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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン グランドホール
55/56

ダンジョン封鎖

サバイバルゲーム

今やユグソールリゾートの全域で火の手が上がり怒声と悲鳴が絶え間なく町を覆い始めていた。安穏の地でありダンジョンにありながら憩いの場でもあるユグソール・リゾートは今やその情景を一変させて血と業火で彩られていた。


「騒ぎが収まるどころか激しくなってやがる」


巨大な魔人の出現は狼煙に過ぎなかった。

ジョシュアの嘆息を聞き流してケントは全眼の範囲を限界ギリギリの50mにまで伸ばした。逃げ惑う民衆の中にその元凶が見えた。


「南西方向……魔人です。数が多い」


また、と言うからには魔人が現れたのは一人や二人ではない。今しがた倒した巨魔人の他にもユグソール・リゾートに響く悲鳴にはそれぞれ魔人がいることが予想された。


「奴ら本腰入れて攻めてきたのか?くそ、展開が急すぎるぜ」


魔人は基本的に群れない。ただ一人で闇から生まれる故に言語さえ知らなければ協調性もない。文化や技術とも無縁に生きるのが大半である。

もっともその中でも人間を殺める内にその言葉を覚えコミュニケーション手段を身につける者もいる。通常の人間より遥かに知能の高い魔人だからこそ戦いの間にすら言語を覚えてしまうのだ。

その様な魔人は時に群れることができる。しかし、知られている限り群れの規模は指で数えられるほどが関の山であった。


今騒ぎになっているのはユグソールリゾート全体である。無論シンボリックな巨魔人の影響は大きかっただろうが、色々なところで上がる火の手や戦闘音の理由にはならない。魔人はここに数多くいる。とうに指では数えきれぬ程であることに間違いはないようだ。

ジョシュアとケントが次の行動を考えあぐねていると、エッダが声をあげた。


「ッ、ケントさん!!」

「ん?」

「見え、ました!あの、私たちアンダーシティに向かってます!!」

「……ん?」


と、ケントがわけがわからんと繰り返すとジョシュアが軽くケントを小突いてから言った。


「未来視か?」

「は、はい!!」

「俺たちがアンダーシティに向かってたんだな?」

「あのいえ!いえ、はいです、はい!その後ろに何人もいて、分からないくらいでした!」

「俺たちがここの群衆を先導してアンダーシティに向かうってことか。何でそうなんだ?」

「あぅぅ、そこまでは……」

「逃げるしかねぇ何かが迫ってくるのか、ここに留まる理由がなくなるのか」


ドンと、上層の方向から爆発音がした。


「ジョシュア、見えていますか?」

「ああ、ユグソールの入り口から煙が吹き出してる」


僅かにジョシュアのバイザーから光が漏れている。光を高密度で屈折させることにより彼のバイザー遠距離の映像でも高精彩で見ることができた。


「ミズガルズのご到着だ」


ジョシュアの脳内で拡大された映像の中でミズガルズの鎧に青い装備をまとった者共が隊列を組んで入り口から出てくるのが見えた。


見ているとまた地響きがして、今度はミズガルズが出てきたばかりの洞窟から大量の土煙が吹き出し、出てきたばかりのガーディアン達を煽った。地響きは一度ではなかった。吹き上げた土埃は高く舞い上がった。洞窟の中で何か爆発しているようだ。

