表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン都市ドミニオン
31/56

閉鎖病棟

この病院は生きている

旧館1階中央階段


「セキュリティルームはこちらです!」「押さないで下さい!まだ入りますから!」「白犬は何してやがんだよ!?」


地下への階段の前でアスクラピアの職員が、患者たちを誘導している。

カルラは看護士の一人に近付き袖を引っ張って声をかけた。


「ねぇ、次どこに行けばいい?」


戦闘モードに入っていないカルラは黒髪で多少目が特徴的な少女にしか見えない。看護士は忙しいらしく、カルラを一目見て地下に入るよう促した。


「前の人に続いて地下に入っていてね。きっと助けが来るから」


んー、この人に聞いてもダメみたい……。


看護士を無視して周りを見渡していると、「あなたは戦士ではあるまいか」と、白い鎧を着た背の高い女性に声をかけられた。


カルラは頷いて、その女性を見上げた。

凛々しい顔、髪の毛は全て後ろで括られている。全身にエネルギーが満ちているのが見て取れ、カルラは一目見て気に入った。


「不躾だがレベルを聞いてもよろしいか?」


女性が訊いてきた。


「17」

「17!?」


女性はひどく驚いた。


「中堅上位並みか。ならば即戦力だな。私は二番隊隊長のリンダ。あなたは?」

「私、カルラ……コールマン葬儀社のカルラ」

「コールマンの?それは心強い!」


リンダは一人納得して大きく頷き、話を続けた。


「カルラ、我々と共に戦ってくれないか」


リンダが膝をつきカルラと目線を合わせて肩を掴む。


「いいよ」


カルラは表情を変えずに即答した。


「すまない。ナースステーションに連絡がつかず隊員が集まらんのだ。私は隊員を集め指示せねばならん。あなたにはここで皆を守って欲しい」

「わかった」


戦いにいけないのは少し不満だったが、人間を守るのも重要なことだ。


「では、頼む」


リンダがカルラの肩をポンと叩き、北棟の方に向いた瞬間、リンダの向こう側に異質なものが見えた。

すかさず、カルラは翼碗を伸ばし、少女の形をしたそれの頚部を貫いて持ち上げた。

周囲から患者たちの悲鳴が上がる。


「何を!?」


振り向いたリンダがカルラに向かい剣を向ける。


「見て。これ、何か変だから」


リンダがチラリとそれを見た。

首を貫かれたそれは、血ではなく琥珀色の液体を垂れ流し、首から翼腕を引き抜こうともがいていた。


「これは、何だ、子供のヴァリアント!?」

「違うと思う」


カルラがもう片方の翼腕を突き刺し、鎖骨から股下まで縦に引き裂くとボロボロとオイルと歯車が零れ落ちる。


「うっ。これは、まさかオートマタか!?」


リンダが懐から魔力感知器を取り出す。


「おかしいな。そこまでの反応はない」


オートマタの操作には魔力線を伸ばして操作する必要があり、感知器は空気中に露出した魔力線に強く反応する。

だが、感知器は日常生活ほどの弱い反応しか示していなかった。

それはつまり、魔力線が露出していないことを意味する。


「体内に動力機関が……報告にあった脳入りのオートマタか!放り投げろ、爆発するぞ」

「わかった」


リンダの指示に従い、カルラがセレブロマータを連絡通路に放り投げると、直後に爆発。新館と旧館を繋ぐ通路が崩落する。


「まさか、患者に化けてくるとは……」


リンダにはそれが背の低い痩せた少女にしか見えなかった。

そこで、リンダが「はっ!」と気付き、顔をあげる。


「すでにセキュリティルーム内に侵入しているかもしれない!」


リンダとカルラが患者たちを押し退けて、地下への階段を降りると、骨を木槌で叩き壊すような打撃音と悲鳴が聞こえてきた。


「聞こえた?」

「うむ、やはりすでに侵入されていたか!道を開けろ!」


リンダが鋭い声をあげる。堂に入った命令口調で、魔光灯の青白い灯りしかない地下に瞬時に響き渡った。

リンダの声は速やかに患者たちに染み渡り、人垣が割れて一本の道ができる。その向こうでセレブロマータが無表情に医師の首を握り潰していた。医師の腕は骨を無くしたかのようにだらりと下げられていた。


