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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン都市ドミニオン
40/56

液状の命

原始海洋から出でたお前はあらゆる生命を内包して黙する 塵に過ぎない我らが塵に帰るように そして塵の中からまた我らが生まれるように

アスクラピアの地下通路は凄まじい戦闘の痕跡を残しており、そこかしこにヒビやクレーターがあった。

物音はケント、アインヘル、ツァルカの足音の他にはドクドクと脈打つパイプの鼓動が響くだけだった。


ケントが違和感を覚えて足を止める。


コツ、コツとパイプの中から音が漏れていた。まるで爪で机を叩いているような、そんな軽い音だった。

気になった。小さなことでも気付いたら調査確認しておくのが捜査では肝要だ。とりあえず、パイプの中を透視してみても相変わらず音が聞こえるのに何も見えない。


ピシッ、とパイプにヒビが入る。


どんな液体が入っているか不明なので咄嗟に距離を取った。

パイプが弾け、中から静脈血のような黒ずんだ赤色の液体が噴き出す。


「おい、なんやあれ……?」


液体を掻き分けるように現れたのは指だった。五本。生白くたおやかな女性の指。小さいのでおそらく子供の指だった。指は腕と繋がっていた。太さ10cmほどのパイプから腕がヌッと這い出し、何かを探すようにゆっくりと揺らされる。


ケントもアインヘルもツァルカも身動ぎ一つ出来ずにそれを眺めていた。


その時だった。


「……ねえちょっと、早く引っ張ってくれない?」


――――腕が喋った。


いや、聞き覚えのある声だった。高くあどけない声だ。


「……ナターシャ?」

「そうそう」


ケントは少し目を瞑り軽く頭を振ると、小さな腕とがっしりと握手をしてゆっくり引っ張った。


「痛い、ちょっと引っ掛かってるからさあ。そこそこ、あ、ゆっくりね」

「…………」


パイプからゆっくりとナターシャが出てくる。


「うへぇ」


アインヘルが呻いた。それも仕方がない。

パイプから出てきたのは左腕と左胸の一部、それから首の半分だけだったのだ。そして、べちゃりと粘り気のある音とともに床に落ちた。


「ちょっと待ってて」


声は手首から出ているようだ。よく見ると甲の側に唇が着いている。


あられもない姿のナターシャは降り注ぐ液体を吸い込んでゆっくりと肉体を形成していった。胸部が形成され、蠢く内臓はしゅるしゅると腹部に収まっていき、生え出た右腕を地面に着いて赤子のような不格好な脚で立ち上がった。ナターシャは最後に顔面を形成して、赤子のように笑顔を浮かべた。


