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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
ダンジョン都市ドミニオン
25/56

牧師

親はなくとも子は育つ。食うことさえできれば

イディアック共和国。ヴェルギア大陸の大部分を占める二大大国うちの東の雄である。ここでは、国民の選挙によって近代的な民主主義政治が行われている一方でその発展の礎として奴隷制度が普及しており、周辺諸国、特に亜人種や極東の民が奴隷売買の対象となっていた。


牧師はそこで奴隷の母と主人である男との間に生を授かった。


子供は血の一滴ですら奴隷の血が入っていると認められれば奴隷としての身分が確定される。母親が奴隷である牧師も当然奴隷となった。彼の主人に子に対する慈悲はなく、牧師は出生から10日後には底辺の奴隷養成施設に送られることになった。最低限の栄養、最低限の衛生。6歳になる頃には彼は「教育」によって全身に傷を負いつつも従順な奴隷に仕上がっており、主人の元に送り返された。


彼はそこで更に6年を虐げられながら暮らす。母親も6年経っていては子に気付かない。牧師も母親を知らず、主人も親を教える必要性を感じていなかった。奴隷は生きた道具でしかなく、労働力でしかなかった。奴隷に希望はいらない。奴隷に可能性はない。何も感じてはいけない。そもそも、何かを感じるようには育てられなかった。


「子供のうちから育てれば人は犬にだってなる」


養成施設の職員が楽しげに言っていたことを牧師は覚えている。


月が雲に隠れた灰色の夜、一年で最も寒い日に牧師は12歳になった。奴隷小屋の壁の隙間から覗く雪は白いというよりくすんで見えた。


音。栄養が足りず体温が上がらない中、牧師は新雪を踏み締めるシャリシャリという音を耳にした。

皆が寝静まったこんな夜中に、誰かが屋敷に向かっている。何故か見に行くことにした。牧師は何重にも巻いた毛布を脱いでそれを藁でできた寝床の側に置いて奴隷小屋から出た。足元には雪。ボロボロの靴からは融けた雪が染み込んで来たが寒さにはもう慣れていた。


屋敷の側に女が立っていた。女が飛び上がって屋敷の窓ガラスを割りながら侵入していった。屋敷の中から主人の悲鳴が聞こえたが、身動きせずに割れた窓ガラスを見ていた。すると、窓から主人の生首が落ちてきた。


生首が雪の上に落ちて赤い染みを作りながらゆっくりと転がった。雪の上に落ちたせいかバウンドはしなかった。生首と目があった。主人が死んだことを認識した。認識したからといって感情は動かなかった。養成施設によって感情は封印されていたからだ。


「……おい、お前奴隷だろ。見た通りお前の主人は死んだぜ」


上を見上げるとさっきの女が窓から体を出して見下ろしていた。窓の縁に掛けた手には血のついた鉈が握られている。


「だから、お前はあたしの物だな」


女はそう言い切った。

彼女は大量の食物を袋に詰めて窓から飛び降りた。そして、奴隷小屋の中を覗き込んだ。


すると、牧師の母親が叫びながら飛び出して女を釘の刺さった木片で殴ろうとした。真意は分からないが、牧師の母親は主人を大切な人間と思い込むしかなかったのかもしれない。しかし、女はあっさりと哀れな女奴隷を鉈で切り捨てた。

その日から牧師は彼女の所有物となった。


それから更に6年、牧師は彼女について富裕層を荒らしながら生き延びた。彼女は時に皆殺しにしたが、子供を見ると所有物として持ち帰り、教えを施して育てることもあった。誘拐された子供達の多くは結局彼女を慕った。


彼女は生きることに執着した人間だった。自らの命を長らえる為ならば他者の命を犠牲にすることを躊躇わなかった。しかし、その冬の日、彼女は失敗した。片足を失い、牧師と共に山の中に逃げ込んだ。何日も山を巡り、二人は飢えた。冬の山には食べ物も動物も魔物もいなかった。牧師は自らの右腕を切り落として彼女に食わせたが、それでも彼女は弱る一方だった。そして、彼女は牧師の目前で死んだ。その時、彼女は「私を喰らえ」と言った。牧師はその通りにした。その時初めて牧師は彼女を愛していたことに気付いた。