リンダはその道を駆け抜けセレブロマータの前頭部を斬り飛ばし、残った体を思いっきり蹴り飛ばした。砲丸のように飛ばされたセレブロマータの体が遠くで爆発する。


「他に暴れている者はいるか?いないようだな」


すでに数人に被害が出ていた。犠牲者には医師が多かった。

他にセレブロマータが紛れ込んでいないことを確認して、リンダがカルラに向けて頷く。


「上に戻ろう」


リンダは1階に戻りざわめく患者たちを高圧的におさめると、カルラに後を任せ2階に向かった。




「ナターシャさん、先に行って下さい」


イグレシアスがナターシャを後ろに押し出して正面を向く。正面には散弾銃を持ったマフィアがそれぞれに構えていた。


「バカね、イグレシアス君。あなたも来なさい!」

「バカは貴方です。7人くらい簡単ですよ。早く管理室に向かってください、鍵、掛かってるんでしょう?」


管理室は最上階の中心にある。そもそもは旧館の一切の管理を担っていたが、不便な場所にあることから、新館の建築と共に全ての機能を新館に移していた。

が、設備そのものはまだ残っているので直接操作すればまだ使えるはずであった。


「やはりバカはイグレシアス君ね!私、鍵なんて持ってないわよ」

「ええ!?ナターシャさんどうするんですか!?」


イグレシアスがすっとんきょうな声をあげる。

目の前の7人を止めるので精一杯なのに、これ以上逃げ回って更に不利になることがあれば、僕と言えども死んでしまう。


「だから、貴方も一緒に来て鍵を壊してって言ってるの」

「はあ!?そんなの初めて聞きましたよ!!行くしかないじゃないですか!」


イグレシアスがナターシャの手を掴んで走り出す。


「やあね、こんな情熱的に手を掴まれるのは随分と久し振りよ」

「はあ!?こんな時に冗談言わないでください!」


本来なら7人程度ものの数ではないはずだったのだが、どうにも付け入る隙がない。理由は分かっていた。ゲイルと呼ばれている男のフォローがやたらと的確なのだ。一対一ならば敵ではないのだが。


階段を上がり最上階に着く。最上階である5階は東西南北の棟がなく、中心にドーム状の空間があり、その外周に沿って廊下が続くのみだ。


「後ろは?あれ、いませんね」


少し立ち止まり肩越しに階段の下を振り返ると、いつの間にかマフィアたちが消えていた。


「やっほ、ナターシャさん!」


その代わりに、後ろには赤髪の利発そうな美人がいて、人懐っこい笑顔でナターシャさんに挨拶していた。ハンチング帽を被った姿がとても似合っている。その後ろには儚げな女性が隠れるようにして立っていた。

ナターシャさんはどうやら彼女たちと知り合いのようで、声をかけた。


「あら、アイナちゃん?リンメイちゃんまで……どうしてここにいるのかしら。今この病院は少し立て込んでて危ないわよ?」

「それが聞いてよー。カルラちゃんと一緒に入って来たのにあの子すぐにいなくなっちゃうんだもん!死ぬかと思った」


アイナと言われた女性は、不自然なほど自然な仕草で雑談を始めた。


「カルラちゃんは人に合わせないわね」

「そう!ちょっと変わってるよねー。なに考えてるかさっぱりだし、正直同じ人間と思えない」

「あらあら、人間と思えないなんて。背中から翼を生やしているような生き物が人間なわけないでしょ」


ナターシャは管理室に向かって歩きながらアイナとひとしきり雑談に興じた。

リンメイはなにやら眼を遭わさずに僕を避けているように感じて、話しかけるのはやめておいた。


そして、管理室の前に着くと、ナターシャさんは扉を指差して僕に「切りなさい」と命じた。


「は?え?……了解です」


管理室の扉は鈍色をした重厚な金属製の扉だった。

手で叩いてみると、ほとんど反響がない。


「あの、これ分厚くないですか?一応やってみますけどね」

「とりあえずやる。後ろからマフィア達が来てるわよ」

「はあ」


文句を言ってみるもナターシャさんが話を聞いてくれるはずもなかった。


剣を肩に担ぎ思いっきり振り下ろす。ガン、と高くも低くもない音ともに剣を落としそうな程に手が痺れた。


「……うわ、傷一つついてない」

「イグレシアス君……」


憐れみのこもった目で見上げるナターシャにイグレシアスは慌てて抗議した。


「違いますよ!これは何かの間違いで、誰かが中で魔法をかけているんです!」


明らかに自然科学を超えた固さだったので魔法が掛かっているのは間違いない。そして、魔法が掛かっているということは誰かが魔力を流しているはず!

