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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン都市ドミニオン
42/56

サワジマ2号

自ら戦うマリオネットとマリオネット

いくらサワジマという名が付いていても、結局のところ名前だけではまだ信じきることはできていなかった。半信半疑だった。

そいつが俺の名を出すまでは。


「サワジマァァァァァアアアア」


極度の興奮で完全に脳の理性を司る部分が焼け切れた。一年間だ、一年間に渡って加納敬志の痕跡を探し続けて、やっと見つかった直接的な存在証明だった。果てしなく思えるほどの過去の山奥から二つの髑髏が怒りと歓喜を歌い始める。


「来いよぉぉぉ、アズマケントッ!ミンチになるまで殴り続けてやりますよ!」


人造人間?2号?見た目も口調も性格も違う?スピード?


そんなことは心の底からどうだってよかった。


一撃、ニ撃、三撃、数え切れない程の殴打を受けながらサワジマに掴みかかる。だが、瞬時に目の前から消えてまた射程外から飛び込んで来る。


その瞬間に全身から無数の30cm長のトゲを生やした。


「無駄無駄ぁ!ビックリ人間ショーかっつうの!」


サワジマは寸前で手を引くと、いとも容易くトゲを掴みケントを持ち上げて地面に叩き付けた。


ダメージはほとんど無い。反撃されるのは予想の範疇だった。


「ここか!」

「あん?」


ケントは転がりながら床のタイルにパイルを突き立てた。

サワジマの目が驚愕に見開かれる。


「なんで知ってんだ!?」

「48箇所。貴様の魔力の供給源だ!」


ケントには魔力の流れが視覚として見ることができる。魔力炉内はそもそも魔力が充満していて見えづらかったが、サワジマが加速した瞬間強い魔力の流れが見えた。


パイルを返して掘り返すと、美しい人形が埋まっていた。見覚えがあるそれはセレブロマータだった。


「ち、返せよ!アズマ!」


ギラギラと目を輝かせてサワジマが叫ぶのを、ケントは嘲笑った。


「取ってみろよ、この距離なら俺の方が早いがな。砕けろ!」


刃物のような指先がセレブロマータの端正な顔に食い込み、脳殻を突き破った。琥珀色の液体とくすんだ桃色の脳が指の隙間から噴き出した。


「やりやがった!やりやがったな!フィーリンちゃんの脳味噌を!」

「私の知ったことか!一つ残らず潰してやる!残り47個、貴様を含めて48だ!」

「させると思ってンのかァ!?」

「防いでみろよ!!」


サワジマにとってケントの打たれ強さは相性最悪だろう。


ミンチ?できるならやってみるがいい。挽かれたそばから再生してやる。何度でも、何度でもだ。貴様に俺を殺す方法があるか確かめてみるがいい。


これは俺が全ての魔力の供給源を潰すか、その前に俺がサワジマを捕まえるかのゲームだ。


ケントの全身が波打つようにうねる。

自らもゾッとするほどの力が肉体の奥から、精神の底から狂気に乗って溢れだす。


最高神ゼルエムの神胚を喰らい満ち々ちた異界がケントという殻を突き破りこの世に顕現したようではないか。見よ、禍々しいその姿。身体中の筋肉が衝撃に押し潰された金属機械のようにあらぬ方向に捻れて飛び出し、その先端は槍のように伸びて幾本もの触手となっている。


「ああああああああああああああああああああああああ」


ケントが自らの頭を抱え叫んだ。すると、無数の触手が数倍にも伸びて、伸びた先からタイルを掘り返しあるいは壁を壊して内側に埋められたセレブロマータを手当たり次第に破壊していく。暴力の渦だった。


「クソがあああああ」


サワジマにもケントの触手は迫っていく。サワジマは避けながらケントに近付く隙を探るが、見当たらない。


サワジマに近付いてきた触手の一本のその先端が果実のように膨らんだ。そのことに気付くと、果実の表面に幾つもの紋様が浮かんだ。サワジマはそれが何かすぐに分かった。オートマータの造形過程とそっくりだったからだ。それは人間の顔だ。