牧師の左拳を払い、触手で打ちすえ内臓を突き刺すような蹴りを放つ。ガン。やはり異常に堅い。分厚い鉄板のような感触。押し込むことができずに姿勢を崩しそうになる。


ならば――


ケントに隙を見た牧師がワンツーと鋭く拳を突くのに合わせて、ケントが直撃だけは防ぎながら牧師に飛び込む。タックルができる姿勢でもなく、威力あるパンチを出せる有効射程でもない密着距離。牧師の肘がケントの頭部に降り下ろされる寸前。


はっ!」


右拳を相手の胸に押し当てて、固定。感触はまたも堅い。地面を踏みつけると同時に体を沈めて浮いた体重を右手に押し込んでいく。すなわち、骨盤に溜まる胃、小腸、大腸やら内臓と血液の重量を脚と体幹の筋肉で揺り動かしてベクトルに変え、そのベクトルを腹斜筋、腹直筋、広背筋や脊柱起立筋群を伝って背骨や肋骨に流し、そこから一気に肩甲骨、鎖骨、上腕骨、前腕骨を辿って力を対象に徹す。


きぇい!!」


――発勁はっけい


肘が降り下ろされる寸前に牧師がワイヤーアクションで後ろに引っ張られたかのように吹き飛んだ。


何とか上手くいった。呼吸法を活用できればもう少し威力が出るはずだが自己流の発勁ではまだまだだ。そもそも、右手と背中からしか発せず、相手がほぼ静止していないと使えないのだからかなり褒めてもいいくらいだ。


発勁。体内で重心を高速で移動させることにより破壊力を得る打法。その中でも浸透勁と呼ばれるものは発勁を対象に密着した状態から放つものである。その特徴は、人体を水の入った袋として捉え、発勁を波と考えることにある。故に、浸透勁によるダメージは接着した部分には表れず体内で波がぶつかった部分にこそ表れる。


だが、牧師は空中で姿勢を立て直し、無事に着地した。


「……」


ケントは閉口して、思考した。


牧師は背中から引っ張られたかのように吹き飛んだ。すなわち、浸透勁の波が体内に留まらずに背中から綺麗に抜けていったことを示している。まるで、鉄塊のように体内が全て均一の密度であるかのように。少なくともまとまな人体の手応えじゃない。


皮膚の表面だけじゃなく、皮下脂肪、大胸筋、肋骨、心臓、肺、気道、全部が堅くなっているのだろう。

その一方、触手で打った感触からすると普段は普通の肉体と同じように柔らかいようだ。

堅さを自在に変化できる能力、ということか。


表皮を硬くする魔法ならあるが、体内まであれほどまでに堅くする魔法は『魔法別触媒一覧』にも載っていないし、そもそも魔法の範疇を超えている。では、改造手術オーグメンションの産物かというと、あのような特性を持つ魔物も『魔物図鑑』にはない。

あれはどちらかというと、ネキア肉に近い特性だと思う。


(恐らく、その通りじゃ)


どういうことだ?


(硬化能力はゼルエムの加護がもたらしたものじゃろう。あやつにもお主と同じく神胚かみはらが宿っておる)


神胚?


(ネキア肉のことじゃ)


じゃあシアン、何とかできない?


(わからぬ。ただ、最後の一撃は心臓に放つのがよかろうな)


ふーむ、承知。


左腕の見た目を変えずに内部構造を複雑に変化させる。よし。


牧師が埃を払いながら立ち上がる。


「ンー、面白い技術ですね。極東の――」


牧師の発言を無視。

床を砕く勢いで踏み込んでケントの左拳が牧師の顔面に向かう。対する牧師は危なげなく右手でそれを捌こうと動く。


今だ、展開!


