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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン都市ドミニオン
28/56

一時曇り

雨の合間は待つ時間

ピンポンピンポンピンポンピンポーン。


「やかましいわクソボケぶち殺したろかおおおおん!!????」

「兄貴ぃぃぃぃ!入っていい?」

「おう!アインか、ええぞ入れ」

「うぃっす」


西区の南に建てられたペル・M・ツァルカ邸は一際目立つように派手な原色で塗りたくられ、小さな丘の上から西区を見下ろしている。

その邸宅の窓から特徴的なオレンジ色の髪をした頭を突き出したツァルカはアインを一目見るや嬉しそうに守衛に指示を出して門を開けさせた。


「お邪魔しまーす」


アインが扉を開けながら元気よく挨拶する。


「邪魔するなら帰れアホンダラ!今、茶ぁ淹れたるさかい待っとけ。お、サクマもおるんか!コイツのお守りは大変やろ」

「いえ、滅相もございません」


サクマが恭しく頭を下げる。

それに軽く頷いてツァルカは奥の方に入っていった。


内装は金色がやたらとふんだんに使われていて、あからさまな成金趣味だった。その上、壺や掛け軸や絵画や、よく分からない半裸の男女が絡み合った銅像、毛皮、剥製、ところ狭しと「高そう」な物が飾られている。


「なにしとんねん、はよ来い!時は金なり Time is money 早起きは三文の得やで」

「うっす、今行きます」


間仕切りの暖簾を潜ってリビングに入る。


「ほれ、座れや」

「あざっす、失礼します!」

「おい、ミランダ、茶ぁ持ってきて」


しずしずと湯呑みを乗せた盆を持ってきたのは、白磁の肌を持つ大人になりきれていない少女。

少女は湯呑みを置くとすぐに奥に戻っていった。


「うわ、誰っすかあの美人さん?」

「あん?知らんのか?最近ジャグラスが仕入れてるっちゅう変わったオートマタやで。ドゥベスに言うて横流しさせてん。調整してへんとか言うとったけどな」

「へぇ、知らね。なんだオートマタかよ」

「妙に高性能でな、解体しようとしたらめっちゃ嫌がりよるねん」

「オートマタがですか?」


サクマが横から驚きの声をあげる。


「おう。まあそーゆーん好きな奴もおるからなー。何か俺も愛着湧いてきてミランダって名前つけてもうた」

「オートマタに人名ってちょっとマニアックっすね」

「うるさいわアホ!可愛いんやから仕方ないやろ!それより、最近はごっつ寒なってきたからなあ、茶ぁ飲んだらどうや?暖まるで」

「そうっすね」


アインヘルがグビッと一息に飲み、サクマはそろりと一口飲んだ。


「どや?最高級の茶葉をノランの北から取り寄せてん。なんやよう分からんけど、新しい品種の癖にばか売れでめっちゃ品薄になっててもうどこにも出回っとらんねやと」

「へえ、そんな美味い感じじゃなくねぇっすか?」

「アホ!お前そんなんやから、そうやんな。やっぱそんなうまないよな。これがそんな売れるとは思えへんのよ」

「……さすが若頭です。普通に美味いと思いました」


サクマが縦に長い体を縮こませて湯呑みを置いた。


「アインはこんなちっさい頃からええもん食わせてもらっとるからなー」

「そんなんじゃ……まあ、そうっすけどね。初代の孫ってんでみんないいとこ連れてってくれましたし」

「まあ、それは置いといて、この茶あや。そんなええもんやないのに、一度飲んだらまた飲みたなるんや、これ」

「へえ、そんなもんすか?わかんねぇな」

「……」


サクマが眉をひそめる。


「それって……あの薬と――」

「せや!よう気付いたサクマ!」


パンっとツァルカが手を叩きサクマを指差した。


「せやねん、こいつはあのけったいな白い薬とよう似とる!やからのう、多分恐らくやで?あの薬はノラン農業国で栽培されたこの茶葉から抽出したもんやと思うんや、知らんけどな」

