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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン グランドホール
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血河を下れ

death in the range

そして、アルテオホテルに集まったのは総勢120人にも及ぶ冒険者と戦闘力皆無の富豪達だった。

魔人達の攻勢はミズガルズの応援により一時的に鎮まっており、何とかアルテオホテルの周りからは排除されていた。おそらく、あの巨大な魔人は彼らにとっても強力な兵器だったのだろう。もしも、あれが健在であればこの階層は瞬く間に制圧されていたであろうから、真っ先に叩いておいたのは正しかった。お陰で被害は最小限だ。特に僥倖だったのは、こちらにエッダがいたことだ。彼女は私たちが想定していたよりもよほど強力で、そして危険だ。


エッダを見ていると、彼女は段々と挙動不審な動きをし始め、その後ジョシュアの背後に隠れた。


ジョシュアはアルテオホテルに集まった面々にこれからのことを説明していた。


すなわち、我々が完全に孤立しており、助けは当分来ないこと、ミズガルズが11階層までの道を開くこと、我々がその後ろについて全力で駆け抜けアンダーシティを目指すこと、その後ミズガルズが遅滞戦術を用いて時間を稼ぐ予定であること等である。


説明を終え、ジョシュアが戻ってきた。


「無茶な行軍になるが、問題はねぇな?」

「ええ」

「……ケント、お前早く下に行けて良かったと思ってるだろ?」

「そうかもしれませんね」

「へっ。まあ、いい。ただ、できるだけ仲間は守れ。一人で先走ったところでベストな結果にはならねえぞ」

「……分かってますよ」


加納敬志は個人としても脅威でありながら集団の頭でもある。私の復讐に人を巻き込むのは許されざるところではあるが私単体ではあまりにも勝てる要素が少ない。ジョシュアは正しい、ベストはこちらも集団として奴を狩ることだ。




「ジョシュアさん、冒険者達のまとめ役、感謝します」


ミズガルズ二代目総長、セシルがジョシュアの前に立って言った。

威風堂々としたその姿は参謀に収まっていたときとはどこか違い、芯のようなものを感じさせる。


「まあ、いいってことよ。俺たちも生き残らなきゃなんねぇし、お前の親父には個人的な借りがあったからな」

「そう言ってもらえると助かります」


軽く挨拶をしてセシルはミズガルズの陣頭指揮に戻っていった。


敵は一騎当千の魔人の軍、規模は不明、侵攻ルートに至っては奴らは自由に道を作れる為に無限である。


いかにミズガルズが精強な戦闘集団であるとしてもダンジョン内で魔人が相手では分が悪すぎる。


だが、きっと戻ってくる、そんな気がしてジョシュアはセシルに軽く手を振り「下でまた会おうぜ」と言って別れた。




ジョシュアを先頭に120人の行軍が始まった。


最初の道のりは単独で魔人を抹殺できるアダムとセシルを中心に切り開かれたミズガルズの血の轍である。彼らが紅蓮の刃で魔人を切り裂いて溢れた火の粉を浴びながら120人が一心不乱に下層へ向かう。


無論、その動きは魔人も察知していた。


糸のようなものがふわりと風に乗って冒険者たちの間を通り過ぎだ。それに触れた冒険者が胴体を両断されて内臓を撒き散らし、糸を握っていた魔人に目を血走らせたガーディアンが殺到。飛び掛かった一人が糸に切られた瞬間、地を這うように近付いた別の一人が魔人に体ごとぶつかって剣を魔人の体内に差し込む。同時にそのガーディアンの首にゆらりと糸が巻き付いてごろりと首を落とし、別の一人が更に近付いて仇討ちに魔人の首を両断した。


