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お花畑 - 移動手段切り替え編  作者: イカニスト
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第四話「イェト」

題名「お花畑」

最終章「移動手段切り替え編」

第四話「イェト」



ツイカウの落ち込みようったらない。

気持ちはわかる。

恋人にふられ、あまつさえその恋人が悪の道を選んだのだ。

ニカイーとイェトに触発されて、自分たちも30年以上付き合おうねと約束した、相思相愛の二人。見ている方が照れくさいほどのラブラブぶり。クールガイと人気アイドルのハイスペックペア。それが、ツイカウとオウフだった。

だからね、気持ちはわかる。わかるよ。

俺もイェトもショックを受けたさ。

俺達みたいなへっぽこコンビが、お互いに飽きもせずに30年も続いたんだもの、あの二人が終わったなんてあり得ない。

わかるよツイカウ。

でもね、俺の店に暗黒の醜気を充満させるのは勘弁してくれないかな。

えらい営業妨害なんだよね。

醜悪なヘドロ状の雰囲気が、ツイカウの全身からもうもうと噴出して、店の外まで盛大に漏れ出している。

それに恐れをなして、客が逃げ帰る様をイェトさんが確認してきた。

ツイカウは、いつもの窓際の4人掛けのテーブルに一人ぽつーんと座り、いつもオウフちゃんが座っていた席をじっと、死んだ魚のような目で眺め、時折涙ぐむのだ。

あそこまで悲壮感たっぷりに泣かれると「一人で4人掛けの席を占領するな」とも、ましてや「帰ってくれ」なんて言えるわけがない。

お祭り娘のイェトさんも流石にかける言葉に窮し、カウンターに肘をつき、紅茶をすすりながら俺にダラダラと話しかけている。

きぃ…

店の入口の扉がそおぉーっと開く。

「ニカイー。何かあったのか?」

雑草を手に、臨戦態勢をとったイマルスが、忍び足で入って来た。

ナイアラはイマルスと背中合わせ。スリングショットを構えて後方を警戒している。

「…お前らこそ、何かあったのか?ここは紛争地帯ではない。普通に入ってこい。」

「いや!何かあったろう?恐ろしいほどの醜気が漏れ…うぉあ!」

イマルスは、腐臭すら放つツイカウのひどい有り様を見て驚き、飛び退いた。

「だっ!だだだ!」

「イマルス。ちと落ち着け。」

俺はため息交じりにそう願い出た。

イマルスがそんなことを言う気持ちはわかる。

けれど、ツイカウの気持ちも察してやってくれぬか?

「誰だ!いや!なんだ!あれわ!!」

あーあ。言っちゃったぁ。

「クールガイだよ。色気のある顔に鍛えられた体。たいして勉強もしないのにテストでいい点を取って、何の努力も無しでスポーツ万能。女が群がってくる。」

「何がクールガイだ!物体Xと説明された方がしっくりくるぞ!」

「お前もたいがい失礼な女だな。」

「ええい、その話はもういい。私はお前に用があるのだ。」

イマルスはツイカウの方をちらりと見る。

「最近、チャケンダに不審な動きは無かったか?」

イマルスはツイカウの方をちらりと見る。

「あいつは年がら年中不審だぞ。」

「真面目に答えてくれ。大変なことになるやもしれぬのだ。」

イマルスはツイカウの方をちらりと見る。

「うーん、そうだな。今日、黒羊が出たぞ。」

「なに!その話をもっと詳しく…」

イマルスはツイカウの方をちらりと見る。

彼の方から醜気が押し寄せてくる。

これをのけぞって避けた。

彼女は引き攣った表情で、わなわなと眉毛をひくつかせる。

そして、言って話ならぬことを、またもや言ってしまう。

「あのダークマターは何とかならぬのか!!気が散ってしょうがないわっ!!」

ダークマター等と評されたツイカウは、更におよおよと自信を失い、より強烈な醜気を発散させる。

「おいー、イマルス勘弁せいやぁー。悪化させてどうするんだー。」

「うぬれわ、私が悪いというのか!?」

ぐぬ、何故俺がイマルスと喧嘩しとるみたいになっておるのだい?

これもダークマターのなせる業か?

『見ちゃいられないわ』と言わんばかりに、ふっと鼻を鳴らす音が聞こえた。

「まったく。どうやらわたしの出番のようね。」

イェトさんがティーカップをカウンターにすたーんと置いて、そう見栄を切った。

イェトさんの出陣に、俺は思わず己が手で目を覆ってため息。

だって、いやな予感しかしないもの。

「イェト。何をする気だ。」

「傷心旅行よ。」

「傷心旅行ぉ?」

想定外にまともな単語が彼女の口から発せられたので、俺は驚き、そして安堵した。

「ツイカウに心洗われる美しい景色を見せて、わたしたちが慰めてね、心の傷を癒すのよ。」

お?

おおぅ!?

イェトさんの提案がまともだ。ここまで具体的に言い切っていただけたなら、彼女の話に裏はあるまいよ。

「へー。お前のことだから、アルコールで洗い流すとでも言うのかと思ったぜ。」

「あ!酒飲ますのも効果的ね。」

おい!おい!おい!おい!おい!おい!!