その瞬間ケントの左拳が上下に裂け、上が牧師の顔面を握り潰そうと覆い被さる。牧師が驚きに目を見開いて固まる。


「ン゛」


牧師が呻く。その太腿には左拳の下半分が突き刺さっている。


驚いたろう。左腕がここまで変形する付加器官オーグメントは自分以外には見たことがない。更に左拳で殴る動きはすでに何度も見せている。その上で、上半分で視界を隠してからの攻撃だ。


更に太腿を破裂させるべく突き刺さった部分をつぼみのように開こうとするが、一瞬早く牧師の全身が堅くなる。


想定通り、硬化した関節は曲げることができなくなり、また、自動的に硬化するわけではない。もっとも、攻撃が触れる瞬間、反射的に硬化するほどに熟練しているようだが。


この一瞬を待っていた。


牧師は極力全身を硬化させず、素手で攻撃を捌く。

それは、全身を硬化させれば一瞬身動きが取れなくなりカウンターの選択肢が著しく狭まるからだ。それは文字通り一瞬であり、狙わなければ利用できない隙だが、一瞬のうちに勝敗が決まる戦闘の場ではそここそが勝敗を決める一線。


その一線を踏み越えて、牧師の左腕を掴み引っ張る。二足歩行はバランスが危うい。特に足を動かせない状態ならば、倒れる他にない。

硬化されると牧師には斬撃も衝撃も刺撃も効果がない。貴様に効くのは――絞め技だ。


牧師は硬化を解いて踏み留まろうとするが、ケントの手により阻止され受け身を取らざるを得ない。そうして、倒れた牧師の首に目掛けて前腕を降り下ろし、押し付けてそのまま全体重を掛けたギロチンチョークに移行する。気道を塞ぐのに必要な体重は僅か15kg程度、頸動脈を塞げば通常7秒程度で失神に至る。


「ン゛ン゛ン゛!!」

「死ねえええええ」

(むむ、死なせては話が聞けんぞ)


触手と左手で牧師の両手を抑えて、亜空間から体重を引っ張り出していく。前腕に当たる牧師の喉仏が上下に動く。額に張り付いた髪の毛を伝い汗が顎から落ちる。

更に前腕の形を少しだけアーチ状に変えて牧師の首とぴったりフィットさせる。


「どうだ、苦しいかぁあああ……!」


ケントが充血した目を見開き獣のような形相で地面に牧師を押し付けるが、牧師が首を硬化させて凌ぐ。


「ン゛……――」


更に牧師の全身に硬化が及ぶ。

そして、


「――ハッ!!!」


牧師が砕けたように見えた。直後目の前が眩く白に染まり、車にはね飛ばされたように全身を衝撃が突き抜け、壁に叩き付けられる。


「……ンフフ、まさかスパーキンすることになるとは」


痛い。肋骨がまたズレた。即座に体液と共に循環しているネキア肉で補強。

周囲を見渡す。灰色の廊下が続いている。魔光灯がチカチカと光り、天井から埃が降り落ちてきている。


じゃあ……、牧師はどこだ?左目を真っ赤に輝かせても全眼に反応がない。消えた?そんな馬鹿な。テレポーテーションの触媒は嵩張る。持ち歩ける程度の量の触媒なら全眼の範囲からはとても逃れられない。さっきの声はどこから聞こえた?


そうだ、奴はここにいるはず……。

だが、見えないならばジャグラスを追って――。


第六感。感覚が鋭敏になる。風が天井から吹き降りてくる。それに逆らうように首筋に風、後ろ。耳、左目、鼻に脅威は感じられない。


「!」


咄嗟に反転して後ろを見ると同時に左目を潰され何かに頭蓋へ侵入された。


左目から何かが生えていく。違った。見えるようになっていく。棒、いや、杭?エイリアンの第二の顎?

てらてらとぬめる杭の先には右手の手のひらがあり、さらにその右手は胴体に繋がっていて、その上にはにやにやとこちらを見つめる牧師の顔があった。


透明、無音、無臭。魔光でさえも照らし出せない隠密性。あるいは、一方的な空間の遮断か。

……暗殺が得意なわけだ。


牧師が口を開く。


「楽しかったがこれで終わりですねぇ。ケントさん、あなたの脳を彼らにくれてやるのは実に惜しい。私が食べて差し上げましょう」


眼窩で杭の先が開く。開いたその中から舌が伸びて私の脳を舐めている。

全身に倦怠感がまわる。両腕がだらりと下がり、足からも力が抜けて、左目に刺さった杭が体を支えている。毒か。

右目の瞼もゆっくりと降りてきた。


「ゆっくりとお眠りください」


牧師が口を大きく開けて歯を剥き出しにして私の首筋に噛みついた。


冗談じゃない。


右手を牧師の鳩尾みぞおちにあてがって、右手の中に用意していた小型の杭を打ち出し、牧師の鳩尾から侵襲して心臓を貫いた。次いで、左腕で牧師の横っ面を殴り付ける。しかし、これは硬化で防がれた。