「ノラン農業国……そういや、最近あっちからいい噂聞かねぇなあ」

「まあ、それだけやねんけどな。で、何や?今日はどないした……つってもあれしかないよな」

「はい、今日は頼みがあって来ました」

「待て。それはどうやってやるかの問題やな。その前に簡単でええから、何がしたいんか、なぜしたいんか言うてみい。それを聞いたら考えたる」


オレンジの髪を掻き上げて、ツァルカが言った。


何がしたいか、なぜしたいか。

決まっている。


「俺は、俺は四代目になりてぇ。四代目ロン・シンレンになりてぇ」


なぜか。


「んで、そりゃ俺がファミリーを好きだからだ。ファミリーは俺の家で家族だ」

「……」

「だから、えっと……そこには俺のよ、心っつうか?魂?が、あるんだよ」

「……」


ツァルカは喋らない。そして、鋭い目付きで先を促した。心や魂なんて曖昧な言葉を許さない。

ツァルカは知っている。アインヘルは馬鹿だ。少し思慮が足りていない。

――だからこそ、アインヘルは飾らない言葉を持つ。シンプルな思いを、誰もが納得する本当の自分を伝えることができる。


「あー……うん、分かった。俺たちはみんなはぐれだ。誰かを傷付けずにはいられなくて、何処にも行けなくて、まともに生きれねぇ奴らが集まって、慰め合って、傷付け合って、最後に辿り着いたのが俺たちだったんだ。ただ、一緒にいる。家族なんだ。だから、俺が言いてぇのは、家族がバラバラてのは悲しいってことでよ、ジャグラスのやり方じゃあ、金だけの繋がりじゃあ遠いんだ。他に居場所がない俺たちなんだ。じゃあせめてよ、隣にいる奴の温度が感じられるくらいの近さにはいてぇじゃねぇか」


アインヘルが決意を露にする。


「だから、俺はファミリーが一緒にいれるように、ロン・シンレンになって、ファミリーを護りたいんだ」


少し言葉足らずだが、ツァルカは、合格と判断した。少なくとも自分の心は動かされた。


「……家族、悲しい、温度ねぇ。ええぞ、お前の気持ちワシにはよお伝わった!せや、シンレンマフィアは元々は単なる互助組織、みんなのために金を使うのがモットーや。企業やあらへんねやから、金稼ぎに夢中になったら本末転倒ってなもんよ!ほら、何が欲しいんや?言うてみ?」


アインヘルが喜びに涙を流し破顔する。


「ありがとう、兄貴!」

「ぶっさいくな顔しよってからに、男が泣くなアホウ」

「はい、兄貴!」

「よし、じゃあ何が欲しいんか言うてみろ」

「うん、俺が欲しいのはよ、かっちょいい鎧と武器が欲しいんよ!」


アインヘルの真剣な顔にツァルカはキョトンとして応じる。


「はあ?何の意味があんねんそれ」

「えっと、ファミリーってみんなバカだからさ、見た目派手にして一発ぶちかませば着いてくるんじゃねぇかと思ってよ」

「……お前って奴はやっぱりアホやな」

「何だよ、兄貴」

「お前なあ、そんなんでどうにかなるわけないやろ!イッチバンかっちょええ鎧探しといたるわ。やっぱトゲが生えてて、マント着いてる方がええよな」

「さすが兄貴だぜ!そんで武器はやっぱり」

「「ドリル!!!!」」




ここ数日、教会の監視を頼んでおいたのだが、牧師は帰ってこない。どうやら奴は戻ってこないようだ。

仕方がないので、緻密な内部調査に移ることにした。のだが……――


「待つのじゃ、カルラ!」

「待たないわ!ケント、これはどういうこと!」


カミソリのように鋭い蹴りが首筋を狙い、カルラの足に着いた土が顔に当たる。


「答えによっては許さないから!」

「それはのう」


シアンが止めに入るが、カルラの素早い動きについていけない。


「職務上の秘密ですので」


カルラの蹴りを軽く首を振ってかわした。


「それはお答えできません」

「これは命令!」


幾度も振り回される手足を、最小限の動きでかわす。傷付けないように止めるにはどうすればいいのか。


「あたしの言葉はジョシュアの言葉なんだから!!」


ふむ、ジョシュアは雇い主だ。彼の命令とあらば、私はできるだけそれに従うべきだろう。そして、ジョシュアは養女であるカルラの尻に敷かれている。カルラの言葉がジョシュアの言葉とは、大いに説得力のある言葉だ。