「冗談じゃねぇ。お前はもう飲むな。」

「新しいワイン樽開けちゃうわよ!!」

「飲むなっつってんだろ!」

やっぱりあぶねーな。

傷心旅行と云うアンニュイな単語に、同情的に心許してはいけない。

どこでイェトさんの安全装置が吹き飛び、阿鼻叫喚の地獄になるか分かったものではない。

イェトさん+アルコール。

この最悪な組み合わせに反応して、イマルスとナイアラがさりげなく帰ろうとしている。

二人も俺とイェトさんの30周年記念パーティーではひどい目にあったからな。

俺は袖搦を取り出し、その先端のかぎ爪でイマルスの襟をひっかけて手繰り寄せ、彼女にヘッドロックを決めた。

「貴様、何をする。この腕を放せ。」

「お断りだね。イェト企画の傷心旅行。お前たちにも付き合ってもらうぞ。」

「そんな義理は無い!」

「いや、有るね。ツイカウのガラスのハートにとどめをさし、叩き割ったのはお前の心無い言葉だ。責任を取れ、責任を。」

「ぐぬ。」

「お前ら二人に付き合っていただく理由は他にもある。本気で暴走をしたイェトを、俺とコの字だけで止められると思うか?イェトはネコの敏捷さと像のパワーを併せ持った、最強の生命体だぞ。」

「た、確かにそうでわあるがぁ~。あ!私にはマァク様への報告云々の任務があってだな。」

「云々とはなんだ、云々とは!?お前はその云々を俺に聞いている途中だったろうが!」

往生際が悪いな。

ヘッドロックしたまま連れて行ってやる。

挿絵(By みてみん)

<※コンスースです>

「と、云う訳でメンツは決まった。お前たちも早く支度をせい。ジェジー?コンスース?」

二人はテーブルの下に隠れて、息を殺してコーヒーをすすっている。

そんなに居心地が悪いならほかの店に行けばいいのに、お前らは何が何でも俺の店の、その小さな二人掛けのテーブルなんだな。

そこじゃなきゃいかぬと云う事由について、得心が行くまで百日百晩問い詰めたい。

左手で自分の服を掴んで片腕版ヘッドロック。

俺は右手で袖搦をにゅーっと伸ばして、テーブルの下で聞こえぬふりをしている二人をゴソゴソと掻き出した。

コーヒーをこぼさぬように、カップを両手で支え、わたわたよろよろと出てきた二人は、この期に及んでも知らぬ顔を決め込み、椅子に座りなおした。

ほんと。そんなに嫌ならチャンネルを切り替えて別な世界に逃げてしまえばいいのに。なんでそんなにそのテーブルが好きなんだよ。

意地でもそこから離れない気だな。

「イェト!ちょっとあの二人を、傷心旅行に行く気にさせてくれ。俺はイマルスで手がふさがっている。」

「分ったわ。」

イェトさんが二人のところに行き、二人の顔面を鷲掴み。ブレーン・クローを決めた状態で二人を釣り上げた。

とたんに店内に響き渡る、男二人の悲鳴!そんなに痛いのか!!

あるぇ?イェトさん。

俺が想定していた、行く気にさせる方法と違ぁーう。

俺がヘッドロック使っているから、それに合わせたのか?

ヘッドロックは男の子がじゃれ合うときに使う技だからいいのだよ。

ダブル・ブレーン・クローは荒業どころか、出来る人間が限られるタイプだからな。

貴重なものを見せてんじゃねーっつの。「有難や」と拝むぞ!コノヤロー!!