「ンー、カハッ。……何故動けるのですか?」


牧師が血を吐きながら問うた。


「左目はすでに無くした」

「それでわざと左目を……。正気じゃない。やはり、あなたは!」

「眠るのは貴様だ。永遠にな!」


傷口にもう一度パイルを撃ち込むが、すでに皮膚が硬化している。


「グフッ……いえ、まだおやすみの時間じゃあありません」


牧師がまた全身を硬化させていく。


「まだ死なないか!」

(傷付いた部位ならば硬化はできぬはずじゃ!)

「ちっ、発勁!」


破壊した心臓目掛けて勁を飛ばす。が、勁が肘の辺りで抜けたのを感じる。失敗だった。


「また会いましょう」


牧師が血を流しつつも、再び牧師の言うところの「スパーキン」によって爆裂する。その勢いに飛ばされないように踏ん張る。


閃光が消えて右目を開けると牧師の姿はもうなかった。


全眼は使えない。全眼を発動するには左目を回復させる必要があるが、左目の構造は自分でも理解できておらず、自分で形成することができない。どうやら、回復はネキア肉が自然にするに任せる他にないようだ。


つまり、牧師を見つけることもジャグラスを追うことも万に一つも可能性がなくなった。


……いない。血の跡も見えない。


ケントは黙したまま壁を蹴り砕き、それから無駄と分かりつつも地下水路に向かった。


通路の先には広い部屋があった。壁面は白いがそこかしこに焼け跡がつき抉れている部分もあり、床には機械の部品と肉片が散乱している。

さっきの爆発はここで起きたようだな。


「……ぐ」


声がした。生存者がいる。

……いた。若い男が埋もれている。白い鎧ということはミズガルズのガーディアンか。ゼラスに来てから全眼に頼りっぱなしだったので、可視光線で人を見つけるのには意外と時間がかかった。


「大丈夫ですか?」

「く、腹が」


若い男の上に乗っていた頭の一部が欠けた少女を動かし、男の鎧を剥がして腹を見てみる。拳大ほどの破片が埋まっていた。地球ならば致命傷だが、ゼラスでは治療可能な範囲内だった。


「レベルは?」

「……14、です」


私よりも高い。


「ほう。なら大丈夫でしょう。少し痛みますよ」

「うぐうっ!」


左腕から酒瓶と鎮痛剤を取り出して男の傷と自分の右手にぶっかける。

それから、破片を引き抜くと血がドバドバと流れ出した。腹部大動脈は背中側にあるため、流れ出た血は破片に抑えられたものが吹き出しただけだろう。どのみち、血管は回復薬を垂らせば塞がるから大丈夫。問題は臓器だ。右手を男の体内に突っ込んで負傷の具合を確かめる。酸味の効いたひどい臭いが鼻をついた。消化液が体内を焼いているようだ。


「胃と膵臓と腎臓が見当たらないので魔臓を継ぎ足します」

「は、はい」


魔臓は死後も消えずに残った魔物の内臓だ。


魔物の肉体は生き物と容易に癒着し、魔力で上書きすればすぐにでも血液が循環し、免疫反応も生じない。もっとも、そのままでは骨も筋肉も神経も繋がっていないので四肢として使うことは出来ない。思い通りに動かすには更に調整のために異形化改造手術クリティカル・ブレイク・オーグメンションを受ける必要がある。ただし、付加器官オーグメントが臓器である場合には適切に繋げればわざわざ異形化改造手術をする必要はない。人体は血管と免疫さえクリアすれば意外と機能する。神様は人を雑に作ったのだ。