ズガン。


「あ」

「愚兄ぇぇぇぇい!?」


カルラの超硬度を誇るしっぽが顔面に炸裂した。

頭が千切れ飛ばないように全力で後ろに飛ぶと、体が風車のように軽々と回転して吹き飛んだ。


ズガン。


教会の庭に植えてあった樹にぶち当たり、樹がへし折れる。


「……あー、ごめん。大丈夫?」

「ぬう、顔が……うわあ」


うん、少し痛いが大丈夫だよ、シアン。

どうやらカルラも落ち着いてくれたようだ。首を振りながら立ち上がった。左目は一応大丈夫。首の筋肉、胸鎖乳突筋がほぼ断裂していたので応急処置としてネキア肉で修復する。


カルラの鱗に覆われた翼と尾は明らかにドラゴンを彷彿とさせる。

なのに、ジョシュアとの血の繋がりはないらしいが、詳しいことはよくわからない。


「大丈夫だ。カルラちゃんはどうしてここに?」

「それよ!」


カルラの目は白目に当たる部分が黄色く、爬虫類のように瞳孔は縦に裂けている。その目が細く睨んでいた。


「どうして、カリオスがここにいるわけ?」

「どうしてって……」


教会の陰を見ると、カリオスが俯いてバンダナを弄っている。何とも情けない立ち姿だ。あの男、天下一の盗賊とのたまいながら呆気なくバレたのか。


「ケイトを見張ってどういうつもり?」


そう言えば、ケイトはカルラの友人だったな。


「違うんだ、ケイトを見張っていたわけじゃない」

「じゃあ、なに?」

「それは……」


言い淀んだところで、教会の扉が開かれ、中からケイトが飛び出してきた。


「な、何の音ですか!?あれ、カルラ!それにシアンちゃん、ケントさんも……」

「ケイト!元気にしてた?」


ケイトが、翼を縮め尾を細くしたケイトに抱き付かれて顔を赤くする。


「ええ、元気にしてたわ。それでどうしたの、さっきの音は。ケントさんの顔が腫れ上がってる気がするのだけど」

「私は大丈夫だ。そうだな、ケイト。君の依頼とも関係する話だ。中に入ってもいいかな」


依頼と聞き、ケイトの顔が強張る。


「カリオス、あなたも来て下さい。頼みたいことがあります」


答えは聞かずに教会の中に入り、応接室に向かう。教会の間取りは空き巣に入った時に覚えていた。

応接室に入り、ふわふわのソファに座る。皆も座ったのを見てから話し始めた。


「まず、最初にケイトの依頼はまだ達成していない」


怪訝な顔をするケイト。


「今日の報告は犯人を突き止めたということです」

「犯人……?」

「ケイト、君はもう予感しているんじゃないか」

「……」

「牧師が犯人だということにね」


ケイトの顔が青ざめ、ギュッと拳を握る。


「……どういうことですか?」

「この教会の孤児たちを殺していたのは、牧師だと言っているんだよ」

「嘘です、そんな……!だって」

「牧師は悲しんでいたか?」

「それは、祈祷の言葉を……!」

「どうせ、食前の祈祷の一部だろう?」

「そうですけど……」

「殺しただけじゃあない。奴は人を食うことに興奮を覚える変態だった」

「嘘、嘘です!」

「嘘じゃないさ。君は奥の調理場に入ったことがないだろう?」

「調理場に入ったことは何度も!」

「奥の、さ。解体作業をするところだ。頑丈な鍵がついていた」

「……」


口ごもるケイトに畳み掛ける。


「他にも事実はある。サハムが連れ帰った白い鳥。あれは骨鷲ほねわしという種だった。魔石を持ち、人骨を好んで食らう場合がある。骨鷲はあそこでスープのガラにされた人骨を食っていた」