事態は矢継ぎ早にますますと混迷を極めていく様相だった。


「俺はミズガルズの連中と連携を取ってくる。お前は?」

「……エッダの予言もありますし念のため下層への道を作っておきます」

「へ、下に行きたいだけだろ。じゃあ頼んだぜ」


ジョシュアは言い残してミズガルズの方へ走っていった。


「……エッダ。魔人の残党を処理しつつ下層に向かおう」

「っ、はい!」


むしろ魔人共には私たちこそが残党なのだろうが。




ジョシュアは隊列の先頭にいたアダムに真っ直ぐに駆け寄り声をかけた。


「よお、ずいぶん泥だらけだな」

「ジョシュアさん、どうしてここに?」


太刀に着いた血糊を火炎で消し飛ばしながら、アダムは不審げに尋ねた。


「まあなんだ。ノルマがやばくて魔石を稼ぎにって感じだ。それより、奥で何があった?」

「魔人が3人。二人は倒しましたが、最後の一人がダンジョンを爆破しました。通路は崩落し塞がっています」


アダムは事も無げに言ったが、魔人を二人始末した時点で常人を遥かに超えた実績である。


「崩落?通れないのか?ギルドの応援は?」

「24時間は来ないでしょうな。ユグソールの状況はどうですか?」


逆にアダムが尋ねた。


「見ての通り、信じらんねぇだろうが魔人の一斉攻撃よ。」

「凌げますか?」


アダムは端的にこれからどうするのか、を聞いた。ミズガルズは原因に固執しない。結果とそれに対する対処を最優先に考える。


「無理だろうな。……なるほど、そういうことか」


確かにエッダの未来視の通りになるようだな、とジョシュアは思った。

地上への道は崩落し通れない。そして、ユグソールリゾートは立て籠るには貧弱すぎる街だ。下層へ逃げるしか選択肢がない。


「どうかしましたか?」

「ああ、こっちの話だ。俺たちはアンダーシティに向かうことにする。あんたらは?」

「我々も向かいます。できればジョシュアさんには先導をお願いしたい」

「仕方ねぇな」


ジョシュアは外套に着いた埃を払いつつ答えた。




下層へ向かう最中、観光客を惨殺している魔人がいた。


瞬時に脚の関節を増やしてバネのような構造を取り入れた脚で地面を弾くように蹴り、高速で近付いて右手刀を切り上げた。寸前に目を見開いた魔人がすれすれでかわす。


「――――貴様、昨日ノ落胤カ!」


かわしきれずに袈裟切りに血を噴き出す魔人は目を憤怒の色に染めて逆に斬り返した。それを左腕を硬化させて防ぎ、そのまま滑らせて拳を魔人の傷口に突き刺す。


「動きが鈍い。昨日の仲間はどこに行った?」


昨晩は魔人が二人いて高度な連携で止めはさせなかった。しかし、どうやら今は一人らしい。ならば、容易い。


傷をものともせずに魔人が振るう血の刃をかがんでかわし、突き刺した拳を更に奥に押し込んで魔人の背骨を強引に引き抜く。魔人の肉体は人間より遥かに堅牢ではあるが、通常は金属よりも硬くはない。その点、私の神胚の硬度は容易に金属を超え、しなやかさにおいては比べるべくもない。


「グウッ」


しかし、魔人は瞬時に血液から瞬時に背骨を復元し上段からの血の刃を振り下ろした。

体の復元が早い。今度は避けきれず刃がこちらの肩口から胸の中央にまで食い込んだ。がっつり肺にまで切り込まれ喉から血反吐が溢れるが、気にしない。私の不死身っぷりはもう魔人すらも相手にしない。


胸半ばにまで食い込んだ刃を逆に神胚でくわえ込み、そのまま傷口から触手を伸ばして魔人を拘束。逃げようとする魔人を懐に引きずり込んで斧状に変えた右手を魔人の首にあてがう。後は首落として動きを封じ、それからゆっくりと魔石を探して破壊すれば魔人でも死ぬ。


「ブラッドバーン、血ヨッ!」


魔人が唱えた瞬間、その全身が発火した。ジョシュアが魔鋼の右腕を使うときの赤い光のようだ。赤い光に包まれると魔人の腕力が跳ね上がった。相手の首にあてがっていた右手の斧を押し返され逆に相手の腕から生えた血の刃がこちらの首にジリジリと迫る。腕力が逆転したのは驚きだった。が、動揺はしない。


「今だ!」と叫んだ。


「はい!」


離れたところに隠れていたエッダが三つの触媒と共に飛び出して、魔法を引き出す呪文を唱えた。


「爆裂、切り裂け悪魔獣の爪!裂爪『シニスターサイズ』!!」


短い詠唱と共にエッダが取り出した触媒は大鷲の翼を持つ犬の爪である。その爪が紡ぐ魔法は残酷な傷跡を不可視の風の刃でもって刻む。


狙いは外れることなく魔人の背中に直撃し、魔石を砕くと共に魔人の頑強な肉体をめためたに削り取った。


「ニンゲンノ化物メ……」


腕の中で絶命した魔人の背中を見ると、頑丈な魔人の肉体が巨大なミキサーにでも掘られたかのようにズタズタに引き裂かれていた。恐ろしい威力だった。


魔人の亡骸を突き飛ばすと、その魔石無き体は砂塵の如く崩れ、風にさらわれて消えた。


「エッダ、よくやった。上手く戦えるじゃないか。普段内気に見えるのとはずいぶんと違うな」

「は、はい、すいません……あのいつも、う、上手く喋れなくて」


褒めているつもりが謝られた。


(お主が余計なことを言うからじゃ)