「バレリーナの技じゃねー。」と、俺の口からこぼれていた。

「二人共、来るって言いなさい。」

二人はイェトさんの腕をタップし、ギブアップの意思を示すが、彼女は二人を解放するどころか、握力を15%増加させた。

「誤魔化そうとしてもだめよ。はっきりと来るって言わないと放してあげない。」

二人の足がジタバタと無様に空を掻く。

「おーい、二人とも。俺たちも旅行に行きますって、早く言った方が良いぞ。」

俺は親切に忠告してやったのだが、二人は腕をバッテンにクロスさせこれを拒否する。

「私たちでさえ行かされるのに、お前らが行かぬなどという選択肢はないぞ。」

どうやらイマルスが俺たち側にまわった様なので、ヘッドロックを解いてやった。

だが、バックレられる可能性は依然としてあるので、俺はこの店内をビートウドゾーンに指定して、チャンネルを切り替えられなくした。全てが終わったら指定を解除しよう。

イマルスがナイアラにテキストメッセージを送った。

一瞬のアイコンタクトにてマァクの腹心の二人は同意。

イマルスとナイアラが、コの字とジェジーの背後に回り、脇をくすぐり始めた。

痛い&くすぐったい。

それでもジェジーとコンスースは、強情に首を縦にふらない。

イェトさんが握力をもう10%引き上げた。

二人の頭蓋骨から「ピシッ」と、やばげな音がした。

だがイェトさん的にも限界に近いらしく、額に汗をにじませ、指も小刻みに震えている。

イマルスとナイアラも額に汗をにじませ、性的にグレーゾーンな場所まで果敢に攻め入ってくすぐり続ける。

それでも男二人は苦痛に耐え続け、こちらの要求を拒み続けている。

「うーん、これはもっと本格的かつ徹底的に拷問をしないとならぬようだな。」

事態を重く見た俺は、裏の物置から荒縄を持ってきて、二人の手首をきつく縛り上げ、天井から吊るした。

コンスースが特殊スーツを着ると厄介なので、アタッシュケースは予め没収した。

「ふーっ。これでいいだろう。」俺は額ににじむ汗をぬぐった。

「この二人。どうしてやろうか?」

イマルスが舌なめずりをする。

「わたし達が一人ずつ順番に、拷問技を披露するというのはどうかしら?」

イェトさんが邪悪な笑みを浮かべる。

俺は平和的な解決方法を模索するが、どういう戦略をとっても、最終的にイェトさんの案に帰結してしまい唸る。

神よ、本当にそれしかないのでしょうか…それが人間の限界なのでしょうか。

イマルスが、よし分かったと手を叩く。

「ナイアラ。先鋒はお前が務めろ。そして…」

このセリフとセリフの間が恐ろしい。ジェジーとコンスースの唇は、恐怖で紫色になっている。

「…お前でいきなり終わらせてしまえ。」

「うい~。」

やる気投げに見えるが、彼女は本気だ。

ナイアラは小さすぎて、なんだかよく分からない、こまっちょい卵をスリングショットで投じた。

それは、蚊の卵であった。

50匹程の蚊が、襟元やズボンの裾から侵入し、二人の全身くまなく刺しまくり、蚊の腹がはちきれるまで吸血行為を続けた。

二人の身体のそこかしこに、ミサイルの発射ボタンのような大きさの赤い腫物ができた。

フフフ、これは効き目がありそうだ。

案の定、その効果はすぐに現れた。

「ぬおおっ!痒い!」

壮絶に身悶えする二人。

「痒い!ちょっ!まじ痒っ!!ぬおお!死ぬる!ぐあああっ!!」

俺が一本のチューブを手に二人に歩み寄る。

「くくく…ジェぇジぃぃー。コぉンスーぅス。これが何だか分かるか?」

無論、虫刺されの軟膏に決まっているわけだ。

「くっ!」

「ニカイー!卑劣だぞ!!」

二人はその軟膏を塗って欲しくてたまらない。彼らの目がギラギラとそう言っている。

「これを塗れば、その気が狂いそうな痒みも、たちどころに治ってしまうぞ。さぁ言え。俺たちと旅行に行くと。」

コンスースは歯を食いしばり、頭をぶんぶんと振って耐える。

「悪党に屈してたまるものか!」

足の指を引き攣らせているから、相当痒いのだろうに、強情な奴だ。

ナイアラは二人の首を縦に振らせることが出来なかった。

「ええい!ナイアラ!そこをのけ!!そのような生ぬるいやり方ではだめだ!」

2番手はイマルスが行くようだ。

荒縄を手に二人に近づいてゆく。

そして足を広げるように足首を縛り、テーブルに固定した。

ジェジーとコンスースは丁度「人」の字、もしくは「Y」を逆さにしたような格好で天井からぶら下がっている。

イマルスは大ぶりな剪定鋏を取り出した。

それをもって、上着の胸の一部を2か所、まぁるく切り取った。

ジェジーとコンスースの乳首があらわになった。

「ふん!これしきの攻撃に動じる我々ではないぞ。」

「われらの堂々たる面構えが見えるか!?」

強がってみせる男二人。

「ああ、そうだろうな。」イマルスはニヤニヤとやけに楽しそうに笑っている。

彼女は次に、ズボンの後ろを楕円形に切り取った。

ジェジーとコンスースの尻の割れ目があらわになった。

「くっ!いいさ!尻くらいいくらでも見るがいい!」

「ああ!お前たちに屈するくらいなら、喜んで尻をさらそうぞ!」

「クックックッ、」って、イマルスさん。本当に楽しそうだなぁ。そんなに楽しいのか?いいさ。人生なんか楽しんだもの勝ちだ。大いに楽しんでくれ。

彼女は店の棚に飾ってあったバラの花を持ってきて、二人の尻にそれぞれ生けた。

イマルスはバラを生けるまでは事務処理に没頭しているような実に真剣な顔をしていたのだが、バラを尻に刺して手を放した瞬間噴き出して笑った。

「フハハハハ!二人とも!素晴らしく強まったな!最強の状態ではないか!感謝するがいい!」

「くっっ!!」

「おんのれぇぇえええっっ!!」

俺は「なんかイマルスの奴、生き生きしてないか?」とイェトさんに耳打ちした。

「う、うん。」

イェトさんは二人の姿を正視できない。

目の前の光景は流石に彼女の恥じらいの閾値を超えているようで、イェトさんはほほを染めて目を伏せてしまっている。

好機きたる!!俺はイェトさんの顔をじっと見つめて恥じらう彼女の顔を最高画質でキャプチャした。

イマルス。お前は最低だ。だがもっとやれ。イェトさんが「きゃっ」とか言って手で顔を覆うくらいのやつをな。俺はその瞬間を収めた動画を命の次の宝物にさせていただくわ。

もう、もったいなくて瞬きが出来ない。

イェトさんから目が離せない。

恥じらうイェトさん。マジ最高です。

イマルスの下品なおいたは続く。

「さぁて、二人とも。まだまだねを上げてもらっては困るぞ。お楽しみはこれからだ。」

「な、なに?ちょっと待て!今”お楽しみ”と言ったのか!?言ったよな!!」

「イマルス!!この鬼畜行為は、俺たちをギブアップさせようとしてやっているのか?それとも単に趣味として楽しんでいるのか?それをまずはっきりさせてくれ!」

「無論、前者だよ。」

「あああっ!その微妙にごまかした笑い!ぼくにははっきりと分かったぞ!」

「君は純粋に趣味を楽しんでいる!そうなんだね!!」

「言いがかりはしにしておくれ。さもないと私は濡れ衣を着せられた怒りに自分を制御しきれず、25禁くらいのすごいことをやってしまうよ…」

「え!?25禁って、え!?」

この女、どこまでやらかすつもりなんだ?

二人の尻に生けられたバラがぴんと天井を示し、ふるふると震えている。これは男二人の心の動揺をこの上なく表現している。

「早まるな!話せばわかる!話し合おうじゃあないか!鬼畜はよくないぞ!」

「聞こえぬなぁ。その様な蚊の鳴くような声ではなぁ。」

「いや!全然聞こえているだろう!?」

イマルスはコンベックスを取り出し、二人の距離を正確に計測した。

その距離に合わせて、糸を2本切り分ける。

二つの洗濯バサミを糸でつなぐ。これを二組用意した。

そして、ジェジーの右乳首とコンスースの右乳首、ジェジーの左乳首とコンスースの左乳首をそれぞれ洗濯ばさみで挟んでつないだ。

うおお!これは恥ずかしい!イマルス!てめぇは天才か!?

