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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
プロローグ ゼラス
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冒険者ギルド

冒険者は人ではいられない

霊脳記憶システムインプラント手術は以下の行程を踏んだ。

1、麻酔をかけ、念のため昏睡魔法をかける。

2、額の頭皮を一部切り取り、頭蓋骨前部に直径1cm程度の穴を開ける。

3、開けた穴から粒子状の感応魔鋼(まこう)を入れゆっくりと頭蓋骨内部に沿うように浸透させていく。

4、頭蓋骨に蓋をするように霊脳核を埋め込む。

5、最後に金剛魔鋼で霊脳核と頭蓋骨をカバーして傷口を癒す。


そしてこの霊脳核は移植者の魔力に馴染むことにより、頭蓋骨内の感応魔鋼を細胞レベルにまで分化させて深く脳に入り込ませ、独自のネットワークを形成し脳を補助するシステムを自動で確立させる。この生来の脳と重なるように形成されるネットワークを霊脳と呼ぶ。


更に霊脳は霊脳核から「叡智統合球体ウィズダム・インテグレーション・オーブ」、通称「オーブ」と呼ばれる球体を「摂取インジェスト」することによって外部から情報を取得し、その情報を瞬時に自己が参照可能な情報、補助記憶に加えることが出来る。


この機能により、『共通語』のオーブを摂取すれば共通語を習わなくても瞬時に発音、意味、文法を参照し、共通語を喋り、そして読むことができるようになるのだ。


もっとも、慣れやニュアンスといった曖昧な情報はあまり参照できないため、すぐに情報を使いこなせるわけではない。


アスクラピアには霊脳手術をした者のためにオーブの出店も行っていた。


「おお、水晶玉が並んでる……」


オーブの種類は多種多様であり、さきほど購入した『共通語』を始め、『剣術』『槍術』『格闘術』『弓術』『魔法』のような戦闘系のものから、『狩猟』『薬草』『季節の花』『裁縫』『運転マニュアル』『計算術』『物理学』『ゼラス古今民謡』『ヴェルギア大陸観光地図』といった日々の生活に役立てたり趣味に使えそうなものまで揃っている。


……知識欲がひどく疼いた。


「剣術くらいあってもいいよなぁ……」


チラッとアーシェの方を見る。


「ダメだよーもうお金ないし」


私の財布はアーシェに握られていた。

野犬一体の魔石はおよそ3000エリス(ヴェルギア大陸の通貨)が相場らしい。

それを10体で私は3万エリスをゴードンに渡されていた。

ところが、霊脳化手術は20万エリス、『共通語』は7000エリス。


都合、私は17万7000エリスの借金をアーシェに背負っていた。


(無様よのう……)


必要な出費ではあった。


「さっさと冒険者ギルド行くよー」


「はい……」


もう少し見ていたかったが、主導権を握られた私にはそのような自由はなかった。


また大通りに出て冒険者ギルドに向かう。さっきはキラキラしていたような気がする街並みは、今や普通に現実的な牙をこちらに向けてくるようだった。


「安いよーリンゴ一個100エリス!大特価だよー!」


「百体切っても大丈夫!ダスク製ロングソード2万4000エリスです!」


どれもこれも買えなかった。


「着いたよ」


アーシェが立ち止まったのは木造建築の建物の前だった。


ここはまさに人種の坩堝るつぼだった。

地球で見た人種など、ものの数ではない。

誰もが武装をしていて、腰に剣を掛け、手に槍を持ち、腕を四本生やし、鋭い牙、青い肌、固い鱗、岩石のような肉体、白い翼、ありとあらゆる戦闘生命(冒険者)がそこにはいた。


そのバラエティは大通りの比ではなく、むしろまともな人体をしている方が少ないように思える。


これが、冒険者か。


「じゃあ、冒険者登録しよっかー」


「承知した……」


私もこの中に入っていくのかと思うと少し恐怖がある。


「もーしゃっきりしなよー!こーんな美少女に借金できるなんて役得だよー」


借金に役得もなにもないだろうとは思う。

というか、借金するなんて一言も言ってなかったじゃないか。お金は大丈夫、って借金踏まえたら何でも大丈夫だろうさ。

けれど、とてもありがたかった。彼女は自分が言い出したことだからとお金を貸してくれたのだ。


猫耳の美少女にこんなに親身になってもらえるとは幸いである。


(ふん、畜生耳のメス猫なんぞにうつつを抜かすな)