と、思ったがよく考えると中に人がいるはずがない。


「正解!旧館は古い施設だから何かと古い魔法が残っているのよ。それにしてもほんとに壊せないとは困ったわね。まさかイグレシアス君がこんなに役に立たないとは」

「ひどいです」


すかさず抗議するが、無視をされた。患者に対する扱いではなくなっているのは何故なんだ。


「ふーん?扉くらい開ければいいじゃない」


一方アイナはそう言って、鍵穴の前にしゃがみ込んで帽子の下から針のようなものを取りだしガチャガチャと弄る。すると、カチッとシリンダーが噛み合う音がした。


「ほら、簡単」


アイナが立ち上がり扉をむん、と力を込めて押すと埃を舞い上げながら内側に開いた。


「あーら、アイナちゃんこんなこともできるのね!イグレシアス君と違って」


この女医、酷い言いぐさだ。少し傷ついた。


「えへ、淑女の嗜みってやつです」


得意気にウインクするアイナ。


「なんだかなぁ……」


ピッキングができる女を淑女と呼ぶものか。

イグレシアスはため息を吐いた。


四人で管理室内に入り鍵を閉めた。ナターシャは早速計器類とスイッチが並ぶ管理盤を弄り始め、アイナはそれを興味深そうに見ていた。


「埃が大変ね。マスクを持ってくればよかった。構造解析……老朽化が目立つわね。魔力走査スタート……問題なし、操作可能。隔壁起動……失敗。魔力が足りない?嘘でしょお。……中央コントロール掌握。補助動力供給システム起動。蒸気圧は……ダメ、こっちも全然足りてない……けど」


ナターシャが管理盤の脇にある伝声管を開けた。それには「供給室」と銘打たれた薄い鉄のプレートがぶら下がっていた。

ナターシャは息を吸い込み勢いよく吐きながら真っ暗な伝声管の中に声を吹き込んだ。細く隔離された伝声管の中を音波がほとんど減衰せずに伝播していった。




リンダはボイラー室にいた。薄暗い室内には窓はないが、換気扇の付いた通気孔が一応ながら外気と繋がっている。部屋の中央にあるのは太いパイプや大きなタンクを脳ミソのしわのように繋ぎ合わせた巨大な機械だ。機械の中心部には40cm四方の観音開きの扉が着いており、中で石炭と火炎が大蛇のように渦巻いている。


リンダが率いるミズガルズ第二部隊は警備を主な任務としており、依頼に応じて作戦を立て、それを最終目標として臨機応変な対応をすることを旨としている。

リンダがアスクラピアの警備を請け負うに当たって立てた作戦はシンプルなもので、概ね三つの事柄だった。すなわち、1、人命優先。2、セキュリティルームの確保。3、ボイラー室の死守。この三つだった。


アスクラピアの収容者のうち5%は、重病人であり、自力で動くことはもちろん、生命維持装置無くしては生きることすらできない。ボイラー室はこのような重病人の生命維持装置に対して常にエネルギーを送っている。


現在、ボイラー室の外には5人の隊員がいた。彼らはマフィアと戦闘中であった。マフィアは決して接近せず、一定の距離を保ち一方的な射撃を繰り返していた。

時間を稼ぎされているらしいが、時間稼ぎをしたいのは

こちらも同じだ。今は5人に任せておいても大丈夫だろう。


壁際にある伝声管から声が聞こえてきた。プレートが掛かっておらず、どこに繋がっているのかは不明だ。


「ねえ、聞こえるかしら?こちらナターシャよ、ナターシャ」


ナターシャ……確か奇抜な髪をした女医だ。部下の間でも腕がいいと評判だった。


「あらー誰もいないのかしら。ねえー、誰かそこにいないのー?」

「……こちら、ボイラー室、ミズガルズ二番隊隊長リンダであります」

「リンダさん?良かった!そこにいるのね、今から隔壁を下ろしたいんだけど、手伝ってくれる」

「隔壁を?もちろんです」


アスクラピアから提供されたマニュアルによれば、隔壁を落とせるのはナースステーションからだ。だとすれば、この伝声管はナースステーションに?すでに占拠されたと報告を受けているが。