「応急処置だし、オークでいいよな」

「……えっ」

「不快でしょうが耐えてください」


左腕からオークの胃と膵臓を取り出す。腎臓は片方残っているから多分大丈夫だろう。

脳裏で人体の構造図を参照しながら、男の腹に手を入れて膵臓の残骸を探す。手元が真っ赤で見えづらいが少し白めの肉塊を発見した。そこにオークの膵臓をあてがう。


「よし、魔力を込めて」


男が泣きそうになりながら流れ出た血液を触媒にして腹部に魔力を込めると、オークと男の膵臓がギリギリ引っ付いた。


「よし、よくできた。もうすぐです」


次に半分ほど潰れた胃と半分に切ったオークの胃を繋ぎ合わせる。


「はい、魔力込めて」

「ん……ひぃ!」


変な声が出るのも仕方ない。気持ちは分かる。魔力を流せば糸で縫合することなく繋がる魔臓。どことなく、アイロンを当てると接着する布を思い出した。


最後に傷だらけの腹に回復薬をかけてやった。可哀想なので少し高めの回復薬にしてあげた。


「で、ジャグラスがどこに行ったか見ましたか?」

「ひい!顔が、抉れてる!」


若い男が私を見て恐怖に顔をひきつる。

気になって落ちていた剣に自分の顔を写してみると、確かに私の左半面はほとんど穴になっていて、イソギンチャクのようにその縁から肉芽が伸びている有り様だった。これはキモい。しかし、今は置いておこう。


「同志!名前は?」

「は、はい!!一番隊14席、イグレシアスであります!」

「同志イグレシアス、ジャグラスを見ましたか?」

「いいえ、爆発により気を失いまして」

「何が起こったのか説明してくれますね?」


震える声でイグレシアスが話し始めた。


「はい、ジャグリム邸に侵入してこの部屋に到達すると、歩行戦車ゴーレムと遭遇して……更にゴーレムと交戦中、突如大量のオートマタらしき物に襲われ、僕たちの隊は壊滅しました。……そして、突然オートマタとゴーレムが爆発して」

「それでこうなったのか」


周囲に散乱している少女がオートマタだろう。近付いて調べてみると、おかしなことにオートマタ頭部に脳が搭載されている。

順調に喋っていたイグレシアスが急に気付いたように不審げな視線を向けた。


「……あなたは誰です?」


気付いたよう、ではなく気付いてしまったようだ。

痛みと不快感と薬(今回は違法な自白剤ではなく鎮痛剤の副作用)、それから助かるという安心感。これらは尋問の際に口を緩ませるのにいつも使っていた手段だ。

それを踏まえると、私がミズガルズと無関係であることに彼が気付いたのは早い方だろう。


「……私は仇を追っているだけです」


それから黙っていると、ゆっくりとイグレシアスが舟を漕ぎ始めた。レベルが高いので鎮痛剤が効かない可能性を考慮して大量に掛けたので眠くなるのも仕方がない。


「じきに仲間が来るでしょう。今は休むといい」


突入する前に見たアダムの勢いならば、すでにここまで到達していてもおかしくない。まだ来ないということは、ミズガルズは予想より苦戦しているようだが、それでも間もなく来るだろう。


イグレシアスが眠ったのを確認して、周囲の確認をした。

脳味噌付きのオートマタなんて、この一年でかき集めた知識の中に一つもない。


「特別」なものであることは明らかだった。

後日


ケント「教会のディナー覚えてる?」

アイナ「ビーフシチューでしょ。牧師さん、なかなか料理上手だったわね」

シアン「うむ、なかなかの手腕じゃった」

アイナ「お肉が柔らかくて、それから香ばしい匂いがして、シチューも濃厚でほんと美味しかったー。また食べに行こうかしら」

シアン「もうあそこにはおらんだろうがな」

アイナ「んー?」

ケント「あれさ、人間の肉だって」

アイナ「……?…………?」

ケント「だから、あれ人間の」

アイナ「……?」

ケント「……」

アイナ「え」

ケント「シチューは多分脳だな」

アイナ「」

ケント「もちろん人間の」

アイナ「なに言ってるのかわからないんだけど……」

シアン「あの牧師、裏で人殺しを稼業にしておっての。とんでもない聖職者じゃ」

ケント「食べたことない味だったろ?」

アイナ「私、人を食べちゃったの?」

ケント「うん」

アイナ「……きゅう」バタッ

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