「服はないのかしら?」

「……すまん、これしかない」


亜空間から野宿用のマントを取り出す。


「まあ、いいわ。これで許してあげる」


ナターシャはマントを羽織り腰のところを留めて胸と腰を隠した。


「……それでよ、一体何なんだあんた?人間なのか?」


アインヘルが堪えきれずにナターシャに訊ねた。ナターシャは相変わらずのあどけなくも妖艶な笑顔で答えた。


「坊や、人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るものよ」

「はあ?ちっ、アインヘル・スティンガーだ」

「はじめまして、アインヘルちゃん。あたしはナターシャよ。ここのお医者さん。よろしくね」


ナターシャは首をブンブンと振るった。すると、ふわりと七色の髪の毛が生え揃い肌もいつもの小麦色に変わる。やっと見慣れた姿に戻った。


「あらぁ、こう見たらごっつい美少女やん」

「そうかぁ?顧問、あんたの周り変なロリばっかじゃね」


ナターシャに向き直る。見下ろすとほとんど旋毛つむじしか見えない、小さな体だ。


「とりあえず無事でよかった」


先程まで人型ですらなかったが、今は少なくとも全身が揃っている。無事と考えていいだろう。


「それで、説明はしてくれるんだろうね?」


聞きたいことは色々あるが。


「ええ、そのために待ってたのよ。来るならきっとあなただろうと思ったの」

「それはまた何故?」

「勘よ。女の勘、特にあたしのはよく当たるの」


ナターシャはウインクをしてみせる。


「ほう」

「強いていうなら、あの男とあなたがとても関連しているように見えたのかもね」

「あの男?」

「ヒルコ、という男よ。関連っておかしな表現だけど」

「ほう」


ヒルコ。

胸の奥でぞわりと黒い炎が揺れる。


「どこにいるんだ?」

「あたしが見た時にはこの先の……魔力炉にいたわ」

「サワジマもか?」

「ええ」

「案内してくれ」

「もちろんよ」


ナターシャはグッとケントの袖を掴んで耳に唇を寄せる。


「代わりに、あなたも協力して」


ケントは頷いた。




始まりは大地に開いた大穴グランドホールが発見されてから約百年後のことだった。その頃はまだギルドも何もなく魔物と人間は大穴の淵で殺しては殺され、長い間魔力の奪い合いを続けていた。アスクラピアの前身となる前線基地が作られたのはそんな遥か昔のことだった。


前線基地では日夜傷付いた人間が運ばれてきた。だが、魔物との戦いは想像を絶するほどに過酷を極めた。魔物の攻撃は胴に当たれば即死し、四肢に当たれば千切り飛ばした。故に多くの者は生き残っても戦線復帰することは不可能だった。魔物の肉片を人体に繋げる技術が考案されたのはその頃だ。傷付いた人間の欠損した四肢の代わりに魔物の腕を移植し異形の肉体で魔物と対等に戦える力を与える。これにより戦線復帰を果たした人間はその強靭なこと凄まじく、直に魔物達は大穴にまで追い込まれていく。


ナターシャとミコトの祖先が生まれたのはその頃だった。祖先は魔物と戦った人間のうちでも特に先鋭的であった。彼らは魔物の肉体を人体に繋げるに飽きたらず、人体を魔物に埋め込み始めた。人の脳を持った魔物、それが彼らが目指したものだった。


そして、グランドホールには巨大な蓋がされギルドという監視者が置かれた。


前線基地は基地としての役目を終えて、魔物の研究施設に機能を移行していった。


「私たちはその研究施設の成果の一つ、ありとあらゆる魔物を人型に集約したキメラよ」


瞬きをしたナターシャの瞼は水平に閉じた。瞬膜と言われる鮫や鳥類が眼球を保護するために使う器官だ。


「ミコトはキメラの中でも特に魔力が豊富で多くの魔物を取り入れることができたわ。いえ、正確には先天的な異常で取り込まないと肉体を維持できなかったの。だけど、取り込む度にミコトという性質は薄まっていった。最後にはあの子は自我のほとんどを失い樹のようにただ立っているだけの存在になった。このアスクラピアの地下でね」

「虚しい話だな」

「ええ、そうね。そして、これは悲恋のストーリーなのよ。院長はミコトを愛していたわ」

「……それは何か関係あるのか?」

「ここからが大事なの」


ナターシャは院長とミコトの話を続けた。


「院長はミコトを延命しその自我を取り戻すために、ミコトを魔力炉としてアスクラピアと融合させて少しずつ患者を食わせていたの」

「ン、人を食うのですか」

「今までは黙認していたけれど、院長はさっきヒルコに殺されたわ。だから、もう十分。ねえケント。ミコトを終わらせてあげて」


ミコトか。魔力炉ならばヒルコがいた場所と同じだ。


「行き先は同じなんだろう?」


ナターシャはこくりと頷いた。


「ありがとう、ケント」




ケントの一行はナターシャを加えて地下を走り抜けた。ナターシャのガイドにより道を迷うことはなく最短経路である。

だが、予想と異なり敵がいない。


「この道で本当に合ってるんだよな?」


アインヘルが不安の声をあげた。


「そこの角、天井付近」


そちらには短い筒状の物体が生えており一行に向けられていた。


「なんだありゃ?」

「監視カメラやな」


ツァルカは簡単に監視カメラの説明をした。


「じゃあなんだ?俺らが潜入してんのバレバレじゃんかよ。どう考えても罠だぜ。何か対策……」

「無駄よ。もう着いたもの」


ナターシャは立ち止まった。

魔力炉に通じる大きな鉄製の扉は錆が浮いており、そして鍵の部分は無理やり開けられたのかひしゃげていた。それを開け放つと甘ったるく鉄臭い血の臭いが生ぬるい気温と共に鼻をついた。