そういうわけではない。言葉のあやだ。


冒険者ギルドの中は意外なことに整理整頓が行き届いており清潔だった。


フィクションでは暴力しか生き方を知らぬ荒くれものたちが酒場で殴りあっているような場だった気がしたが、そんなことはなく内装の雰囲気としては役所に近い。


とは言っても、化け物じみた訪問者たちによって役所的な雰囲気はあまり感じられない。


「失礼、冒険者のトウロク、したいです」


「はい、新規入会の方ですね。どうぞあちらの受付にお並び下さい」


職員らしきお姉さんが示した方には「新規登録/登録更新」の看板がぶら下がっている。


お姉さんに感謝の意を伝えて離れ、「新規登録/登録更新」の受付に並ぶ。


受付にはすでに見たことないような巨大な男が並んでいた。


私より頭二つほど高く、ひとまわりほど太い。右肩から先は金属でできおり、馬鹿げた大剣を背負っている。人間、だろうか?巨人という線もありえるな。


「更新を頼む」


「あ、ジョシュアさん帰ってらしたんですね」


さっきな、と大男。


「おめでとうございます、プライマリに認定されたんですね!」


「ああ、ギルドの首輪がきつくなってきやがった」


大男が皮肉げに返した。


「ふふ、じゃあ私も飼い主ですね。ライセンスの更新終わりましたよ、どうぞ!」


「どうも」


「ご存知だと思いますが、これよりライセンスを提示すればギルド内の施設を無料でお使いいただけます。ただし、このライセンスは三年間活動が認められない場合はセカンダリに降格されますのでご注意下さい。ではジョシュアさん、よりいっそうのご活躍を祈っております!」


「まあ、依頼がありゃ働くさ」


軽く手を挙げて去る大男がすれ違う時、顔を確認してみるとその口から上は仮面で隠されていた。前は見えているのだろうか。


姿勢、重心、歩き方から見るにかなりの手練れに見えた。


「次の方、どうぞ」


大男の背中で見えなかった新規登録の受付嬢はとてつもない美人だった。少し耳がとがっており、どこか人間離れした美貌だった。


「はい」


すごい美人だった。妻に観せられたファンタジー映画で見たエルフというやつかもしれない。……どうにも気後れしてしまうな。


「新規登録の方ですか?では、こちらにお名前と年齢、住所、出身、職業、経歴をご記入ください。もし、書けない事情があればお名前以外は空白で構いません」


「書けましたらおっしゃってください」と言われて登録用紙を渡される。


住所はまだないな。

……出身か。共通語辞典によると極東ってのが一番見た目が近そうだな。

……職業。「検事」なんて仕事は共通語のデータベースには存在していない。どちらにしろ日本じゃ殺人犯扱いだろうし、当然解雇されているだろう。そうか、私は無職なのか。

無職で少女に借金している男、それが私だった。多少感慨深いものがあった。

経歴についても、××大学卒とか意味がないだろうな。


書けました、と言って登録用紙を渡す。ほとんど白紙だった。


「ケントさん、31歳ですね。住所はなし。出身は極東、職業は無職、経歴、なし……」


進むごとにどんどん受付さんの顔が暗くなっていく。沈黙が重い。


スッと受付嬢さんが顔を上げる。チラリと見えた名札にはリフィユとある。


「ケントさん、確かに極東から出て来て生きるのは大変でしょう。それでドミニオンまで出てきたということもよくわかります。

で・す・が、いいですか!冒険者はとても簡単な職ではありません!常に死の危険と隣り合わせ、誰も命の保障なんてしてくれません!とっても危険なんですよ!」


そうなのか。アーシェが気楽に「20万エリスくらいすぐ稼げるよ!」と言ってたから精々がネズミ駆除みたいなものかと。


「それともケントさんは何か戦闘の経験があるんですか?」


こっちの世界じゃ野犬と盗賊とくらいか。地球じゃ……後悔はないが大量殺人犯だな。


すでにどちらの世界でも人をあやめている時点で天国への道はないと心得ている。


「えーと、あ、はい、少しだけ、です」


周りにいる冒険者のような化け物は斬ってないかったので、少しだけ、だろう。おい、そこのやつ。その触手のような右手はなんだ。人間には触手なんて生えてないんだぞ。


「ふう。私、ここの受付をやり始めてからもう何人もケントさんのように、職もなくここに流れてきたような人たちを見ました。いいですか、」


リフィユさんがグッとカウンターの下から紙を掴みだして見せつけ、トントンと指で数字を指し示す。


「そのような人たちの3割は三年以内に死亡し、2割は重大な傷害を負い、残った者の更にその半分は冒険者を辞めていきました。曲がりなりにも冒険者として生きていける人は25%にも満たないんです」


司法試験の合格率は20%だったか。

25%程度ならそこに入る自信はあるが……私には加納敬志を殺すという目的がある。こんなところで死んでられない、ともいえる。

いちいち野犬に殺されかけたような羽目になるのは遠慮したいところだ。


「冒険者という職業はですね、多くの場合魔物専門の傭兵なんです。戦えば常に命懸けです。当ギルドでは冒険者以外の求人依頼も置いてあります。冒険者に夢を持たないで下さい」


そこまで言われると、な。

別に冒険者にならなくても当面のお金を稼げたら何でもいいしな。

あと、触手生えてる男は魔物じゃないのかな。


(む、お主冒険者にはならんのか?それだととても加納敬志にはかなわぬと思うがな)


……どういうことだ?