果実は人の顔の形を模して口を開いた。


「……ンハッ、アンドロイドですかぁ?」


それはサワジマにとっても聞き覚えのある声だった。


「うえー?これはこれはイルファストス・ゾルベルト殿ではございませぬか?なんでそんなとこに……」


サワジマは呆然と牧師の名前を呟いた。


「可食部が少なそうな体ですねぇ。ンン!脳ミソをチューチューと吸い出してあげますよ!肺活量には自信があるんです」

「あっひゃー!」


言い終わると牧師の顔面は鼻筋を通る中心線から花弁のように裂けてサワジマに襲い掛かった。


次第にサワジマの動きが鈍くなっている。アンドロイドであるサワジマは疲れるということはないが、動力となる生体脳は出力に限界がある。何個も脳を潰されてサワジマは速度を維持出来なくなってきていた。


背に腹は代えられない。サワジマは速度を犠牲に手数を増やすことにした。それに、バレている以上は隠す意味もない。「行け」と、サワジマは支配下にある全てのセレブロマータを起動させた。


魔力炉の至るところから壁や床を破ってセレブロマータが顔を覗かせる。血の通わないその姿はさながらゾンビ映画のようでもある。あるいは、生き埋めにされた蟻が這い出ようとする姿か。


「teえeehきいいいいいいいeeeeeeいいい」


顔面を覆う触手の裂け目からケントの奇声があがる。

対する自由になったセレブロマータ達は声を出さない。次々にケントに立ち向かい、端から無惨に貫かれて血と肉の代わりに歯車とバネとオイルを撒き散らす。

だが、洗脳と改造により機械の部品となった脳達は壊れた手足を動かすのをやめない。ジリジリとケントに近付いては薙ぎ払われ踏み潰される。


漸進し足元と言える場所にまで近付いていた上半身だけのセレブロマータがケントの足首を掴んだ瞬間、セレブロマータ達の頭蓋が赤く光った。


すぐさま触手の一つがその頭蓋を貫いたがすでに遅かった。


ケントの拡張された動体視力が時間を細切れに切り刻んで、セレブロマータの頭蓋が緊張し亀裂から顔面の造形ゴムを吹き飛ばして爆炎を生じさせる様を脳に描写した。


脳殻の破片が超高速でケントの肉体を撃ち抜き、爆風が衝撃でもってケントをシェイクする。


「ヒャッハー、決まった!決まったぜ!」


サワジマが歓喜に喚く最中でもセレブロマータの自爆攻撃は続き、一、二、三、四、五、六、七、八……爆発はまだ続き、最後の一体までケントに張り付いて爆発しようとする。ケントが粉々になり、爆風と床の間で擦り切られても任務を放棄することのないセレブロマータは対象の最後の一片まで吹き飛ばす。


「終わったかな」


最後の爆炎に煽られて50cm程の黒い筒がサワジマの目の前に落ちてきた。


「……んだこれ?」




グシュッ、という奇怪な音と共に黒い筒が突如開いた。


露になったのはあまりにも悲惨でおぞましい赤子ほどの肉片であった。人工的に作られたサワジマの精神が悪鬼羅刹というものはこのように生まれるのかもしれない、と思うほどの光景だった。


ケントは度重なる爆発の中、頭部だけは守りきったらしく顔面は穴という穴から大量の血を流しているが美しく保たれていた。

しかし、その下、皮膚は鎖骨までは残っているが肋骨や内臓は露出しており下半身に至っては存在しておらず、体液を流し続ける小腸と胃袋が消化液を漏出させている。左腕は肩甲骨ごと消し飛び、右腕も上腕の半分までしか残っていない。


ただ、未だ生きていることは明らかだった。


露出した肋骨の隙間から拍動する心臓が垣間見えるからだ。


「――――49」


サワジマはその機能もないのに鳥肌が立つのを知覚した。

ケントは真っ赤に輝く左目と淡く青に光る右目を開いて、呟いたのだ。そして、背骨から六本の黒い鋼のような物体を生み出し、それはすぐに昆虫のような関節を備えた脚になった。


ケント、あるいはその形をしたバケモノは牙を剥いてサワジマに飛び掛かった。


反射的にサワジマはケントに拳を突き出した。それも、ケントの望む通りに。ケントは昆虫のような節のある脚を巧みに動かして拳を避けてサワジマの腕にしがみついた。


「うお、放せ!」


サワジマが振りほどこうと腕を振るが、ケントは離れないばかりかカサカサとサワジマのボディに脚を突き刺しながらサワジマの背後に回り、そしてあっさりとアルミ合金やラバーコードで出来た頚椎を噛みちぎった。