部屋の中央には翼を広げた内臓の天使が磔にされていた。

ドクドクと脈打つその足元にはキャンピングチェアに座った優男と首を繋がれて体育座りをしているアイナがいる。


「ケントさん!」


パッとアイナの顔が輝いた。


「おや?知り合いなのかな?」


優男は意外といった感じでケントとアイナを交互に見て、くいっとアイナの首輪を引っ張った。


「じゃあ丁度いいじゃないか。お前、首を今すぐ切ってみろよ。そしたらこの女放してあげましょう」

「いいだろう」


ケントは地球から唯一共に転移した武器であるシースナイフを取り出し首筋に当てた。


慌てるアイナやアインヘル達を尻目にケントは一息にシースナイフを引いた。頸動脈から血を迸らせてケントは崩れ落ちる。


「おお、やるじゃないですかー?じゃあこの女放してー……放してー……やっぱやだ」


その時だった。


「へ?」というアインヘルの間抜けな声がしてその金のドリルがひるがえる。いつの間にかケントの触手が掴んでおり、アインヘルの手からもぎ取って優男を殴り飛ばした。


ケントはドリルをアインヘルに返すとすぐさまシースナイフを手に立ち上がりアイナの首輪を切って外した。


「大丈夫かい?」

「……うん。けどケントさん、首」

「頸動脈くらいすぐ塞がる」

「あ、そうなんだ。よかったぁ」

「君が何故ここにいるか気になるところだが、今は下がっていなさい」


ドリルを通じて得た感触からすれば、クリーンヒットだ。十分に重いものを叩いた感触がした。だが、そんなことで終わるはずがない。

無傷であることを確信して声をかけた。


「貴様がサワジマだな」


以前見た筋骨隆々として姿からはかけ離れているが見た目なんて些細なことだった。中身も些細なことだ。重要なのはサワジマだということだ。


案の定、優男はどんよりとした顔で上体を起こした。


「いやさぁ、そうだけどさぁ。何なの?2号が抜けてるし、人の名前間違えるとか社会に生きてる自覚ある?そもそも、首切るって死ねってことじゃん。なんで死んでないわけ?もしかして空気読めない人なん?決めた。女殺すわ」


サワジマの右手が鋭く動く。その延長線上で裂けた空気がケントの頬を切り裂き、同時にケントは「それ」を掴んだ。


「鞭?」


鞭の先端には鋭い分銅が付けられており、今にもアイナを撃ち抜く寸前で止まっていた。


「ちっ、邪魔すんなよあんたほんと腹立つなあ!いいぜぇ!やってやりましょう!」

「私も貴様に聞きたいことがある。貴様の肝臓を咀嚼しながら訊いてやろう」

「グッロ!ありえないですね!」


ケントは後ろを振り向かずにアインヘル達に言った。


「サワジマは私に任せろ。お前達はジャグラスを探すといい、私はもう奴に興味がない」

「おう、任せたぜ顧問」

「ナターシャはアイナを頼む」

「いいわ。でも……」

「ミコトとはあれだろう?きっちり殺してやる」

「……よろしくね」


アインヘル達は魔力炉から走り去っていった。


「あなたをすぐに殺して逃げた奴らも皆殺しにして差し上げますよ」

「サワジマァ、二度も殺せるなんて私は幸運だ」

「あん?」


鞭を引っ張りサワジマの姿勢がわずかに崩れた隙に一足で距離を詰める。左足で踏み切り、右足の踵をサワジマの顔面にめり込ませる。

足の裏に頬骨が折れる感触を感じた。


ケントの肉体はもはや人のものではない。ゼラスに流れ着いてからの一年で怪我を受けていないところはほとんどなくその度に神胚が元の肉体を侵蝕していった。内臓すらも半分は神胚に取って替わられている。そして侵蝕はイルファストス牧師との人智を超えた食い合いで決定的になり、その本来80kg超の肉体は外見にあるまじき筋力と頑強さを有するに至っていた。