「じゃあ、よく聞いてね。そこにあるボイラーの圧力がどうも弱いみたいなの。2、4、6、8以外の圧力弁を全部閉めて頂戴」

「了解しました」


管だらけのボイラーの周りを回ってみると、12個のハンドルがあり、それぞれに1から12までの番号が振ってあった。

それを確認して、1、3、4、6、7、9、10、11、12のハンドルを回していると、伝声管からまたナターシャの声が聞こえてきた。


「リンダさん、少し急いでくれるかしら?」

「精一杯やっています。なにか問題が?」

「いえ……その、扉が破られそうなのよ」

「扉の外に敵がいると?どこです、部下を向かわせます」

「難しいと思うけど、旧館5階」

「……はぁ?」


そんなところで何をしているんだ、と叫びそうになった。


「分かっているわ。隔壁を落とせばきっと逃げられるから急いでね」

「了解しました。そちらには誰か護衛の者は?」

「イグレシアス君がいるわよ」

「ほう」


イグレシアス、特務部隊の生き残りだ。それならば安心はできる。第1部隊の戦闘力はミズガルズの中でも別格といってよい。特にその隊長であるアダムの異様なまでの強さは埒外らちがいだ。


だが、リンダはあまり第一部隊の仲間が好きではなかった。理解はできるのだが。ミズガルズはその大半が肉親を殺害されたもので構成されている。肉親を殺された者には概ね二つの感情が吹き荒れる。悲しみと怒り。

その後、悲しみを胸に立ち上がった者は二度と同じ悲しみを味わわないように自分とその周りの人を守ることを誓い、悲しさを優しさに変換していく。リンダはこちらだった。殺させない。その為に剣を握り強くなった。

その一方、怒りを胸に立ち上がった者はその怒りを憎しみの炎にくべて、更なる復讐の鬼と化す。

第1部隊は後者だ。明日を捨て今を見ず、過去に生きる者たちだ。彼らの目の奥には常に昏い炎が燻っている。彼らを守ることはできない。彼らは彼らを守る者すら焼き尽くすことを躊躇わない。


「できました。ナターシャ先生、出力は十分ですか?」


計器を見たところ、針が完全に振り切れており今にもパイプが壊れてしまいそうだった。


「結構来てるけどまだ足りないわね。仕方ない、壊れるから使いたくなかったんだけど、12番のバルブを開いてタービンの側にあるレバーを引いて、予備タービンにこの触媒を突っ込んでくれるかしら」


伝声管から風が吹き出して棒状の触媒が飛び出てきた。ナターシャが伝声管の反対側から送風したのだろう。

それを予備タービンの中央部に繋がる怪しい箱に差し込み魔力を込める。


「あとは、どのレバーを引けばよいのですか?」

蒸華結晶じょうかけっしょうと書いてあるわ」


蒸華結晶?聞いたことのない単語だった。

そのレバーを引くと予備タービンと主タービンの歯車が噛み合い、軋みをあげながら予備タービンが強引に主タービンを加速させていった。


「完了しました」

「確認したわ。出力十分、隔壁を下ろします!えい!」


加速していたタービンが莫大な負荷に一瞬止まり、低い地鳴りと共にまたゆっくりと回り始める。

地鳴りはタービンから順に広がり、アスクラピア全体を揺るがせた。そして、10cm程の厚みを持つ鉄板が降りてきて、あるいはせりあがって扉を塞ぎ通路を隔離していく。その際隔壁は度々火花のような閃光を発して現在の魔力回路を引き裂いていった。


これが……隔壁だというのか?

これはまるで――


リンダは目の前の光景をどのように表現するか迷った。要塞?牢獄?それは、ただの病院には余りにも過ぎた設備だった。




管理室の扉にも隔壁は降り、破られそうだった扉はもう人間の力ではどうにもできない壁と化した。

隔壁には本来ならば魔力を循環させて強度を上げるのだが、魔力が足りず蒸気圧で稼働させたので分厚い金属の壁でしかない。もっとも、易々と人力で貫ける厚さではない。


ナターシャはアスクラピアが建てられた当時の状態に戻ったことを確認して、再度コンソールに魔力を流し込む。隔壁を下ろすことにより、医療機関としては必要がないとオミットされていた館内の魔力回路は初期の機能を取り戻したはずであった。


「システム稼働率45%……劣化が心配だけれど、防衛プログラムはまだ残っているわね」

「防衛プログラム?ここ病院でしょ?」


首を傾げるアイナにナターシャは曖昧な笑顔で答えた。


「今はそうね。けど、昔は病院じゃなかった。野戦病院ではあったかもしれないけれど、どちらかというと最前線基地ね」

「ほんとに?そんなこと聞いたこともない」

「けどほんとよ。私見ていたもの。誰も知らないくらい遠い昔のこと。だから、魔物を逃がさないための防衛設備があるのよ」


ナターシャがコンソールを操作すると、管理室の天井の隅が開き、機関銃が姿を表した。


「人間に自動照準は機能しないか……」


ナターシャはそう呟いて、更にメインモニターを起動させる。メインモニターには複数の画面が表示され、アスクラピア内の悪虐の所業を順番に表示していた。


「何これ?映写機?リアルタイム?」

「モニターですね。企業の護衛で観たことがあります。だが、こんな古びた施設にあるようなものじゃないでしょう?」


埃は雪のごとく積もっており、この部屋が相当期間使われていなかったことを示している。モニター技術は最新であるため、この部屋が使われていたときにモニターが設置されていたとは思えない。