地面から突然突き出した幾本もの深紅の槍に絡め取られて血の雨を降らしながら頭上に掲げられた富豪が呻く。今度は槍が無数の錨に変わって数人の人間を巻き込みながら地面に戻り人体を擂り潰した。逃がすつもりは欠片もないと言いたげな攻撃だ。道の奥を見ると地面に手を置いた小さな魔人がいて、まさに今セシルが飛び掛かった。地面から生え出る無数の槍を、自らの太刀悲歌慷慨(エリニュス)で細切れにして近付き、苦し紛れに地面からそそり立てられた鎚のような柱を力任せに弾いて魔人を叩き斬った。


突如、三つの火の玉が落ちてきて、数人の冒険者が為す術もなく火に焼かれた。すぐさま駆け付けたアダムがその場から太刀の魔力で火を巻き取る。火の玉の中心に残っていたのは三体の魔人だった。魔人はアダムを囲むと手をかざした。すると、勢いよくアダムの太刀から火が噴き出て魔人の手に吸い込まれていった。膝が崩れそうな脱力をアダムは感じたが、脱力しきる前にその火に随行してアダムが跳ねた。とっさにアダムの憤怒レイジを受け止めようとした魔人のブラッドアーツは一切の壁にならずに魔人と共に切り裂かれた。背中を見せたアダムに襲い掛かる残りの二体の魔人。アダムはその前から一瞬で消えた。高く垂直に飛んで避け、落ちながら二本の太刀をそれぞれ魔人の延髄深くに突き立てた。


数多くの犠牲を一顧だにせず走り抜けた落人たちはようやくユグソールリゾートを走り抜け、11層に向かう洞窟にたどり着いた。


セシルは、「ここからは任せます、ジョシュアさん」と言って振り返った。


「任せろ」


10層の出口からの道のりは草木に覆われた細い通路を当分の間走ることになるので魔人の追撃があるとしても背後からになるはずである。もっとも、メインルート以外の脇道から襲われる可能性は十分にある。そして、メインルートの先で待ち伏せされている可能性も。


そう、メインルートの先で待ち構えていたその魔人はかつてジョシュアとケントに恐ろしい目に遭わされたことをよく覚えていた。それは彼にとって初めての上位者との戦闘であり、結局は逃げ出したがより強くならなければならないことを確認した意義のある戦闘だった。