はいはい。


「気にしなくていい。誰しも不得手なことはある」

「ふえぇ……」


気の抜ける声だ。


魔人を一人駆除したところで丁度ジョシュアが戻って来るのが見えた。軽く手を振って尋ねた。


「どうだった?」

「皆を連れてアンダーシティに向かうぞ。未来視の通りになった」

「了解。それでどうやって群衆を集める?」

「こうするんだよ」


また得意気にジョシュアは触媒を取り出した。

スッとエッダがジョシュアの手の内を覗き込むと、珍しく流暢に話し始めた。


「あ、モリス鳥の拡声触媒ですね!市販品よりもずいぶん大きいし喉笛が周辺器官ごと丁寧に切り取られてる!高級品ですね!ここまでキレイだと実際の声よりずっといい声になって10km、20kmは響き渡りますよ」


触媒を見たエッダが早口で言った。知ってる分野の話なら淀みなく話せるようだ。


「お、おう。その通りだ。言いたいこと全部言われちまったな」


微妙に残念そうにジョシュアが頷いた。


「よし、じゃあ行くぞ。耳は塞いどいた方がいいかもな。『こちら、プライマリ冒険者のジョシュア・コールマン、今巨人を倒した者だ!現在ユグソールリゾートは魔人に襲われ、更に上層への道は崩落して塞がっている!助かりたいならアルテオホテルに来やがれ!アンダーシティに向かう!』」


ジョシュアは耳を塞げと言っていたが、魔法で拡声された声は朗々と響くわりには柔らかに鼓膜を撫でていった。




「へいへい、戻ってこいってことね」


魔人に見つからないように逃げ回りながら人々を救助していたカリオスがため息をついた。


「はい、お金持ちの皆さん。静かに止まってー」


路地裏にいるカリオス、ゲッコー、マックスの後ろにはきらびやかに着飾った十人程の一般人がいた。彼らは秘密シェルターに隠れていたそこそこの富豪達である。


「やはり、さっきの女の子と一緒にシェルターにとどまっていた方がよかったんじゃないのか、冒険者?」


そのうちの一人、マルクス・オーグスタスが言った。


「後ろを見てみなさいな」


先ほど出てきたばかりのシェルターをカリオスが指差した。3秒後そのシェルターがミシミシと音を立てて崩れ落ちた。巨魔人の投げた岩の一つが梁を撃ち抜いていたのだ。


「な?出てきてよかったでしょ?」


軽薄に笑うカリオスにマルクスは仕方なく頷いた。カルラという亜人の少女は魔人を倒すと颯爽とどこかに行ってしまい、彼女の仲間だというこの男、カリオスに着いていくしかなかったのだ。


「……ふん、そのようだな。お前、道を全部知ってるのか?」

「まあ、一応地図はあるだけ記憶してまさあ。つってもこう街が崩れてりゃああんまり意味はねぇかもしれませんが」

「……よろしく頼んだぞ。地上に出たら報酬は弾んでやる」

「へへ、ありがたく貰いますぜ……じゃあ、皆さん進み……っと伏せろ!」


鋭くカリオスが叫ぶ。

瞬間、彼らがいた路地の両側の壁が吹き飛んで、天から大きなものが落ちてきた。破片が降る中に黄色く光る両目。その落下物は魔人だった。

カリオスは素早く後ろの人々に指示を出した。


「あんたらはアルテオホテルまで走れ!マックスは先導!ゲッコー、やるぜぇ?」

「そうね、今は従ってあげるわ」

「アニキ……!」


路地に着地した魔人がゆっくりと立ち上がった。黄色い目は異様大きく、そして淡く発光している。ケントの目によく似た輝きだ。


先手必勝、カリオスが動いた。右太腿のナイフホルダーから投げナイフを引き抜きそのままの動きで投げる。が、その時にはすでに魔人も動き出していた。

魔人は目敏くカリオスの一瞬の予備動作を見抜いて動き出し、鋭く尖らせた爪をカリオスの喉元に突き出した。だが、カリオスの不意をついたその爪は届かなかった。


カリオスと同時に動き出したゲッコーが獣人由来の馬鹿げた脚力により弾き出した爆速で近付き、魔人の腕を蹴り飛ばしたのだ。


「大丈夫っすか、アニキ!」

「ナイス!」


魔人に大きな隙ができたのでカリオスはすかさずその隙に取って置きのナイフを投げた。そのナイフの柄頭には触媒が組み込まれてあり、発動と同時に噴気し非力なカリオスでも鉄を貫くほどの威力になる。


「いけっ!」


ポンッ、という若干軽めな音の割に稲妻のような速度でナイフが魔人に当たった。当たってはいるが刺さってはいない。魔人の皮膚はどうやら鉄よりも固いらしい。魔人の口許は蟹のような造形をしており、もしかすると甲殻類の魔人なのかもしれない。