「……」

「だが、一番は味だな。雑食動物には独特の臭みがあるんだよ。牧師は上手に消していたが、私の舌は誤魔化せない」

「……けれど私は――」

「そうだ、君は食われていない。君より年上は皆いなくなったのに」

「皆は働きに出て……」

「君だけが残ったのは、何てことはない。君が牧師のお気に入りだからだよ。牧師は君を……あー、伴侶とするつもりだったのだろう」

「嘘、嘘……」


震える指を握りしめるケイト。カルラは気遣わしげにケイトを見るが、何も発言する気はないようだ。


神胚かみはらを宿すほどの篤い信仰心だ。常軌を逸してなければ、説明がつかない。私は牧師を殺そうと思う。君が依頼を取り下げようと、だ」

「でも、だって……牧師はパパで――」

「一緒に生活していたんだ。不自然なところもあったんじゃないか」


ケイトは歯を食い縛り下を見る。

……とりあえず、ケイトに言うべきことは終わった。


「カルラちゃん、まあそう言うわけだ」

「うん」

「見張っていたのは、ケイトじゃなくて牧師の方だよ。戻って来なかったけどね」

「それは嘘。ケント、あんたケイトをえさにして牧師のおじさんをおびき出そうとしたのね」


……聡い子供だ。


「まあ、そうとも言う」

「え。赤目の旦那、保護してくれって言ったのに」

「あながち間違っちゃいないだろ」


カリオスは盗賊のような面をして、これでなかなか善人だ。餌にするとか言うと協力してくれない。


「最低」

「同感でさあ」

「我もそう思う」


シアンまで敵になったとなると、もはや頭を下げるしかない。素直に「ごめんなさい」と言っておいた。


「それで、カリオスにはもうケイトの監視はいいから」

(監視と言いおったの)


シアンの突っ込みは聞き流した。


「レイチェル・アンって奴に会いたいからどこにいるか調べてもらいたい」


カリオスが渋い顔をする。


「赤目の旦那、そりゃあねぇ。今度は理由を正直に言っていただきてぇものですな」

「ほう、いいだろう。牧師はシンレンマフィアの殺し屋をやっている」


またケイトの顔が青くなる。


「牧師に近付くためにはシンレンマフィアに近付く必要があるが、奴は地下に隠れている。そこで、レイチェル・アンが奴らの行方について何か知っていると聞いた」

「なるほどね、だがあんたが本当のこと言ってるか――」

「ケイトの依頼を達成するためなんだよ、頼むよ」


チラッとカルラを見てみる。すると、


「カリオス、行ってきて」

「はい?竜のお嬢ちゃん、けど――」

「行くの!」

「へい姉貴!……っと、何で俺があ」


ぶつくさと文句を言いながらカリオスは応接室を出ていった。


「ねえ、あたしの回りにいる人に嘘は吐かないで。今度も嘘だったら、ほんとに怒るからね」


静かに、カルラが言った。


私は一言、「怖いな」と返した。


「ケイト。牧師の部屋をあらためさせてもらうよ。シアン、行くよ」


ケイトをカルラに任せて牧師の部屋に向かう。

奴の部屋は長い廊下を渡り、以前食事を取った部屋の先にある。


黒檀のような扉を軽く押してみるが、鍵が掛かっている。

壊してもいいのだが、シアン、頼んだ。


「よかろう」


シアンが爪先を扉の下の隙間を押し込むと、体の先から闇に変わっていき、瞬く間に姿が消える。

そして、ガチャっと扉が開く。


「待たせたの」


シアンに感謝して先に進む。

そこから先は明らかに金の掛けようが違った。キャンドルスタンド、振り子時計、揺り椅子、調度品の一つ一つが洗練されている。壁にある無数の本は宗教関係のようだ。

その中から一つはみ出た手紙を見つけた。イディアック共和国からだ。


『イルファストス・ゾルベルトへ

君が生きていることは以前から知っていたが、君が一人で出ていったことを尊重して僕たちは君に連絡を取らないことに決めていた。

しかし、事情が変わった。

だから、誰よりも彼女の近くにいて、彼女の最期を看取り、誰よりも彼女を愛していた君に、この手紙を送ることにした。


僕たちは決起するよ。彼女が夢見た、子供が愛される世界のために。

計画はずっと前から綿密に組み立ててきた。彼女の遺産を有効に使い、僕はこの国の全てに手が届くところに来た。そして、最近とても強力な支援者を得ることができて、あと一歩でこの国を僕たちの手中に収めることができるんだ。


