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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン グランドホール
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ダンジョン侵入

「サクッとミズガルズの連中から目的地の情報取ってきますよ」と軽く笑いながら出ていったカリオスが走りながら事務所に戻ってきた。


「旦那ぁ!セシルの野郎隙一つなくって情報盗ったのバレちまった!」


それも半泣きで。


「情報は盗ったんでしょう?上出来だ」

「マジで怖いんですぜ、あの新総長の顔ったら鉄で出来てるに違ぇねぇや」

「おう、よくやった!カリオス。じゃあ、さっさと行くぞ。長めのピクニックだ」


カリオスが事務所の中を見回すとすでにケント、ジョシュア、カルラ、ゲッコー、マックス、そして新入りのエッダまでが完全装備で待っていた。


ケントはいつも通りの黒いコートの上から肩当てと胸当てを着けた装いだ。闇に紛れるように装甲も黒く塗り潰し反射もしないようにしてある。


ジョシュアはやたらとハードボイルドなトレンチコート。頑丈で難燃性の素材が使われているが、大して防御にはならない趣味の品だ。背中にはとても常人には扱えない巨大な段平アルムレヒトを担いでいる。


カルラもジョシュアと同様に防御に大して気を使っていないであろう軽装だった。上半身は背中が大胆に開いたホルターネックにアームカバー、下はミニスカにサイハイ。一応魔鋼が織り込まれているのでそう簡単には破れないが魔物に対抗するには不十分である。武器を使っている姿は見たことなかったが、今日はハルバードを携えている。


カリオスの舎弟であるゲッコーはカリオスと同様にオーソドックスな冒険者らしい動きやすさと防御力を両立した格好をしていた。すなわち、革鎧を基本に籠手、ブーツを着け肘、膝などを金属で保護したものである。頭にはカリオスと同じ鉢金を巻いている。そして、背中にはテントと食料といった探索用の荷物を背負っていた。


マックス、本業が研究者である彼女は何のつもりか白衣を身に纏っていた。その上魔物にはろくに当たらないはずの猟銃を肩に背負っている。だが、賢いはずの彼女が不用意にそんなことをするだろうか。


最後にエッダの装備もよくある魔法使いらしいものだった。全身を足まで覆う長いローブは学院が卒業生に授与する極めて高性能なものであり、摩擦、斬撃、刺突に強く、高熱でも低温でも過ごしやすく通気性にも優れた万能素材で出来ている。内側には無数のポケットが編み込まれているので咄嗟に触媒を取り出すこともできる、正に魔法使いの為のローブだった。


「ひゃあ、皆さんお揃いで。……へへ、あっしの装備なんて後は――――」


カリオスはソファーに立て掛けてあった刃渡り50cm程度の長さの剣を取り上げた。


「――――これくらいなもんですよ」




セシルはアスクラピアに突入する予定であったガーディアンの一人から黒衣の冒険者に襲われた話を聞いた。不確かな情報ながら、その冒険者は片目を赤く光らせていたとか。だとすれば、多少の心当たりがあった。

コールマンの隣にいたケントという冒険者だ。


「ケントという冒険者を捕らえてみよう。多少手荒になっても構わん」


セシルは右腕であるレイファンに命じた。


「了解。理由はどうする?」


ミズガルズの隊員に組織のために動く者はあまりいない。それぞれ個人的な動機を持ってミズガルズに入った者であるから理由を説明しそれが動機に適わない限り動かない。


「そうだな。少なくとも我が隊の一員に攻撃したのは確かだ。その線で皆に伝えよう」

「けど、コールマンはこの男を信用してるみたいだけど」

「確かにコールマンと父は友人だったらしいが、それが何になる。調べて損はない」


セシルは冷たく言い放った。そして、おそらくは父も同じ事を言うだろう、とセシルは考えていた。


「それに、あの男は何か俺たちが知らないことを知っている気がする。八百組にはなにか秘密がある。そうでなければ、父が一介の盗賊風情に殺されるものか」


ギリッ、とセシルの歯が軋んだ。


そこに足音が聞こえてきて、扉が開けられた。


「総長!大変です!」

「ノックをしろ、バカモノ」

「すいません!」

「それで、何があった?」

「準備した食糧が何者かに燃やされています!」

「ふむ……犯人は捕らえたか?」

「いえ、残念ながら」

「……おそらくは八百組の仕業だろう。警戒を厳にしよう。レイファン」

「はい、警備計画を改めておきます」


阿吽の呼吸でレイファンは頷いた。


「よし。燃やされたのは何日分だ」

「半分は燃やされました。これでは深層へは……」

「40日分か。予備費で賄えるな」

「あの……34層の北側に食料が豊富なゾーンがあると読んだことがありますが……」

「『深層探検』の本か。よく勉強しているな。報告ご苦労だった、下がっていい」

「はっ、失礼します」


隊員がドアノブに手を掛けたところでスッとセシルが視線を上げた。


「待て」

「……はい?」

「レイファン」


セシルが副官の名を呼んだ瞬間、空気が張り詰めたものに変わった。

同時に報告に来た隊員が突如反転し扉を叩き開けて飛び出した。


「ちっ、捕らえろ!」


叫んだセシルとレイファンが部屋を飛び出て左右を見るとすでに廊下には人影が無かった。


「いない……?今のは何だったの」

「分からん。だが、即座には思い出せなかったがあの隊員は本来巡回任務に就いているはずだ。ここにいるはずがない」

「それでわかったのね。変装の上手い……盗人かしら」

「盗人か……いや、何かこちらに喋らせるつもりだったようだ。ジャーナリストかスパイ、あるいは情報屋も考えられるか。少なくとも、何者かが『施設』のことを知りたがっているのは確かだろう」