再び殴り飛ばされたサワジマはきりもみしながら派手に飛んだ。

が、何事もなかったかのように立ち上がる。


「くそ、なんだぁ?なかなか効くじゃあないですか。私好みのいい蹴りですよ、ケントさん。ケントさんですか。あれ?どこかで聞いたような名前ですね!」

「サワジマァーー!!」


ケントは低空で走り込むとサワジマの足元目掛けてスライディングをかけた。

鞭で止められる重量ではなく、サワジマはそれを飛び退いて横にかわしながらすれ違い様にケントの頭を蹴飛ばそうと膝を曲げる。空中の攻防、サワジマはケントのスライディングの姿勢では空中と同様に身動きはほとんど取れないと判断した。しかし、それは誤りだ。

ケントは腰の触手を地面に突き立てて思いっきり垂直方向に力を加えた。サワジマの蹴りをすり抜けて舞い上がり逆に相手の顔面に向けて蹴りを放つ。


「うがぁ」


サワジマが弾丸のように飛び無数の銃砲が連なる壁面に衝突した。だが、咄嗟にサワジマは手のひらでケントの蹴りを受け止めており、さしてダメージはなかった。


どうもおかしい。

ケントは思った。サワジマはアダムと対等に戦ったという。だが、今サワジマと戦った限りではアダムほどの強さを感じない。もしくは、強さを裏付けるような凄味を感じなかった。


多少の違和感を覚えるが、それならば別に構わない。このまま捻り潰す……いや、半殺しにして尋問した後に潰す。


一息に近付いて右の手刀を振り下ろした。防がれたが想定内だ。右手刀を防いだ状態で右からの触手による刺突は防ぐ術がない。


対してサワジマの腕は素早かった。防いだ腕を滑らかに動かして手刀を逸らしそのまま二本の触手を目にも止まらぬ埒外らちがいなスピードではたき落とした。


「馬鹿な」そう言い切ることもできずにケントは腹部を捻り込むように殴られ10mも飛ばされた。


何だ今のスピードは――――。

そもそも技術や経験というものは、およそ対等な性能を持つ者同士での闘争を左右するものだ。スピードがあまりに違えばそんなもの力業でどうにでもできてしまう。


ケントは両腕をクロスさせてほぼ直線に飛んできたサワジマの飛び膝蹴りをガードした。サワジマの全体重に加速度の加わった強烈な重み。サワジマはケントの腕に水平に着地すると、もう一度蹴って上に垂直に飛んだ。反動でケントは地面に尻餅をつく。


上に飛んだサワジマを目で追い掛ける。――――いない!どこに……


背後から衝撃を受ける。蹴り、後ろにいた!?


「おっせぇぞ」


振り返りながら手刀を振り抜いた。当たらない。その腕に鞭が纏わりついた。


即座に鞭を左の指で切り右手を自由にする。

サワジマは鞭を手放すと低い姿勢で高速のタックルをした。


「鞭なんて飾りですよ」


ケントは持ち上げられたまま壁に叩き付けられた。背中を打ち呼吸が一瞬止まる。

が、こらえて肘鉄をサワジマの延髄に振り下ろし、緩んだ隙に膝を顔面に叩き込んだ。と、思えばサワジマはすでに離れていた。


速さの次元がまるで違った。


考えられるのは何かの魔法だが、そんな媒介を使用した様子がない。

魔力を無理矢理に四肢に込めて、筋肉自体を媒介にすれば一時的に筋力を上げることはできるが、そもそも人間は限界まで肉体を使っている。魔力は可能性を具現化する以上、限界を超えた筋力はそうそう得られないのだ。