二人はこの恥辱に耐えるために歯を食いしばった。

イェトさんはその変態的な光景にすっかりのぼせてしまい、顔を真っ赤にしたまま目を回し始めた。

俺はふらつく彼女を紳士的に抱きとめ、別な意味で紳士的な視線で彼女の表情を記録し続けた。このイェトさんの表情はご飯が進みそうだぜ。

イマルスは耳に掌をあてがい、二人に向かって耳を向ける。

「ほうほう。まだ、この程度では根は上げないと。うむ!よーーーっくわかった。」

イマルスのこの行動に、吊るされた二人は大いに焦った。

「ま!まてゐっっ!!」

「ギブアップすらさせてくれないのか!?」

イマルスは実に楽しそうに笑っている。

マァクの腹心を務める重圧に、よほどのストレスをため込んでいたのだろうか?

彼女の魂は、今、裸だ。心は完全に開放されている。

彼女の本能が命じるままに、行動をしている。

きっと春真っ盛りの草原を素足でスキップしているような、爽快な気持なのだろう。

やっていることは鬼畜だが。

「おいおい。あまり暴れるものではないぞ。お互いの敏感な部分をつないでいるのだ。そこを刺激しあって、もし天にも昇る気持ちになってしまったら、お前たち、もう後戻りはできないぞ。それともいっそ、神秘の世界に目覚めてみるか?」

脅し方が狂っている。

イマルスがとうとう、男子の本丸股間の前に坐した。

ぬっーと、ねっとりした動きで、剪定鋏を構える。

「や!止めるんだ!そ、そこだけわっ!!」

「そこは危険地帯だっ!自ら地雷を踏む行為だぞっ!!」

本性を解き放った彼女に、何のためらいがあろうか?

ちょき!ちょき!ちょき!

剪定鋏は軽やかに動き、局部はまぁるく切り抜かれた。

イマルスが股間の前からどく。

「くっ!!!!」

ジェジーの顔が恥辱にゆがんだ。

イェトさんはとうとう両手で顔を覆った。

いよしっ!!!!俺はその瞬間を、イェトさんの表情を撮影することに成功した。

俺は視力だけはいいんだよ。

素晴らしい画像を、高画質でお気に入りフォルダに保存。家宝。至福。そして撮影した動画を見て気が付いた。

イェトさんが僅かに指に隙間を開けて、そこから二人を覗いているという事実に。

彼女の視線の先には余裕でアウトなぽろりん映像が…

無い。

せ、セーフ。切り取られたのはズボンのみ。下着はまだ手を付けられてはいない。

「たわけが。ここは最後のお楽しみに決まっておろうが。じらして弄んで。最後に処刑的に公開いたすのだ。」

「うーぬ。なんと君はサディズムに血を黒く染めた悪魔の娘であったか!」

「哀れ我々は悪魔の生贄にされてしまうのだ!」

イマルス。お前すげーな。いや、変態としてだけど。やはりこの仮想世界に、まっとうな女子なんて一人もいやしないんだな。

だが、よくやった。

イェトさんが顔を真っ赤にして手で覆う瞬間を超美麗動画で採取できたよ!

しかも、指の間から覗き見という、特典付きでね。

今まさに脳内でリピート再生しているんだけど、いいねこれ。

さて、目的も果たせたことだし、そろそろイマルスを止めるか。

コの字とジェジー先生が、涙なくしては笑えない状態になっている。

「イマルス。許せよ。」

俺は袖搦を棍棒の形に変えて、イマルスの頭頂部に打ち下ろした。

「ごぶふうっっ!!」

びたんと床に脳天から激突し、彼女は気を失ってしまった。

だが、彼女の表情は幸せそのもの。

きっと、彼女は夢の中でまだ二人をいたぶっているのだろう。

下着を剥ぎ取った、さらにその先の危険な領域に足を踏み入れているのかもしれない…夢の中で。

なんてことだ。

優等生だと信じていたイマルスに、この様な鬼畜でお下劣な一面があったなんて。

ま、まぁ、いいや。もう。

イマルス!いい夢を!お前の夢の中にとどまるなら、25禁だろうが40禁だろうが好きにしてくれ!