「うふふ、これは企業製のモニターとは少し違うの。魔物の生体を繋げて出来た偶然の発明品よ。さあ、もうじきミズガルズの本隊が来るはずよ。そしたら、この馬鹿げた騒動もおしまい。それまでに数を減らしとかないとね」

「ナターシャさん、その機関銃で侵入者を皆殺しにするんですか?」


イグレシアスが神妙に尋ねた。医者が人の命を奪うのか、と。

暴力はそれを行使する者にとっても痛手となる。人が暴力を行使するにはそれを正当化できる思考が必要だ。……正常ならば。


「大丈夫よ、シンレンマフィアよりは私の患者の方が大事だから」


ナターシャは天使のように微笑んだ。それから、カメラと接続した左脳解析装置で、隔壁により分断した通路内に立ち往生しているマフィアに機関銃の照準を合わせる。うっかり患者を標的にしてしまわないように細心の注意を払う。


「掃射」


機関銃から弾丸が発射される。その威力は過大であり、人体の弾性を軽く凌駕し、着弾と同時に被弾者を引き裂いた。モニターからは赤い水を貯めた水風船が破裂しているように見えた。


モニターが次の通路に切り替わる。


「掃射」


隔壁により閉鎖された通路内で困惑するマフィア達が瞬時に肉片へと転じる。

人体はその大半が繊維に似た構造をしている。細い物が当たれば繊維を切って通り抜ける。しかし、一定程度太い物が当たれば繊維を切るのではなく、引きちぎることになる。

機関銃に込められている弾はおよそ20口径であり、それは皮膚繊維の間を通り抜けるには太すぎた。


「……掃射」


アスクラピアの防衛設備は対人用ではない。大陸に突如現れた「大地の穴(グランドホール)」発見当時、魔物研究の為地下道に収容した魔物が脱走した際に運用されることが予定されていたものだ。また一人患者に暴行していたマフィアを血煙に変えた。


「これは……我らが砦にも欲しいな」

「いい記事が書けそう!」


イグレシアスは感嘆し、アイナは飛び上がって喜んだ。

リンメイは機械的に処理されていくマフィアを大きく目を開け身動きなく注視していた。


「掃射……あれ?これなに、どうしてここに……?」


ナターシャの操作が止まる。モニターに異様な物体が表示されていた。


それは灰色の皮膚を持っていた。全身は厚い筋肉に覆われ顔には目も鼻も耳もないが大きすぎる口と霊脳核は確認できた。そいつは隔壁を拳で破壊した。機関銃による弾丸をその皮膚で防いだ。そして、肩から先だけを動かしてカメラと機関銃を破壊した。


モニターが暗転する。スピーカーからは耳をつんざくような悲鳴が幾つも聞こえてきた。ナターシャの顔が蒼白になる。セキュリティルームの壁が壊されたのだ。

週刊Another 勝手にお悩み解決コーナー


えっと、本日のお悩みはこちら。


『ウララ 女性 年齢は秘密 女性管理職をしているのだが、最近部下に怖がられている気がするのだ。今後とも職場で上手くやっていきたいのだが、何か良い方法はないだろうか?』というご相談です。


えー、なおこのご相談はタイムズに投函されていたのをパクってきました。……なかなかうちに投函してくれない読者の皆様が私たちにこんなことをさせるのです。ああひどい!もっと私たちに相談してくれてもいいんですよ!


では、早速お悩みの解決方法を考えようかと思います。


部下に怖がられている、ということですねー。


あー仕事場の人に悪感情持たれると何かと厄介ですもんね。


そういう時はやっぱり根本的な原因の排除をするのが手っ取り早いと思います。相談者様は上司なのでうざい部下はすぐにクビにしちゃいましょう!

きっと部下にとっても怖い上司の下で働くよりも新しい職場で働く方がいいと思いますよ!


では、また来週!


アイナ「こんな感じでどうでしょ?」

ラカン「君はこんな感じだから友達がいないんだよ?」

アイナ「だってあたし部下もいないし所長も怖くないし相談者なんてどうでもいいしー」

ラカン「私が君をクビにしたくなってきたよ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