だから、何かからくりがあるはずだった。

ケントは未だ冷静さを秘めた内心で分析を続けた。


全眼を20mに拡張。魔力炉全体を視界に収めてサワジマを観察する。

瞬間、膝関節にサワジマの飛び蹴りが落とされる。靭帯が千切れる感覚が膝に残る。


ダメだ。

全眼による動体視力は魔力を放射し、その反射を基礎に周囲を計算する過程で受波視界よりも大幅に遅れる。動きが速すぎて全眼の動体視力では追い付かない。


ケントは全身に神胚を這わせてガードを固めた。サワジマの拳は異常に速いが内側に響くような重さはない。十分に耐えることができる。観察を続ける余裕はまだまだあった。


「かてぇな。じゃあこいつはどうですかっと」


サワジマのスピードが更に速くなる。サワジマの姿が霞んだ。パンと音速を突き抜ける軽い音がしてガードの為に前に上げた腕が抉れ、サワジマの指が半ばまでケントの腹に突き刺さっていた。


「かはっ」とケントが呻き膝を着くと、さらに脇腹を蹴り飛ばされた。


「やあ、こいつは効いたみたいですね」


防いだはずの前腕は砕け鎖骨も肋骨も砕けていた。突き刺さったサワジマの指は衝撃波でケントの体内まで混ぜこぜにして内臓にまで深刻なダメージを残していた。

前腕はすぐに修復できるので構わないが、折れた肋骨が肺臓に刺さっていたり、内臓に対するダメージはよくない。内臓はまだ自力で修復するのが難しいのだ。


――――だが、からくりは大体分かった。


サワジマが柔軟に右足を高く上げて、その踵を振り下ろした。


ケントは骨格を再形成しながら立ち上がり、振り下ろされるサワジマの太ももを逆に押し上げて地面に叩き付ける。


叩き付けられる瞬間、サワジマは恐ろしい程に笑っていた。


馬乗りになって殴り付けようとするがその前に腹を蹴り飛ばされ、また肋骨が深く肺に刺さり喉の奥から血が溢れる。邪魔なので、指を胸郭に突っ込んで直接肺から骨を引き抜いて左腕から吸収した。


「うーん?」


その間、サワジマは寝転んだままこめかみにぐちゅぐちゅと自分の人差し指を突っ込んでいた。


「あれぇー?ここかなー?ああ、あった!これだよ、これ!ケント、ケントさーーーん!思い出したよ」


サワジマの目が爛々と輝いている。浮き上がるようにして身を起こし、ズボッとこめかみから指を引き抜いた。いやに鋭い指だ。


「俺の名前はサワジマ2号、人造人間サワジマ2号だ。よろしく、はじめまして、ひさしぶり(・・・・・)アズマケント」


サワジマは悪意を敷き詰めたような醜悪な笑みを浮かべた。


ケントは目を見開いた。

オーガン社第八研究所所属B研究員

はち月10日

昼過ぎに、と言ってもここじゃ太陽光の一つもないのだが、素体の1体が目を覚まして騒ぎ始めた。どうやら麻酔が足りてなかったらしい。

これだから、調達班にアルバイトを使うのはやめてくれと言ってるんだ。本社に苦情を入れておこう。


12日

まただ。素体が目覚めて泣き叫んでいた。すぐに麻酔ガスを嗅がせて眠らせたが、酷く気が滅入る。

同僚が泣き叫ぶ姿を見て笑っていた。人でなしめ。私も同じか。だが、動いている姿は見たくないものだ。


14日

調達班と共に円字教の礼服を着た男がやって来た。仕方がないので私が対応することになったのだが、そいつが素体を1体要求してきた。協賛団体の許可を得ているとのことなので、書類を確認して1体提供した。

何に使うのか聞いてみた。食べる、と答えられた。

何かの隠語だろうか。詳しくは聞かないことにした。


21日

侵蝕霊脳が磨耗してきたので本社に交換を要請しておいた。霊脳に無理に侵入するなんて、協賛団体の連中はなんともおぞましい技術を持ってきたものだ。


月2日

協賛団体の代表が侵蝕霊脳を持ってやって来た。

顔立ちはどこの国の者か全く分からないが強いて言えば極東風の容貌と思えた。体つきは完璧に均整が取れており、この世の者とは思えないほどに美しく、同時に由来の分からない強者の凄味が感じられた。生命体としての格が違う、と心の底から思ってしまった。彼の為を思えば、ここで脳殻を作り続けてもいいと思えるくらいの


おっと、日記に書くようなことじゃなかったな。


ここで日記は終わっている。

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