ジェジーとコンスースはイマルスの蛮行が止まったことを、目に涙を浮かべて喜んでいる。

「ありがとう!ありがとう、ニカイー!助かったよ!」

「流石ぼくの親友!君ならば彼女の悪行を許しはしないと思ったよ!」

もろ手を挙げて喜ぶ二人に、俺はすちゃりと袖搦の切っ先を突き付けた。

二人は俺に対する感謝の言葉を、冷や汗とともにごくりと飲み込んでしまった。

俺は死刑囚を前にした執行官の様に冷徹に振舞った。

「で、首を縦に振る気にはなったのか?」

俺は南極の大地のように凍てついた目で問うた。

とたんに二人の口ぶりがしどろもどろになる。

「それは…うん…いや、肯定ではなくてね。話が別というか。」

「ニカイー。ぼくに”友情”の2文字を信じさせてくれ。」

「”友情”の2文字か…」

俺は店の壁にある古いシミを見やった。

あのシミはもう、洗ったって落ちない。

友情もあのシミの様に頑固であって欲しいものだ。

コの字はいいやつだ。

共に地獄に落ちようとも、親友でいたいものだ。

「そうだ。ぼくたちは無二の親友の筈だ。そうだろう?」コの字の声はすがるようだ。

「ああ、俺とコンスースは親友だ。」

「そ、そうだろう?」

コンスースの顔に希望の光がさす。

その表情を見るといっそう言い難いが、俺は言わねばならぬのだ。

許せコの字と、俺は心を鬼にした。

「親友ならば”うん”と言え。」

コンスースの顔が一転、絶望の暗闇に曇る。

イェトさんが俺のわきを肘で突っつく。

「なんだ?」

いま、いいところなんだよ。男の友情物語なんだよ。邪魔すんなよ。

「ちょっと。」

「だから、何?」

「あの二人のお尻のやつ、とってよ。」

どうやらイェトさんはお尻に生け花をされた男子を見ているのが、恥ずかしくてしょうがないらしい。

ぐひひ。顔を真っ赤にして恥じらいやがって。いつもの威勢はどこへ行ってしまったのだぁ?

ふえっ、ふえっ、ふえっ。

俺は意図あって、イェトさんのお願いを、聞こえなかったふりをする感じに無視した。

「イェト。ジェジーもコンスースもなかなか手ごわい。敵ながらあっぱれじゃあないか。」

「ちょっと。早くアレ、とってよ。」

「ん?”アレ”とは、何のことだ?」

これから更に、イェトさんが恥ずかしがる姿が見れるのかと思うと、俺はワクワクする。

「だからあの二人のお尻の…わかるでしょう、ばか。」

「わからぬなぁ。イェト。もし、俺にやってほしいことがあるなら、はっきりと口に出して言うんだ。」

それまでのイェトさんは、恥ずかしさで顔を赤らめていた。

プライドが高く気が強い彼女に対し、俺は言葉の選択を誤った。

その一言を境に、彼女の顔が赤い理由が変わってしまったのだ。

それまでは無論、コの字達の痴態を見るのが恥ずかしくて、顔を赤くしていたのだ。

今のイェトさんは、俺に対する怒りで顔を真っ赤にしている。

「早くしないと、あんたの尻にキュウリを突っ込んだり引き抜いたりして遊ぶわよ。」

「それだけ言えるならお前がアレ引っこ抜いて来いよ!なんでお前は、俺に対してだけそういうこと平気なんだよ!!すぐにちゅーするしっ!!」

「早く!!」

今や彼女の目は血走り、こめかみの血管は切れかかっている。

これは、俺の身に暴力的な観点で言う危険が隣接していることを、直接的に表現している。

「わかった。わかった。」

すると、それまでずっと大人しくしていたプライマリが俺の袖をぴんぴんと引っ張る。

「なんだ?用事なら後にしてくれ。俺は今、自らの肛門の危機を回避する作戦の途中なのだ。キュウリだぞ?痔程度の洒落では済まされぬのだぞ?」

彼女は俺を標準出力にして、脳に直接話しかける。

『イマルスは実にいい仕事をする女だ。』

「はぁ?」

『実に関心なことだ。』

「な、なにを言っているのだ。」

『イマルスに負けてなるものか。そう思うだろう?』

「思わないよ。だいたいお前が言おうとしていることは察した。話はこれで終わりだ。」

『さぁ、資材庫に行くぞ!』

そう言って、俺の手を引っ張るプライマリ。

この淫乱ちびは、俺に変態鬼畜行為をして欲しくてしょうがないんだねぇ。

やだなー。どうしてこの仮想世界にはまともな女の子が居ないのかなぁー。人間不信に陥っちゃうよねー。

これ以上、話を面倒にされてはかなわない。俺は例によって、俺から見て低い位置にあるプライマリのつむじめがけて肘を打ち下ろした。

目を回し、ばったりと床に長く伸びるプライマリ。

そこに、ナイアラが駆け寄ってきた。

「ようじょの…いたい…」

ん?漢字で書くと「遺体」であってるかな?

いや!殺してないからね!そこら辺の力加減は間違えていませんよ。

俺が何度プライマリを気絶させたと思っているのだ?

え、ええと、何回だっけ?

“プライマリ 気絶させた”で、俺の記憶を日時の重複を省いて検索すると、ヒット件数がその回数だな。

ぱっとは出てこないね。

数えたり、覚えたりするのが面倒になる回数だ。

気絶の成功率100%。無殺。

それ程俺は、プライマリを気絶させる技術に熟達しているのだ。

いわば気絶技術のプロだ。

さて、ナイアラ。

君は如何にも愛おし気に、ねっとりとプライマリを抱きしめるね。

「いつもは、にげられるから…」

そうか。そう言えば、ナイアラも幼女好きの変態さんだったな。

どいつもこいつもヤダナー。変態で。

「アンタ!何してるのよ!早くしてよ!!」

俺の目算だが、イェトさんはブチ切れる1.5秒前だ。やばし!俺の肛門がやばし!

「分かってる。ちょっと邪魔が入っただけだ。」

そういいながら、ふと周囲を見渡す。

ツイカウは延々と醜気を垂れ流している。

イマルスによって目も当てられない姿にされたジェジーとコンスースは、恨めしやと俺をにらむ。俺がやったのではないだろうが。

ナイアラは嬉々としてプライマリの服の中に手を滑り込ませている。

イマルスは幸せそうな顔で、床に長く伸びている。

そして、イェトさんはブチ切れる寸前。

なんだ、このカオスな空間は。俺の店はまるで我が家にいるような、過ごしやすい雰囲気に定評がある、そういう憩いの場所だったはずだ。

何故、どのような経緯で、この様な地獄の一丁目になってしまったのか?