ナイフが効かないならば、カリオスには滅法不利な状況だった。カリオスの実力は中堅冒険者の中でも割合高めではあるが、それはカリオスの隠密技術と念入りな情報収集、用意周到な準備によるものであり、正面切っての戦闘ではナイフ投げが百発百中レベルで上手いことを除けぱ腕力も技術も下の上か中の下である。


要は防御が固い敵に対してはあまり有効な攻撃方法を持っていないのだ。


「ゲッコー、ちょっと相手してやれ」

「了解っす!」


と言ってゲッコーに任せてる間に対応策を必死で考える。


よく見れば魔人を覆っているのは皮膚ではない。鎧のような甲殻で、関節には隙間のようなものが見える。それから腹部の殻は他の部分より薄そうだ。顔周りはあっさりとしており、耳や鼻の穴は見えないがあの大きな黄色い目……ゲッコーの動きに完全に焦点が合っており気持ち悪い速度でギュルギュルと動いている。


……感覚器が目しかないのか?となれば、目だ。


「ゲッコー下がんな!」

「ういっす!」


魔人を蹴りまくって距離を取ったゲッコーが下がると同時にカリオスは前に飛び出して上に茶色の袋を投げた。


「裂けろっ」の掛け声と同時に袋が破れて中からその中に収まるはずがない量の大量の白い粉が溢れ視界を覆い尽くした。


通常の視覚ならこれで封じられる。

そして、カリオスは頭に巻いたバンダナを下にずらして目を覆った。バンダナのように見えるが、これは感熱式視覚拡張具、サーモグラフィである。これを通して見れば熱を持つ物体であれば壁越しでも見える。


魔人の肉体は甲殻で覆われているもののかなりの高熱を持っており、白い粉が光を遮る中でもカリオスの目にははっきり見えていた。


「もらうぜぇ、その目!」


カリオスは近付くと同時にロングソードを振り上げ、頭部に不釣り合いな巨大な目を狙った。その瞬間、視界の端で魔人の左手に血液が這い回り、まるっきり蟹のような巨大なハサミを形作るのが見えた。

今さらブラッドアーツで腕を武器に変えようと、ロングソードの太刀筋からは逃れられないはずであり無意味な努力だ。


しかし、

カン!!!!!


ハサミがあらぬ方向を向きながら噛み合い、何故か、カリオスの全身を衝撃が襲った。


視界が歪み耳の穴から血を噴き出しそうな痛みと共にカリオスは建物の壁に衝突していた。


「ア、ガ……何だ……?」


ぐわんぐわんと揺れる視界の中、もう一度ハサミが開いていく。


「や……べ……」


ハサミがもう一度噛み合う寸前にゲッコーがカリオスの襟を掴み、即座に距離をとった。


直後にハサミが噛み合う。

遠くから見ると、ハサミを中心に円形の衝撃波が生じていることが分かった。ハサミの上の歯と下の歯がぶつかると同時にその狭間に真空が生じ、それが元に戻る力で衝撃波が生まれているのだ。

衝撃波は空気を伝わり全身と特に鼓膜、三半規管に深刻なダメージを負わせる。


至近距離で食らったカリオスは何とか足で立つことは出来たがふらふらとして戦いを続行できる状態とは思えなかった。


「アニキ……どうしたらいいっすか?」


ゲッコーが不安げに尋ねたが、カリオスの耳には届かない。しかし、読唇術を修めているカリオスは頭の痛みをこらえて答えた。


「跳べ」


ゲッコーは高速で走り回るのことのできる獣人の中でも稀有な程の体力と脚力を持っている。その点でカリオスよりも遥かに性能のいい身体を持って生まれているが、素直で人を疑わない生来の性質は戦闘に向いていない。


簡単に言ってしまえば、「あれはなんだ!」と敵が指差せばつい簡単にそちらの方を向いてしまうような素直さなのだ。


ゲッコーの最適な運用は、相手に小細工を考えさせる間もなく接近し、相手が考える間もなく類い稀な脚力を叩き込むこと、である。それ以外だとどんなミスをするかわからない。


だから、まずは逃がす。

ゲッコーは瞬時に15m以上も垂直に跳び上がった。


魔人は高く跳んだゲッコーに視線を向け、今度は右手を掲げた。すると、魔人から吹き出した血がその手を中心に集まって新たなハサミを作り上げた。それはハサミの先に砲身を取り付けたかのような奇妙な形状をしており、更に魔人の足からは肉体を大地に固定させるべく鉤が飛び出して地面に突き刺さった。


死に体のカリオスを無視して、ゲッコーを撃ち落とすつもりらしい。なるほどな。


――――だが、そいつは俺を舐めすぎだろ?