「一応、その辺りも調査しておくわ」




ドミニオンの街並みを歩いてダンジョンに向かう道中にカリオスから目的地の大体の場所を聞いた。


「そんなわけで、セシルさんの顔色を伺う限りじゃ、32か33層。北側の真反対、南側だろうな。そこにある『施設』ってのが目的地のようですぜ。最後のはちょいと盗み聞きしたんですがね」

「ほう。顔色で分かるんですか?」


カリオスはニヤニヤと笑いながら頷いた。


「ざっとですがね。ちょいとした技術があるんですわ」


そして、左手の籠手を見せた。


「秘密なんですが、この籠手には人の波動を感じる機能がありましてね。その波の形で相手が本当の事を言ってるのかわかるんですよ」

「嘘でしょう」


間髪入れずにケントは言った。嘘を見破るのは得意なのだ。


「へへ、嘘ですけどね。でも、情報に自信は持ってますぜ」

「信じてますよ」


目的地の名前も知れて結構なことだ。

とはいえ、『施設』か。これだけじゃどんな施設なのかも分からない。マックスに聞いてみた。


「マックスは『施設』なんて聞いたことあります?」

「さあ、聞いたことないわ。でも、深層で建物を維持するなんておよそ不可能なはずなんだけど、施設って言うからにはそれなりの設備があるわけよね。専門じゃないけど気になるわね」


話していると「おい」と、ジョシュアが声をかけた。


「あまり道中でその話するなよ?おそらくだが、その『施設』ってのはギルドが秘密裏に運営してるもんだ。公開できないようなヤバい研究でもやってんだろう。首を突っ込んでもろくなことにならねぇ。わかったな?」


「それもそうね」とマックス。カリオスは「約束はしねぇけど」と口の中でモゴモゴと言った。


北西に位置するコールマン葬儀社からゆっくりと南の繁華街の方向に歩いていく。段々と人通りが増えて、いつ来ても人混みの激しいメインストリートに着いた。


7人もの人数で移動するのは初めてのことだった。というか、7人で集まったことも記憶にない。思えば、コールマン葬儀社では歓迎会なんてものはなかった。一年前、ダンジョンで気絶したと思ったらいつの間にやらコールマン葬儀社のソファに寝かされていて、いきなりジョシュアに請求書を見せられたのだ。その返済の為に日夜労働していると気付かぬ内に社員ということになっていた。


「にぎやかね。どうせメインストリートを歩くならカルラちゃんとあたしとシアンちゃんと三人で歩きたいわ。あ、エッダちゃんも一緒でこれからは四人ね」

「ショッピングはまた別の機会に行けばいいでしょう」

「そうね。あ、エッダちゃん、私と手を繋ぎましょう?」

「ふわっ、はぇええ!?」


マックスはちょこちょことケントの後ろを着いてきていたエッダの手を勝手に握った。


「まだドミニオンに慣れていないんでしょ?迷ったら大変だもの」


くすんだブロンドの髪を揺らしてマックスはしゃがみこみエッダと視線を合わせた。


「はうっ、おきれいですぅ」

「あらありがとう。ケント!この子可愛いわ!」

「わ、私も手を繋ぐわ!」


今度はカルラがエッダの逆の手を掴んだ。微笑ましい限りである。


メインストリートを抜ければダンジョンは目前だ。




ジョシュアが代表してダンジョンへの入場申請を出した。ダンジョン内の魔石はギルドが専権的に権利を主張しており、冒険者が魔石を勝手に持ち出さないように一応の管理がなされている。もっとも、ダンジョンの入り口には非公式な物があるのは公然の事実と化しており密猟も少なくはない。


「マックスさんは銃を使うんスね!かっこいいっす!」


ジョシュアを先頭に容易く魔物を蹴散らしながら三層目を歩いていると、使っている武器の話になった。そこでゲッコーがマックスが持っている銃に気付いたのだ。


「っていうか、魔物に銃なんて効かないんじゃねぇのかい?」


丁度よいと疑問に思っていたらしいカリオスがマックスに尋ねると、マックスは自慢気に猟銃を取り出して言った。


「ふふ、私が当たらない銃を持ってくるわけないでしょう」


回転弾倉、中折れ式のライフル。弾倉の下にあるヒンジで銃身が折れてシリンダー(弾倉)が剥き出しになる構造の銃だ。


「魔物に銃は有効じゃないけれども、私なら無効にはさせないわ。と言っても、この分じゃ折角の愛銃も火を噴かずに終わっちゃいそうだけど」


七人は赤外線探知ができるジョシュアを先頭に、カリオス、カルラ、エッダ、ゲッコー、マックス、ケントの順番で一列に並んで歩いている。

そして、前と後ろにいる桁違いの強さを持つジョシュアとケントが持ち前の高度な索敵能力で魔物が間合いに入った瞬間に始末しているので他の五人はやることがなかった。


特にカルラとエッダはゲッコーの大きなバッグに椅子を備え付けて二人で座り、何やらボードゲームで遊んでいる。


まず最初の目的地は10層目にあるユグソールリゾートだ。


道中はジャングルのように深い緑が生い茂る4から9層を抜けなければならない。もっとも、10層までの上層は下級冒険者でも十分進める領域だ。精々警戒すべきはリシスサーペント、溶解する毒を分泌する大蛇くらいで、それも不意打ちでなければ容易に対処できる。


一行はギルドにより舗装された浅層を抜けて植物の楽園、4層目に足を踏み込んだ。

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