その原因を知ることはできないが、案ずるなかれ。俺たちには未来がある。

そう、過去のことなんてもう気にせずでよいではないか。これからのことを考えよう。

俺は自分の心を、そう、決着させた。

「なぁ、イェト。」

「なによ。早くアレを何とかしなさいよ。」

「イマルスとナイアラが倒された今、俺とお前だけで、ジェジーとコンスースにYESと言わせねばならない。」

「そうね。でも…うーん。なんでだっけ?どういういきさつでそうなったのだっけ?」

俺は記憶のログをチェックしようとしているイェトの手首をつかんで首を振った。

「イェト。そうじゃあないよ。過去のことは、どうでもいいんだ。過去を見てはいけないんだ。」

「へ?」

「未来だ。これから行く道を見るんだ。」

「お…おう。」

「コンスースとジェジー、あの二人は手ごわい。並の者とは覚悟が違う。こうなったら、俺たちも刺し違える覚悟で臨まなければならないよ。一人一殺の覚悟さ。」

「分かったわ。で、どっちがどっちをるの?」

「俺がコンスースをる。あいつは俺の無二の親友だ。だから、あいつの命を奪っていいのは俺だけなんだ。」

イェトは俺の身を切るがごとき覚悟に涙すら浮かべている。

「辛い…選択になるわよ。」

「ああ、分かっている。」

俺はコンスースの前へと歩み出た。

それは未来へ続く一歩であり、二歩なのだ。そうでなければ悲しすぎる。

「ニ、ニカイー。何をするつもりだ?」

俺は、これから敬愛する友に執行する社会的虐殺を俺自身が許せず、コの字に顔を向けられない。

「なぁに、ちょっとした昔話をするだけさ。お前とな。」

「昔話…だと?」

「ああ、偶然知ってしまった、ある少年の話だ。」

コンスースの尻に生けられたバラがぴくんと上を向いた。

彼にはおもっくそ心当たりがあった。

「ちょっと待て。」

「俺に悪意はなかったんだ。ちょっと、それが物珍しくてな。好奇心ってやつだ。」

「あれを見たというのか!?」

「ネットワークの速度が劇的に向上して以来、ローカルストレージや、ましてや取り外し可能な記憶媒体を使う奴なんていない。皆、高速で安全なクラウドを使う。」

「あれを見てしまったんだな!?」

「非接触記憶媒体の中でもマイナーな部類に属するピンキーエア。俺が生まれる前に黄昏を迎えた骨とう品さ。俺も実物を見たのは初めてだ。健全な男子なればレア物ガジェットに興味をそそられてしまうは必定。だから、つい間がさして、そこに保存されているデータを見てしまったことは、許して欲しい。」

「許さないよ!なんてことだ!アレを見られてしまっただなんて…」

「お前に懺悔する。データは俺のクラウドにまるっとコピーさせていただいた。本当にすまない。アーメン。」

「誤るくらいならやるな!そして今すぐ削除してくれたまえ!クラウドからも!君の記憶からも!」

「では、そのデータに記録されていた、少年の話をしよう。」

「コラーっっ!!!!」

「親友よ、どうした?」

コの字がじたばたと激しく手足を動かしている。

どうにか荒縄の緊縛から抜け出そうと試みているようだが、どうやったって手足に縄が食い込んで痛いだけだぞ。

すぐには抜け出せそうに無いと悟ったコの字がやむなく言葉でくぎを刺す。

「その話は禁断だぞ!」

「お前がギブアップしてくれれば、話す必要はなくなるわけだが…」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…」