壁面から急速に増大する魔力を感知したジョシュアが鋭く叫んだ。


「ちっ、てめぇら!伏せろ!!」


直後、壁面が石礫を散らしながら爆発した。弾丸のような破片が飛び回りいちいち数えてはいられない人数の犠牲者が出てまた一つ阿鼻叫喚が生まれた。


「この場所で爆弾の魔法か……見覚えがあるな」

「覚エテモラッテイタトハ、光栄ダナ。ジョシュア・コールマン。私モ貴様ノ名ヲ忘レルコトハナカッタゾ」


金髪に煌々と赤く輝く眼光。魔人がいた。


「アノ頃ニハ私ニ名ハカッタガ、今デハ名乗ルコトガデキル。我ガ名ハ、キース。爆炎ノ魔人、キース」

「……よお、ご丁寧な自己紹介じゃねぇか。うっすらなら覚えてるぜ、その面ぁ」

「……一年、貴様ヲ殺スコトバカリ考エテ生キテキタ」

「一年だと?おいおい、たった一年程度で俺に勝とうなんざ笑い話にもなんねぇぞ」

「減ラズ口ハ相変ワラズノヨウダ。デハ、刮目シロ」


キースが人差し指でジョシュアの顔面を指差した。


「あん?」


瞬間、爆発音と共にジョシュアが頭を後ろに逸らした。歯を食い縛りながら元の姿勢に戻ったジョシュアのバイザーからはうっすらと白煙が漂っていた。


「いってぇな!」

「フハハハ、貴様ハ私ニ触レルコトモデキズニ死ヌノダ!」


叫んだキースが両の人差し指をジョシュアに向けると、その指の延長線上でマシンガンで撃っているかのように土煙と泥が飛ぶ。

ひらりとジョシュアは指の先から逃げ、大段平アルムレヒトを盾にして突撃した。


「馬鹿ノ一ツ覚エトイウノダ!」

「そいつはどうかな」


巨大な爆圧に頭上から襲われ膝を着いたジョシュアは地面に手を着けて、触媒を押し付けていた。ジョシュアお得意の強力な高級触媒だ。


「おらよっと」


ジョシュアの手の少し前の地面から生えた土塊の柱が怒涛のようにキースに向かって突き進む。


「ダカラ、馬鹿ノ一ツ覚エダトイッテイル!!!」


キースはグッと爪先を地面に食い込ませ、滲み立つようなおどろおどろしい魔力を立ち昇らせて、いとも容易く土塊を、片手で受け止めた。ズンっ、とダンジョンが揺れる。そして、あまつさえ逆に土塊を地面のなかに押し込めた。


「ぬ、おお?」


行き場を失った触媒の魔力が溢れて暴発。ジョシュアの真下で土が蠕動し、遂には弾けた。その衝撃でぐるぐると転がったジョシュアが埃を払いながら立ち上がる。


「てめぇ……やるじゃねぇか」

「社長、何をしているんですか。後ろがつっかえてるんですから。ほう、アイツは」

「赤目ェ、貴様モダ!血祭リニアゲテヤル」

「返り討ちだ、貴様程度の魔人が!」

「おい、ケント待て待て。あいつ相当強くなってるぞ」

「関係ない」


獣のように地面に手を着いて走り出したケントが迫ると、キースはまたも指先を向けた。


「遅い」


瞬間両足で飛び上がり爪で天井にへばり着いて避ける。


「来テミロ、赤目」


悪夢じみた動きで天井を駆け回ってキースの指先を避け、隙を突いて飛び掛かる。


「終わりだ」

「無駄ダ」


ケントの鋭く尖った指先がキースを引き裂こうと触れた瞬間、ケントの口内が、爆発した。


「……!?」


ケントは勢いを削がれ尻餅を着いた。そこにキースの足が蹴り込まれたが、腕でガードして離れる。


「今ノデ死ナナイトハ頑丈ダナ」


ケントはガードした腕が折れていることに気付いた。すぐに再生し、ぐちゃぐちゃになった口許も再生した。


「残念だったな。私は不死身なんだ」

「ソウカ。ナラバコチラカラ行クゾ」

「……ちっ、社長!二人がかりだ!」

「おう!」


キースの背後に迫ったジョシュアがアルムレヒトを振り下ろした。振り向いたキースは裏拳で軽くアルムレヒトを逸らし、背中を見せたキースの心臓目掛けてケントが手を伸ばすと、逆にケントが蹴り飛ばされた。

その上、ケントの脇腹は酷く抉れ返っていた。


「ふざけろ」


血の混じった唾を吐いてケントが立ち上がった。


肝臓から触手を伸ばし、四肢を硬質化した神胚で覆う。終えると同時に踏み込んで、ジョシュアの顔面に拳を突き立てたキースの後頭部に拳を向けた。

当たる直前、反応したキースが振り返ると同時にケントの拳に己の拳を合わせた。


ズガン、と衝撃が響く。……筋力は同程度か。

すかさず、触手を突き込もうとするが、その先端に爆風が生じ食い止められる。


「クク」


キースが笑うと同時に三重、四重に全くの空中で爆発が起こりケントを吹き飛ばした。


「死ヌガヨイ!!!」


キースを中心に魔力の波が起こった。そして、指をパチンと弾いた。それは、火薬庫に火を点けた証だった。


小規模の爆発が鎖のように無尽蔵に連なり、瞬時に退いたケントに追い付き、コートを脱ぎ捨てたジョシュアを巻き込み、更には他の冒険者たちにも及んだ。


「フハハハハ……、ハ!?」


爆発の中からキースに向かって上裸の巨人が飛び出した。


「こぉぅらああ……!!!!!!」


想像以上の速度で近付き、そして振り抜かれた拳が初めてまともにキースの頬に入った。


背中から生えた二本ずつの吸気筒と排気筒。無悸循環システムを起動させたジョシュアだ。加速された血流と無尽蔵に溶け込んだ酸素がジョシュアの筋肉に莫大なエネルギーを与え、平素の二倍、三倍、四倍の行動を可能とした。だが、それでもまだ足りない。ほぼ対等に戦えているが、わずかに押されている。