その時君が近くにいてくれたら嬉しい。

レイモンド・ゾルベルトより』


何の話かよく分からない。だが、イルファストスというのは恐らくあの牧師のことだろう。


ふむ、マフィアについての情報は見当たらないな。

机の引き出しを見てみると、幾つかの冊子があった。その端にあるものを抜き出す。

やはり帳簿だが、何も不自然なところはなく、寄付金額が書いてあるだけだ。これじゃない。

他にあるのは……高そうな壺。0.5m程と、よく見るサイズのものより少し大きめだ。覗き込んでみると冊子が二冊入っていた。

裏帳簿だった。世界を移っても帳簿の隠し場所は変わらんようだ。


ざっと見ていくと、日付、依頼人、標的、報酬と色々詳しく書いてある。意外と几帳面なタイプなのかもしれない。


依頼人は圧倒的にマフィアが多いが、それ以外もある。完全に専属というわけじゃないのか。


「っ!」


あった。

依頼人八百組ヒルコ、標的ゾルエフ、報酬360万エリス、注:案内のみ。

もう一方の冊子は業務日誌のようだ。

日付を確認して読んでみる。


『依頼人に同行してギルドに潜入。白犬が複数いたが、手を出す暇もなく依頼人が始末した。驚異的な格闘能力。逆らうのはまずいと思われる。

標的の部屋まで容易く進む。標的の姿を確認すると見張りに立たされた。秘密の話があったらしく、数分の問答が聞こえた。内容は不明。標的の首だけを持ち出してきた。血がしたたらないように処置してギルドを脱出する』


驚異的な格闘能力、という部分に興味を引かれる。ケントの中で強さの象徴は常に加納敬志だった。驚異的な格闘力とはまさにあの男を表現するに相応しいように思う。

ヒルコ……覚えたぞ、その名前。

他に何か、ジャグラスの居場所に繋がりそうな情報を探してみるが出てこない。


足音がして振り返ると、二人の少女がいた。

片方は普通の人間のようだ。もう一方は耳が尖っていて手足と首に毛皮がある。

そこを除けば二人は黒髪で同じ水色のワンピースを着て、背格好も同じ。双子のようだ。

リンメイと共に囚われていた少女達だった。


「君たちは……」

「アリサ」


人間の方が答えた。


「サリア」


獣人の方が答えた。


「ケイトにここにいるって聞いてきた」

「ありがとうって言おうと思って」

「ここは良いところだわ」

「屋根があって」

「食べ物があって」

「暖かい」

「私ここ好き」

「私も好き」

「だから、私たちここにいることに決めたわ」

「連れてきてくれて、ありがとう」


言うだけ言って、二人は帰ろうとしたので「待ってくれ」と、呼び止めた。


「どうしたの?」

「何の用?」


呼び止めてみたものの、どう切り出せばいいのか。きっと何も知らないだろうし。


「……君たちは、あそこで何か、マフィアの行方について聞いていないだろうか」

「知らないわ」

「あそこにいたのは少しだけ」

「出ようと思ったらあなたが来た」

「……そうか、すまなかったな」


答えると二人は立ち去った。


「変わった二人じゃの」

「そうだな」


シアンがぽろりと漏らした一言に肩をすくめて答えた。




もう当分太陽を見ていない。

時間の感覚も砕け散り、回転が鈍った独楽のように意識が揺らめいている。だが、それももう少しのはずだ。


「おい、てめぇ。今入ってきたお前だ」


地上への連絡役の一人が部屋を通るのを見て呼び止めた。


「……へい、俺っすか?」

「今、上はどうなってる?」

「スラムですか?9割は占領された感じっす」

「……占領って言ったな?それは、留まってるってことだよな?」

「へい、70人くらいで見回りしてますんで上がるのにも一苦労で」

「おう。シゴトに戻れ」


今ならどこの警備も手薄だ。ジャグラスが人知れず笑う。

サハム「アリサ、サリア!ご飯できたよ!どこにいるの?」

「「ここ」」

サハム「キッチン?」

「「うん」」

サハム「なにしてるのー?」

サリア「ここ、血の匂いがして落ち着くの」

アリサ「奥でいいもの見つけた」

サハム「なぁに、それ?」

アリサ「武器!……調理器具?」

サハム「何か怖いね」

サリア「そうでもない」

アリサ「男がそんなこと言うな」

サリア「男は強い方がいい」

アリサ「これ食べろ」

サハム「何これー?お肉?」

アリサ「奥で見つけた」


ケイト「っ!(蒼白)」

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