コの字の歯ぎしりが聞こえる。

「その少年は14才。中学二年生だった。」

「…ちょっと待て!ぼくはまだ、ギブアップするともしないとも決定していないぞ!」

「その少年は実にモテた。彼の休日のスケジュールは三か月先まで、デートの予約で埋まっていた。何故、彼はそれほどモテたのか?」

「ニカイー!そこまでだ!!」

「ギブアップするかね?」

「だから、ギブアップするかどうか考える時間をくれ!」

「その少年は…」

「ニカイーーッッ!!!!」俺の名を叫ぶコの字の叫びは、完全に悲鳴であった。

「その少年は、詩人だった。」

「ごふうっっ!!」

コンスースが吐血した。既に精神的ダメージは肉体に及んでいるようだ。

「彼が朗読するポエムに、夢見がちな少女たちは、メロメロになってしまったのだ。」

「うおおおっ!殺せ!いっそ殺してくれ!!」

「いや、俺たち不老不死だから。」

「恨めしいぞ、ニカイー!」

「コの字。その少年の朗読を俺も聞かせてもらったよ。」

俺は、両手を後ろに組んで彼に背を向けた。

「ぐっ!」

そして、彼が俺の顔の側面が確認できる程度に首を傾けて、こう語った。

「俺が特に気に入ったのは、そう”しあわせシステム”という一篇だ。」

「ごぼほおおおっっ!!!!」

コンスースはダムが決壊したように吐血し、干物のごとく干乾びてしまった。

「コの字、もう無理をするな。首を縦に振って、楽になれ。」

唇から下を吐き出した血で赤黒く汚しつつも、コンスースの目はギラギラと抵抗している。

「そうか。お前はそういうやつだったな。」

俺は、親友にとどめを刺さなければいけない、自分の運命を呪った。

友よ、お前は今日、社会的に死ぬのだ。

俺の手によって。

なまじ不老不死の身なれば、心の傷は永遠に治らぬ不治の病。

その傷を、今、刻もう…

俺は…コンスースの”しあわせシステム”の朗読を始めた。

「朝起きたら、今日もいい天気。何かいいことありそう。しあわせ。しあわせ。」

「ぐふっ!ぷっくくく…」

イェトさんが思わず吹き出してしまった。

俺は、俺には笑うなんてことはできない。

今、正に親友を抹殺しつつある、その罪悪感に俺のおもてには陰が落ちる。

「ぼくのお鼻に蝶々がとまったの。くすぐったかったけど、くしゃみは我慢したの。しあわせ。」

イェトさんは腹を抱えて、すっかり馬鹿笑いをしている。

ナイアラもプライマリを抱きしめたまま、声を殺して笑っている。

ジェジーは顔を引き攣らせて、笑うのをこらえている。

コンスースはなにやら石膏像のデッサン画みたいな表情になってしまった。

俺は心だけは陰腹を切って朗読を続ける。

「しあわせなぼくたち、雲の上。鳥さんたちと一緒。風といっしょに飛んでいく。」

イェトさんは「やばい」を連呼して、胃が引き攣る寸前だ。

「君の…」

「うああああああああああっっっ!!!!」

コンスースの雄たけびが、窓ガラスをビリビリとびびらせた。

俺は朗読を中断して、親友の言葉を待つ。

「降参だ…」心優しきわが親友は、ぐったりとうなだれた。

俺の緊張の糸もそこで切れた。

もう、鬼の面は捨ててもいいのだ。

涙を見せてもかまわないのだ。

俺も苦しかった。

「ここまで、よく耐えたなコンスース。」

「その先の文章は、本当にやばいんだ。」

「ああ、知っているよ。知っているからこそ、この一篇を選んだんだよ。つか、ここから先がむしろ本番だよな。」

「”しあわせシステム”の秘密はぼくが墓場まで持っていくんだ。」

「それに関しては俺も同じだ。新しい惑星にたどり着いて、天寿を全うするまで、”しあわせシステム”の秘密は守り抜くってね。だがコの字よ。親友よ。最終的に降参をするなら、始めっから首を縦に振っておけ。そうすれば、お前はこんなに苦しまずに済んだんだ。」