「――――アッ」


サワジマはボディとの接続を切断されて周りのセレブロマータ達と同じモノになって倒れ込んだ。


――――数秒後、ケントは力尽きた蝉のように崩れ落ちた。




(お主もなかなか学ばぬ奴じゃ。それ、ケント。肉体を再生させよ)


甘く幼い声が聞こえる。

肉体の再生を最優先。痛みはない。足がない、腕がない、血液、臓器、ない。背中のこれは何だ?骨?脚?肋骨か。動けば何でもいい。


(心臓が止まるぞ、早く血を増やすのじゃ)


心臓。そうだ、心臓が動いていればまだ大丈夫。心臓、肺。動きが鈍い。血が足りていないから。痛みはない。血、骨髄、造血細胞。ミシミシと骨が発芽していく。痛みはない。


(息を大きく吸え。その体でも呼吸はできるはずじゃ)


呼吸も浅すぎる。肺臓自体には伸縮する機能がない。筋肉が必要。肺自体から伸びた触手が肋骨と絡んで収縮し強引に空気を取り込んでいく。まだ痛みはない。


「かはっ」


吐血した。血の味はわからない。消化器系は不要だ。


「ごふっ、あ、はあ……はあ……はあ」


呼吸が落ち着いてくると共に徐々に思考が鮮明になってきた。

体はどうなっているんだ?痛みがない。いや、それを感じる機能が。徐々に再生が始まる。痛みが、どうして、こんなに、痛みが疼痛のように遠雷のように、どうして、




――――どうしてこんな姿で生きていられる!!!!




全身に痛みが舞い戻った。指先から髪の毛の一本までを空中で磨り潰した痛みが雷鳴のように轟き渡る。


「――――ッ!!」


口元から血と泡が溢れた。


(脳と心肺機能しか残っておらぬな。……だが、それでもお主は死なぬ)


シアンが答えた。


わ、私はどうなった……。


(ふむ。我の声が届かぬ程に狂気に近付き……だが、爆破されて戻ってきたようじゃ。皮肉ではあるが、幸いじゃった)


思い出すとまざまざとその時の光景が脳裏に浮かんだ。

黒い濁流、おぞましいほどの神の狂気が阿妻健斗という存在ごと生命の底から突き上げて押し流した。その前ではちっぽけな自我など急流の上に浮かぶ一枚の葉に過ぎない。狂気に身を任せよ、原初の混沌の一部と化せ。それはとても恐ろしく、同時に甘美なものに思えた。


ともすれば、自分はこの世から消え去る寸前だったのだ。

だが、そのことについて恐怖はない。ただ、焦燥には駆られる。いつか私は狂気に呑まれる。それは遠くない。私はそれを知っている。その先で私がどうなるのかは分からないが、悲惨なことになるのだろう。だが、そんなことはとうの昔、それこそゼラスに着いた頃から分かっていたことだ。


その前に、私は加納敬志とケリを着けなければならない。


その為には、まずサワジマの脳味噌を調べないと。痛みを堪えて四肢の再生を始める。体に付着した神胚が少な過ぎて上手く亜空間から引き出すことができない。


(神胚ならそこらに散らかっておる)


それもそうか。ばたりと仰向けに倒れて周囲に意識を巡らす。確かに細切れになって散乱した神胚を周辺に感じた。それらに魔力を伸ばして集まるように働き掛ける。ゆっくりと肉片が集まってくるのが分かった。


思ったよりも早く再生できそうだった。





その間、暗い魔力炉の天井が見ていた。数多の管が天井から降りていて、中央に設置されたオブジェに繋がっている。オブジェは人間の体内、内臓をこれでもかという程に無惨に露出させた趣味の悪い物だった。つまりはあれがミコトの肉体だったものなのだろう。


最初は気のせいかと思った。ミコトが羽ばたいている。すぐに見間違いに気付いた。無数の管がゆっくりと降りてきているのだ。


第六感が警鐘を鳴らし始めた。何かよく分からないが、動かなければ危険だ。神胚を左腕に集中させて何とか亜空間から更なる神胚を引きずり出し、不格好でもいい、何とか動ける四肢を。