「俺のナイフはなぁ……百発百中だって」


ハサミの仕組みは一目見てもう分かった。要は音だ。馬鹿みたいにデカいハサミをアホみたいな威力で挟んで歯の間に大きな音を作る。そこで爆発的な空気の波が生まれて衝撃波となる。そして、奴の左のハサミは全周囲に向けて衝撃波を作る。とすれば、あの砲台みたいな形をした右のハサミは一方向に強烈な衝撃波を飛ばすのだろう。


衝撃波が生まれないようにするにはその指向性を少しでも変えればいい。

ナイフを投げた。カリオスは完全に魔人の視界外にいてナイフは絶妙に右のハサミに挟まった。同時にハサミが落ちる。


パンッ!


ナイフが粉々に砕け散る。そして、カリオスの計算通り衝撃波は砲身に吸収されず、全周囲に爆音を撒き散らしただけだった。

黄色い目が憤怒に染まりカリオスを睨んだ。


「そうだ、こっちを見やがれっ……!」


俺は、赤目の旦那のような化け物みたいな体もしていないし、社長のような竜の体もない。ちょっとばかしナイフ投げが上手い自信はあるが、手負いの今じゃ大して役に立たない。


魔人が踵から生えた鉤を地面から抜いて近付いてくる。

ハサミを振り上げて襲ってきた。ハサミの分、手が重くなったらしくさっきよりは少し遅い。

カリオスは膝から力を抜き、ガクッと前に倒れ、直後に両足に力を込めてその攻撃を避けると同時に魔人の脇をすり抜けながら切りつけた。隠密技術の応用であり、渾身の一撃であったが魔人の外皮に一筋の傷を付けるだけで終わる。


「畜生、旦那ぁ……」


カリオスは呻き、久しぶりに哀れな声を漏らした。その瞬間、カリオスの目の前で魔人の背中が爆発した。強固な外殻が一瞬にしてクレーターのようにひび割れ、その割れ目から間欠泉の如く血が撒き散らされた。


カリオスは魔人の血を全身に浴びながら驚きでほぼ放心した。更にまた、ダン、ダン、と二度も魔人にソレが着弾し、振り返った魔人の胸に最後の弾が着弾、胸に大穴を開けて心臓を破壊した。


そんな……これは、銃器?


魔力の影響を及ぼしやすい手投げや弓矢ではなく、銃による狙撃。魔人に対する狙撃なんて、神業だ。


魔人の胸に開いた穴から魔石の輝きが漏れ始める。

これ以上の弾丸を貰うまいと魔人は建物の陰に隠れようと動き出しカリオスに背を向けた。


「この野郎、俺に背中取られて生きてる奴はいねぇぞコラぁあああ」


隙を見逃さず、カリオスは全身全霊で飛びかかりロングソードを魔人の魔石に突き出した。


ガキッ。


「……おいおい、魔人の魔石ってのはこんなに硬ぇんですかぁ」


疲弊しきったカリオスの刃が魔石に通らない。

まあ、そんなこともあるか。と、自分自身非力であると自覚しているカリオスは思った。

そんなことがあるから、これを仕込んでいるのだ。


「うおおおおおお、インパクトっ!」


ロングソードの持ち手の底が噴気する。ナイフと同様の噴気触媒だが、ロングソードの柄とナイフの柄とでは量が違う。


6秒間継続した爆発的エネルギーがカリオスの数倍のパワーで魔人の命を突き刺し、


「砕けろよおおおおおお!!!!!」


そして砕いた。


「へへ……見さらせ」


魔人の肉体が倒れ伏して静止する。


「俺みてぇな雑魚冒険者が魔人をやっちまったじゃねえか……!」

「さすが兄貴っす!」

「何だ、戻るのがはえぇな、ゲッコー」


いつの間にやら戻ってきていたゲッコーがカリオスに肩を貸す。


「カリオスの兄貴、ボクが兄貴を置いて逃げるわけないっすよ。今のはただ上に跳んだだけッス」

「ったく、まったくよぉ。てめぇはバカだぜ」


それからカリオスは望遠鏡を取り出して狙撃主を覗いた。

望遠鏡の向こうにはホテルの上でレバーアクションライフルを構えるマックスの姿が見えていた。


「おいゲッコー、見てみろ。あの女、ほんと何もんなんだよ」

「お陰で助かったッスね!」


屈託なく笑うゲッコーを見てカリオスは苦笑いしながら答えた。


「まーな」


望遠鏡の向こうに見えるマックスはライフルを手で愛でるように撫でてからこちらにウインクをしていた。

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