コの字の目からぶわっと涙が噴き出す。耐え忍んできた気持ちが、目からこぼれたのだ。

「お前たちがここまでするとは思わなかったんだ。そして何よりも、お前がピンキーエアなんて骨董品に興味を示すなんて想像すらできなかった。それがぼくの誤算さ。」

俺は、コンスースを天上から降ろし、尻のバラを引き抜いてやった。

「コの字。痔の軟膏を塗ってやろうか?」

「いや、その心配はない。イマルスの尻生け花には、手慣れたプロの匂いがする。」

「そうか。プロ、またはそれに類する者の仕業なら間違いはなかろう。安心したよ。」

俺たちの友情はすっかり回復していた。

いや、むしろ以前よりも固い絆で結ばれていた。”しあわせシステム”の秘密とともに。

俺は額の汗をぬぐいながらイェトの方へと戻ってゆく。

「ふう。やはりコンスースは手ごわかったぜ。紙一重の勝負だった。」

イェトさんは、まだゲラゲラと腹を抱えている。

「おい、イェト。シャキッとしないか。」

「いひひひ!だあってぇゥェヒヒヒ。ちょっとアンタ。しあわせシステムのデータを全部よこしなさいよ。フルで聞くから。」

イェトさんが強い興味を示した。

それにぎょっとするコンスースはだが、彼女よりも力強い意志をもって首を横に降る俺の背中を見て安堵した。

「しあわせシステムは、俺とコンスースの絆そのものだ。それよりイェト。次はお前の番だぞ。」

「え?ああ、ジェジーね。一人一殺って話だっけ?」

「俺は涙を枯らして親友をこの手にかけた。これは一人の心が耐えうる痛みではない。悪いが俺の半身であるお前にも、この痛みを背負ってもらうぞ。」

「あー、はいはい。ればいいんでしょう、れば。」

イェトさんはすてすてとジェジーの方へ歩いていく。

俺はナイアラがプライマリのパンティーの後部内側に手を入れて「すべすべ」などと言い出したのを見て、そろそろプライマリを起こしてやろうかと思案していた。

すると、床に伸びていたイマルスが立ち上がるのが見えた。

「イェト!そこをどけ!私にはまだ、そ奴にすべきことが103あるのだ!」

俺が殴りつけてから相応の時間がたった。マァクお抱えの変態が一人イマルスが目を覚ましたようだ。

彼女は意識を取り戻したばかりで、いまだ朦朧としていようが、その変態性癖に一切のブレがなく恐れ入る。

ジェジーは彼女の怪しい目の輝きを見て、震え上がっている。

面倒だな、えい。

俺は棍棒に変形させた袖搦で、再びイマルスの頭頂部を殴打した。

「お前は永遠に寝ているがいい。」

蟹股で床にぶっ倒れている彼女に、俺はそう吐き捨てた。

俺の脳に直接語り掛ける声あり。プライマリが目を覚ましたに違いない。

曰く『助けろ!』と。

ナイアラの指使いが卑猥すぎて、心は抗っても体がそれを許してしまうらしい。

あっちもこっちもめんどくさいな。

袖搦を棍棒のままにしておいて良かったぜ。

俺は幼女に狂って、道徳的にいかぬ行為にふけっているナイアラを、撲殺する心づもりで気絶させた。

続けてプライマリもポカリとやって昏倒させた。こやつが一番の人類の理解を超えた変態だ。

俺に対して何かしてくるに決まっているので、やらかす前に行動不能にするで正解だ。

「さぁ、イェト。危険物は全て始末しておいたぞ。露払いとしては十二分。残るはジェジーの首だけだ!」

俺は有言実行の人として、イェトに気合を入れた。

「おうさ!任された!」

彼女の拳が雄々しく天を突く。なんと勇ましく、頼りがいのある姿か。

「で、」

と、急にイェトさんの声色がへなちょこになる。「で」じゃねーよ。なにが「で」なんだよ。

「なんだ?」

「ジェジーの弱点って何?」

申し訳なさそうに聞いてきた。

「しるか!」

「何かないの?コンスースのしあわせシステム的な核兵器は?」

「見当もつかないね。」

「だから、ぼくの決め台詞をとるな~っ!」ジェジーが抗議してきた。

「知っていたら、ジェジーも俺が倒している。」

「えー。まじかー。ジェジーの弱点って何かしらぁー。」

イェトさんはいつもの物怖じもせねば遠慮もない調子で、目を細めてじっとジェジーを見た。

ジェジーは思わず目を背ける。

「はっはーん。あるのね。アンタにも、弱点が。だから目を背けた。」

「さぁ、け、けけ、見当もつかないね。」

ジェジーの額を脂汗が伝う。

「物…」イェトさんが探りを入れる。

ジェジーはそっぽを向いたまま。

「人?」更に探る。

尻に生けられたバラがぴくんと上に跳ねた。

「人なのね!人なんだ!誰?誰かしら?うーん。」

ジェジーの顔面を脂汗が滝のように流れる。

「わーっ。絶対人なんだわ。ちょっと待って、絶対当てるから。えーとねー。」

イェトさんは人差し指を顎に添えて「むー」っと唸って考えている。

ちょっと俺的にその仕草がつぼったので、イェトさんをガン見。高画質で録画させていただくことにした。

イェトさんの目が、探るようにジェジーの目を追う。ジェジーの目は逃げ回る。

「ひょっとして…マァク?」

ジェジーの尻に生けられているバラが勢いよく天を指示した。

「おおおっ!当たった!マァクだ!マァクなのね!!」

「さ、さぁ。き、君が何を言っているのか、見当もつかないね。」

その弁明は聞くからに苦しいぞ、ジェジー。

イェトさんが出した答えに花丸をくれて返すようなものだぞ。

「マァクかぁ…にー…どうすればいいのかしら。」

考えながら、天井からつるされたジェジーの廻りを一周する。

「あ、そうだ。今見たこの記憶から3D動画を起こして、マァクに送ればいいのではないかしら。」

「何たる悪魔の発想!!!!」

ジェジーが血走らせた目を剥き、唾液を飛ばして抗議した。

「「おおーっ!」」

俺とイェトさんがはもった。これは実に効き目がありそうだ。

「イェト、よくやった。ここからは俺の出番のようだな。」

「ん?どゆこと?」

イェトさんが首をかしげる。

何故ならば約束は一人一殺。ジェジーの斬首は彼女が執行するつもりだったからだ。

「つまり、マァクに送る動画には劇的な演出が必要ということだ。」

「ん?ん?だから?」

「察しの悪い奴だ。お前にジェジーのこれでもかと云う痴態を抑えることができるのか?」

”ジェジーの痴態”。それを想像したイェトさんは瞬間湯沸かし器のようにボンと真っ赤になって、頭から湯気を立ち上らせ、しどろもどろになった。

この表情も、当然お気に入りフォルダに保存だ。いやいや、今日は大量だな。イェトさん日和ってか?ぐわっはっは!

もう一押ししてみるか。

「出来るのか!?」

照れてる、照れてる。良いねその顔。美味しく頂きました。

俺は上機嫌でジェジーに迫る。

「さぁて、お前のどこをどのようなアングルで激写してやろうか。」

「まて!まて!その前に、ぼくにギブアップするか聞くのではないのかい?その手続きは飛ばしてよろしいものか!?」

「ん~。そうだな。動画の第一弾をマァクに送った後、第二弾を送る前に聞いてやる。」

「悪魔だってそこまで悪知恵はまわらぬぞ!!」

「くっ、くっ、くっ。」

ぎぃ…

店の入口の戸が開いた。

入ってきたのはマァク。

マァクとジェジーの目が合う。

「あら、あら。」

あっけにとられるマァク。

彼は彼女には絶対に見られたくない姿を、見られてしまった。

ジェジーは恥辱のあまり、石膏像のデッサン画みたいな顔になっている。

俺は余りにもジェジーが哀れだったので、彼の体を左右によじって、彼がどういう状態にあるのかマァクに説明に変えてよぉーーく見せた後、天井から降ろして、尻からバラを引っこ抜いてやった。

「や、やぁマァク。何か用事かい?」などと誤魔化しながらね。

「イマルスと連絡が取れなくて、心配して来てみたのだけれど…寝てるわね。」

「あ?ああ。大仕事をやってのけた後だからね、疲れているのだろう。お、そうだ。このバラあげようか?」

俺は、ジェジーの尻に生けてあったバラを差し出した。

ジェジーがそれを横取りして、むしゃむしゃと食べてしまう。

そして醜気を全身から立ち上らせた。

気がつけばコンスースも醜気を身にまとっている。

若気の至り“しあわせシステム”に、色々と思うところがあるのだろう。

コンスース、ジェジー、ツイカウ。

男衆は俺を除いて全滅か?

イェトさんがテーブルにぴょんと飛び乗り、腰に手をあてた。

「これにて!一件落着!!」

え?いいの?いいんだっけ?そう云う話だっけ?

まぁ…イェトさんが言うなら…じゃあオッケー!!

よきかな。よきかな。

本筋とは関係ないイェト回です。

イェト回の元は目くらましでした。

物語のヒントを随所に配置する構成にしたので、ネタバレを恐れて読者の視線を逸らすエピソードを挟んだのが始まりです。

前シリーズ「切離し実験編」から一話丸ごと目くらましの悪ふざけエピソードにしました。

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