加速しながらミコト、あるいはその抜け殻が落ちてくる。


雪崩落ちた無数の内臓がべちゃりと濡れた音を立てて床に広がった。得も言えぬ体液がサワジマの亡骸の下にまで染み込んでいた。


ケントは何とか左腕を再生させてずりずりと這いながらミコトから遠ざかった。ひどく悪い予感がする。逃げるか戦うかはまだわからない。少なくともサワジマは回収しなければならない。


ミコトはその全体が落ちてきてサワジマの上に積み重なった。


更にその上から何かが下りてくるのが見えた。暗かったが左眼を通せばよく見えた。


そして、何故だ。夜闇に似た扇情的なドレスを纏っているが黒くて細い髪、儚げな顔の造り。


それは紛れもなくかつて救ったはずの少女、リンメイの顔をしていた。


リンメイの顔をした何かは降り立つとずたぼろになったケントを眺め口を開いた。


「ケントさん、お見舞いに来てくれたんですか?もう手遅れなんですけれど」


リンメイは右手を掲げた。


ケントの左眼にはリンメイの右手に膨大な魔力が集まっているのを見た。その色は今しがたぶら下がっていたオブジェと同一のものに見えた。


「……ミコト?」

「そういえば、ナターシャの友人でしたね。残念です」


リンメイあるいはミコトは手を振り下ろした。


冷気の奔流がケントを吹き飛ばした。四肢が殆ど欠損しているせいで軽くなっているのか馬鹿げた勢いで壁に叩き付けられた。


「ぐっ、再生……」


――――できない。四肢の末端部が氷結しており、神胚が動かない。ミコトが右手からヘドロが固まったような黒い氷の刃を伸ばし近付いて来た。


「死……ぬ……?」


脳裏に思考が走った瞬間自身の髑髏が大口を開けて叫んだ。

しかし、いつもと違い神胚は暴走しない。生命維持だけど神胚も手一杯なのか。


「先程の戦いは見ていました。ケントさんの細胞は不可思議ですが、細胞の形質を採る以上は凍結で機能不全になるでしょう?」

「く……そ!」

「さようなら」


ズブズブと氷の刃がケントの心臓の側に埋め込まれていく。

冷気が体内を這い廻り心臓や背骨が凍っていく。凍結した箇所がそのまま暗い穴になったようで、温度がその穴に吸い込まれていった。温度は生きている証、温度が急速に失われ同時に生気が消える。ケントの唇が薄紫にひび割れ瞳から光が消えていく。


まだ何かあるはず、打開策を、逆転の一手を、起死回生の……。


ケントが意識を手放す寸前、ミコトが顔をあげた。視線の先には通路への扉、そしてそこには二人の男が立っていた。


「誰?――――っ」とミコトは囁いた。




避ける間もなく、それはケントの頭上を抜け、音速でミコトの氷剣を貫き、次いで渦を巻く業火でもってその体を吹き飛ばした。


「――――白兵戦車ニーエ・パンツァー、てめぇを食い潰す」


『竜』が名乗りをあげた。

ケントの形態変化


①通常:身長180cm、体重120kg。左目を除く頭部と心肺以外は神胚で構成されている。

②戦闘:身長180cm、体重180kg。左肩から2本、腰から4本の触手を伸ばし、爪は鋭く伸びている。全身の大半を薄く神胚で覆い装甲にしてある。左目が一つ増えて全眼の範囲が広がると共に、高い動体視力も保っている。

③狂化:身長2m40cm、体重900kg。意識的に理性のたがを外すことにより形態が変わる。全身を巨大な神胚の鎧が覆い戦車並みの筋力と防御力があるが、触手を鎧の内から出せず視野も狭窄する。思考能力も低下し、シアンの声しか届かないようになる。ケントは長時間の運用をすると戻れなくなる気がしている。

④暴走:身長180cm、体重700kg。不用意に精神的衝撃を受けると狂気の手綱を手放してしまい、神胚のコントロールが利かなくなる。不規則に赤い目が現れると共に全身から無数の触手が生えて、周囲20mを無差別に攻撃する。本体であるケントも格闘を続けるため、暴力の渦が高速で動き回ることになるが、鎧がない分、狂化状態よりも装甲は薄い。神胚の大半を分離しない限りは元に戻れない。

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