だが、このくらいの差ならば、ケントが来れば余裕で逆転できる。と、判断したジョシュアが微かにケントの方向に意識を飛ばした。


「あいつ……!?逃げろーー!」


即座に判断したジョシュアは皆に号令を掛けた。それを聞いたカリオスらはすぐに率先して周囲にいた何人かの襟首を掴んで脇道に逃げ込み、他の者にもついてくるように言った。

そうしなければ、死ぬ、と皆も感じたようだった。

何故なら、――――ケントのやつ、またネジが緩んでやがる!!!


直後にジョシュアとキースを襲ったのは触手の奔流とも言うべきものだった。肉を削ぎ、血を啜る破壊の化身。


「うおおおおおお!!!」

「ウオオオオオオオ!!!!」


寸前にジョシュアがその触手の塊をアルムレヒトの腹でぶっ叩き、同時にキースが魔力を振り絞った特大の爆発をお見舞いした。ジョシュアはゴムまりのように跳ねながらケントが遠ざかると、アルムレヒトを翻してキースに振り下ろした。

辛くもキースは大段平の一撃を避けたが、続く蹴撃を脇腹に食らって蹴り飛ばされる。


「クッ!」


蹴り飛ばされた先にいたのはゆらゆらと触手を揺らしながら待ち受けていたケントだった。


転がってきたキースにケントは刃物に変形させた腕を振りかぶり襲い掛かった。キースはケントの腕の側面を叩いて逸らし、逆に踏み込んで超接近戦を仕掛けた。

キースの全身の関節にはこの一年で大量の噴射口が穿たれていた。筋肉を介在しない魔力による純粋なベクトルがキースの肉体を弾丸のように打ち出し、目で追えない速度で連打が放たれた。


だが、ケントは不死身だ。キースの拳で全身を砕かれようとも、ものともせずに腕の刃をキースの腹にぶちこんだ。


「グオオオッ」


くそ、またこの気持ちだ。と、キースは思った。

一年前、コイツらと出会い、死に直面した。魔人である自分が出会うはずもない、自ら以上の強者。竜の改造人間と、神の落胤。確実な敗北の予感と彼らに触れてしまったことに対する後悔。

それから一年、魔人に過ぎない自分は奴らを殺すために必死で知恵を巡らせた。だが、奴らは何だ。またこの気持ちが自分に芽生えている。


しかし、今度は違う。打ち勝つのだ。


キースは残った魔力を使い、遠くで逃げ遅れていた冒険者の頭部を吹き飛ばした。瞬間、魔力がキースの中に満ち、その魔力でもって再度ケントに爆風を浴びせて距離を取った。


魔人と戦う際には、大軍で向かうべきか。それとも、少数精鋭で向かうべきか。答えは後者である。何故ならば、魔人は人間と異なり、生命を殺せばその魔力をまるごと奪い取り自らの魔力にすることができる。すなわち、弱者は魔人にとっては栄養分に過ぎないのだ。


「フハハハ、貴様ガ不死身トイウノナラバ、我々モマタソウダ!魔力ガアル限リ、我々ハ死ナヌ。ドウダ、ココハ魔力ガ溢レテイル!!」


キースの視線の先にあるのは、爆発や、飛散した石の破片で死亡した人々の亡骸だった。彼らこそが、皮肉なことにキースの力の源になっていた。


「ソコデ貴様ラノ仲間ガヒキ肉ニナルノヲ見テイルガイイ!貴様ラハ後回シダ!」


キースは底を尽きはじめた魔力を補充すべく脱兎の如く駆け出してカリオス達が消えていった脇道に入っていった。


「な!?あの野郎、威勢よく逃げやがった!」

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