(教えておいてやろう。ゼラスでは、生き物を殺すたびに強くなれる。技術や肉体という意味ではないぞ。命を奪い、相手の可能性を奪うことにより、お主の運命が強くなるのじゃ。恐らく、マリスの従者は直接間接に人を殺しに殺し、殺しまくるじゃろう。お主はそれと同数、いや、それ以上の命を奪わねば到底太刀打ちできんじゃろう。だが、どうせ奪うなら人より魔物の方がよかろう?)


……ははは。

血塗られた道だな。


振り返ると、ギルドの出入口の向こうから憎たらしくも憎めない笑顔でこちらを見つめるシアンが見えた。


(ふふ、お主が選んだ道じゃろう)


ただの感想だよ、後悔はない。

しっかりと受付嬢さんを見つめる。


「冒険者登録をお願いします」


受付嬢さんが諦めて息を吐く。


「わかりました。では、こちらのコインを20回トスして下さい」


唐突にコインを渡された。なぜだ?


「魔力測定用のコインです」


困惑が顔にまで表れていたのだろう、受付嬢さんが説明してくれた。


「魔力測定用……?」


受付嬢さんの気遣いにも関わらず困惑は加速していた。


「……あれ、知りませんか?極東でもこれくらい……いえ、ご説明しますね。いいですか、このコインは魔力を利用して、確率が変動します。ですので、魔力が大きいほど不自然に確率が片寄ることになります」


「ほう」


魔力、か。異世界らしいな。

とりあえず、トスすればいいのかな。


コインを投げてみる。


表だ。


「どうぞ、あと19回です」


続けてコイントスをした。

表、裏、表、裏、裏、裏、表、裏、表、表、表、裏、表、表、裏、表、表、表、表。


表13回、裏7回。


どうなんでしょう?

受付嬢さんと目があった。やはり、美人。


「――――13ですね。レベル2、なくはないって感じです」


さもありなん。魔力の量が桁外れ、なんてことはないらしい。

ネキアはおまけしてくれなかったようだ。


「はい、ライセンスカードです」


「ありがとう」


「ライセンスカードをなくすとギルドのサービスを受けられなくなります。また、魔石の交換も会員レートではなくなり、半分に下がります。再発行には5000エリスかかりますのでご注意下さい。……ケントさん、もうすぐ新規会員用の施設案内と講習が始まりますので、せめて見ていって下さいね」


「はい、ありがとうござーました」


もう数分でそのサービス案内とやらが始まるようだ。

アーシェたちが歩き寄ってくる。


「どうだったー?」


「こんな感じだった」


銅色のライセンスカードを見せる。


「ケント、31歳、レベル2、ターシャリ。ありゃ、意外と普通だねー」


「そりゃ普通ですよ」


「えー、ケントならもっとよく分からないことになると思ってたー」


「うーむ、愚兄なれどまだこちらに来たばかりでは仕方あるまい。これから精進するがよい」


「善処しよう。アーシェ、これから施設案内と講習を受けてこようと思うのだが、いいか」


「うん、いいよー。私も最初は受けたしねー。じゃ、私そろそろ帰るねー、日が暮れそうだしー。借金はまた会ったときでいいから。じゃあねーまたー、シアンちゃんもまたねー」


「うむ、また会おう、アーシェよ」


アーシェはスタスタと振り向かずに帰っていった。感じのいい娘だったな。


次会うときまでにちゃんと金を作らねば。


「施設案内、講習を受ける方、こちらでーす」


さっきの受付嬢の声だ。本当にすぐだったな。


「ふむ、我は一人で遊んでおるから行くがよいぞ!」


ん、そうか、気を付けるんだぞ。


見ると、数人の新米冒険者が集まっている。防具を着けている者もいるが新品で傷がない。皆若く30超えはほとんどいないようだ。私が最年長かもしれない。

そして、意外と皆まともな人間の体をしていた。


彼らと共に一階、二階、三階とまわり、初心者講習を受ける。


施設案内と講習は受付嬢、リフィユの淀みない説明によりつつがなく終わった。


そこでリフィユに聞いたところ、ドミニオンにもアルバイトのような労働体制はあるが、技術のない者に支払われるのは僅少な額でしかなく一食で消えるらしい。なので、冒険者が稼ぐには結局魔物狩りが最も直接的で容易な手段となる。


つまり、今夜暖かい宿が欲しいならダンジョンに行くしかない。

リフィユには、初心者訓練が終わるまで決してダンジョンには行かないでください、と言われたが、明日になっても初心者訓練の費用は捻出できないだろう。


私はシアンを探して早速ダンジョンに行くことにした。

戦闘がない……!

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