。探査艇の周辺情報をついでに確認できると考えたからである。
真っ青な第九惑星と、同規模で灰色の第八惑星。直径がそれらの倍以上ある第七惑星には、はっきりとしたリングが見られる。恒星系最大の第六惑星は赤道付近に大きな渦あり。
四つの天体は、大小濃淡あるがそれぞれリングを持っていて、軌道上に原始的な周辺監視装置と観測衛星が回っている。最大の第六惑星の軌道上には大きな資源収集用の基地がいくつか建築され、稼働しているようだ。この星系の知性が容易に惑星間航行をしている証拠である。これらはよくある事で彼らも予想していた。
しかし……。
四つの天体の軌道を回る意味不明な金属の塊あり。どれも同じ形をしている。
これは一体何だろうか。
表面を別の金属で覆ってある。
内部はほぼ均一で、特にセンサー等は内蔵されていない。ただの金属塊だ。
この形状になんらかの意味があるのだろうか。
解析の深度設定を変えて、取りあえず次へ進むことにした。
第五惑星のなれの果ての小惑星群は、資源としてかなりの量を持ち去った後の様だ。
第四惑星はテラフォーミングの痕跡が有る。
そして両方ともやはりあの意味不明な金属塊が回っている。
今回の調査の目的、第三惑星はどうか。
液体の水の多い珍しい惑星だが、やはり軌道上をあの物体が回っている様子が確認された。
解析の結果、第三惑星の知性を持つ生命体は、二つの性別を持ち、片方を変化、もう片方が維持を担っている事が分かった。
そしてあの奇妙な物体はどうやら最も高い知性を持った生物をかたどっているらしい。
「チーフ。結果が出ました。別段危険な生命体は存在しないようです」
「よし。ひとまず安心だな」
「ただ、第三惑星の地上のいたる所に、あの妙な金属塊がすえてあるようです。あれは一体何なのでしょうか」
「ああ。君はこの手の仕事は初めてだったな。私は似た様な物を何度が見た事がある。あれは恐らく神像だ」
「神……。宗教というやつですか。なるほど、初めて見ましたよ。しかし惑星間航行可能なレベルでもまだそんなものが残っているものなんですか」
「この手の物はなかなか無くならないのだ。衛星軌道を回っているのは珍しいがね」
「第九惑星軌道にもありましたよね」
「ああ。あったな」
「彼らのレベルなら、第三惑星から第九惑星まで最短でも二年はかかるでしょう。わざわざあんな物を持って行くなんて、私には理解できません」
「彼らにとっては大事なものなのだ。これほど力を入れているのだから、余程重要なものなのだろう。それこそ他の全てをなげうってもいい、という、彼らを彼らたらしめているものなのだろうさ。もっとも、別の惑星に先住の生命体がいたなら、押し付けがましくて酷く邪魔で迷惑に思うだろうがね」
「しかしチーフ。何故この金色の神像は雌型のようですが、何で椅子に座っているんでしょうか」
「さあ。疲れてるんじゃないのか? 見当違いな事までいろいろと背負わされて。未開の星の宗教なんてそんなもんさ」
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